【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈3〉ゆるしがたい犯行
〈3〉ゆるしがたい犯行
理緒は机の上の『七つ首学園の怪事件』と向き合うと、胸をときめかせながら、その表紙を眺めた。
「この物語には、どんな謎が隠されてるんだろう。」
理緒の心を揺さぶるのは、「夢」という希望に満ちた言葉でもなければ、「恋」という甘く儚い言葉でもなく、なにより「謎」の一文字だった。犯人・トリック・動機…謎が深ければ深いほど事件は怪しげな魅力を増し、理緒は深く物語の世界へのめり込むのであった。
「この物語も、きっと私を恐ろしい謎で楽しませてくれるに違いない。」
理緒はそう確信しながら、心地よい緊張を帯びた手つきで、『七つ首学園の怪事件』の表紙をめくった。
しかし、本が開かれた瞬間、理緒の指は凍りついたように固まった。たいていの本がそうであるように、この本の最初のページには、小説のタイトルが大きく印字されていた。
「七つ首学園の怪事件」
しかし、その文字の脇の真っ白い余白に、殴り書きのように汚く、それでいて読む人をバカにしたようなふざけた筆跡で、
「犯人は高橋」
と赤い文字が書き込まれていたのだ。
理緒はしばらくの間、何が起きたのか分からなかった。赤い文字を見つめたまま、心も体も固まっていた。しかし、
「犯人は高橋」
というこの短い言葉が、とことん最低な一言だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
これはちょっとしたメモ書きではないし、また、善意で書かれたものでもない。このラクガキは、前にこの本を読んだ人による、心ないイタズラなのだ。この本は推理小説である。みんな犯人を推理しながら読む。その本の冒頭に、事件の犯人の名を書き込むことで、これからこの本を読む人の楽しみを、根こそぎ奪ってしまおうというのだ。
しばらく呆然としていた理緒だったが、だんだんと悲しみが込み上げてきた。
「どうしてこんなことをするの?」
謎や事件に心踊らせる彼女であったが、現実の悪事に対しては、それなりの正義感を持っていた。まして、探偵小説を愛する彼女にとって、一番の謎である犯人をバラす行為は、読者の楽しみを奪うことはもちろん、この物語を死にもの狂いで築き上げた作者をも冒涜する、絶対に許せない犯行だった。
「こんなことして何が面白いの?まして、図書室の本にラクガキするなんて!」
理緒の悲しみは、やがてラクガキ犯に対する憤りに変わった。
「せっかく楽しみにしてたのに…やっと借りられたのに…」
理緒は目に涙を浮かべながら、机に伏した。
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