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【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈2〉探偵小説に溺れる日々

〈2〉探偵小説に溺れる日々

 そんな理緒の一番の楽しみと言ったら、それはもちろん探偵小説を読むことであった。
 理緒の部屋には古い本棚があって、そこにはホームズとかポアロとか明智小五郎とか、歴代の名探偵の活躍がおさめられた分厚い本が、おそらく百冊以上、隙間なく並べられていた。
 もはやそれは、棚は棚でも、理緒にとっては「本棚ほんだな」というより「神棚かみだな」のような存在だった。神話に出てくる輝かしい英雄のような名探偵たちと、彼らの宿敵たる魔物のような犯人たちをまつったこの聖域は、理緒の部屋の壁ぎわにどんと鎮座ちんざし、古い木と紙の匂いをむらむらと立ち昇らせながら、この部屋を小学四年生女子のものとは思えない、おどろおどろしい空間に変えていた。

 しかし、理緒が読破した探偵小説は、この本棚に祀られたものだけではない。理緒は学校の図書室からもたくさんの本を借りて読んでいた。
 図書室には理緒が喜びそうな本がたくさんあったし、何ヵ月かに一度、新しい探偵小説が入荷することもあった。だから、理緒は足しげく学校の図書室に通い、まだ読んでいないものはないか、それこそ犯行現場に臨む探偵のような観察力で、「事件」とか「殺人」という言葉を求め、ずらりと並ぶ本の背表紙を端から端まで検証していたのである。

 そんな努力のかいがあって、今日の放課後、理緒は図書室で一冊の探偵小説を借りることに成功した。それは『七つ首ななつくび学園の怪事件』という、なんとも物騒なタイトルの本だった。
 『七つ首学園の怪事件』はこの春、入荷したばかりの新刊で、理緒はそのことを図書室の掲示物で知り、ぜひとも読みたいと前から思っていたのだが、意外とこの本は人気らしく、いつも誰かに借りられていた。そうなるとますます読みたくて仕方ない理緒は、休み時間も放課後も図書室に張り込み、ようやく今日、図書室の返却棚に置かれているところを取り押さえ、遂にこの本を自宅へ連行することができたのだった。

「いつも誰かが借りてたってことは、きっと人気の作品なんだ。楽しみだな。」
理緒は夕食後、風呂も宿題もぜんぶ済ませ、『七つ首学園の怪事件』を自分の机の上に置きながら、そんなことをつぶやいた。夜、眠たくなるまで探偵小説を読みふけるのが、理緒にとって何より幸せな時間なのだ。
 理緒はゆっくりと椅子に腰かけた。
「これから身の毛もよだつような、恐ろしい事件がはじまるんだ。」
そう思うと、理緒は身震いした。部屋の明かりは消され、机のライトが本と理緒の周りだけをぼんやり照らしている。闇に包まれた彼女の背後には例の本棚があって、過去に読破した百冊以上の探偵小説が、まるで理緒を物語の世界に飲み込むかのように、黒く高くそびえていた。

目次〉〈次回

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山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。