【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈4〉名探偵誕生!?
〈4〉名探偵誕生!?
その時だった。理緒の背後から、男のものとも女のものとも思えない不思議な声が聞こえてきた。
「君が…を…見つける…」
その声は、一人の人間の声ではなく、たくさんの声が重なっているような、輪郭のぼやけた声だった。理緒はゾッとして顔を上げ、思わず振り返った。
「だれ!?」
しかし、そこに人はいない。例の本棚が高くそびえているだけである。
「おかしいな。気のせいだったのかな。」
理緒はそう思い、再び本棚に背を向けた。しかし、その瞬間、
「君が犯人を見つけるんだ!」
と、怒鳴るような声が、やっぱり理緒の背後から聞こえてきたのだ。
「ひいぃ!」
理緒は震えあがった。
再び振り返り、理緒は本棚を見つめた。
「…」
何も聞こえない。しんと静まり返っている。しかし、じっと棚に並んだ本を見ていると、さきほど聞こえてきた言葉が、なんども頭にこだまするような気がしてきた。
「君が犯人を見つけるんだ…君が犯人を見つけるんだ…」
黒くそびえる本棚には、名探偵たちの数々の偉業が並んでいる。ロンドンを股にかける盗賊団と戦ったホームズ、帝都の闇で怪人と切り結んだ明智小五郎、穏やかに、しかし粛々と殺人犯を追い詰めたマープル。時代や国も違うし、性格なんて驚くほどバラバラ。だけど、本棚の名探偵たちはみんな、悪を憎み、真実を追求していく。
そんな物語を走馬灯のように思い出していた理緒の口から、ふとこんな言葉が漏れた。
「私が犯人を見つけるんだ…」
それは小さくとも、たしかな覚悟を秘めた声だった。
理緒は自らに言い聞かせるように、もう一度、同じことを呟いた。
「そうだ。私が犯人を見つけるんだ。」
すると、その言葉と呼応するように、心の奥から、正義感と復讐心を混ぜたような熱い怒りが、メラメラと燃え上がってくるのが、理緒には分かった。それは、かつて理緒が感じたことのない、強い感情だった。
理緒の言う犯人とは、もちろん『七つ首学園の怪事件』の真相をバラした、憎きラクガキ犯である。理緒は、その犯人を自分で見つけると言っているのだ。
「私が犯人を見つけるんだ!本にラクガキをした人、絶対に許さない!」
理緒は立ち上がると、本棚に向かって語りかけた。
「私は今まで、あなたたち名探偵の推理を読んで楽しむだけだった。だけど、今度は違う!」
理緒は身振りを加えながら熱弁をふるう。
「これは私の身に起きた事件。いくらあなた達が名探偵だからって、本の中から解決してはくれない。だから、これは私自身が解決しなきゃならないんだ!」
夜、小学生女子が本棚に向かって話しかけているのだから、これはこれでずいぶん怪しい不審者だ。もし人前でやっていたら、パトカーか救急車が飛んでくるだろう。
しかし、そんな理緒へ、本棚の名探偵たちは、もう一度あの不思議な声を聞かせた。
「そうだ!君が犯人を見つけるんだ!」
それは幻聴だったかもしれない。あるいは、理緒の気のせいだったかもしれない。しかし、理緒にはその声がはっきり聞こえたし、探偵を敬愛する理緒にとって、本棚の名探偵の言葉は、親や先生など他の誰の言葉より、心にまっすぐ響くのだった。
理緒は名探偵たちの声に応えるように、夜の闇に咆哮した。
「私が必ず犯人を見つけてみせる!私も名探偵になるんだ!」
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