【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈37〉おじいちゃんの正体
(注意)
この作品は連載ミステリで、記事の中で事件の犯人などが明かされています。
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〈37〉おじいちゃんの正体
「おじいちゃん?いきなり何の話?」
そう言って、先生は鼻で笑いながら、理緒のスケッチブックを眺めた。そこには、空き家で眠る猫の絵と、それに対する先生のコメントが並んでいる。
「うまい!おじいちゃん描いたんだね」
しかし、理緒はスケッチブックではなく、本のラクガキを指差しながらこう言った。
「私はラクガキ犯を捜査している中で、ある重要な手がかりを見つけました。それが、これです。」
理緒は「犯人は高橋」のラクガキに虫メガネをかざした。
「この一文字目の「犯」を見てください。」
先生は言われるまま、虫メガネに顔を近づけて、レンズに拡大された「犯」の文字を眺めた。
「この字がどうかしたの?」
理緒は先生に尋ねた。
「先生、「犯」という漢字は何偏の漢字ですか?」
先生は当たり前のように答える。
「え?獣偏だけど?」
「そうです。獣偏です。でも、このラクガキの「犯」の字、私には手偏に見えます。縦の棒が真っ直ぐになってますし、それに、一画目が右上に向かって書かれています。これは手偏の書き方です。」
先生は黙ってレンズの文字を見つめている。
理緒は虫メガネをラクガキからそっと離した。それにつられて、先生もスケッチブックから目を離し、理緒の方を向いた。
「この「犯」の字から分かるように、ラクガキの犯人は、獣偏の書き方がおかしくて、手偏に見えてしまうんです。獣偏と手偏は形がよく似ています。もしかしたら、自分では書き分けているつもりなのかもしれませんが、見ている人には見分けがつかないんです。これは、筆跡という、犯人を特定する上での大きな鍵になります。」
「だからって、どうしてこのラクガキを私が書いたことになるの?」
「これを見てください。」
そう言って、理緒はスケッチブックの先生のコメント「うまい!おじいちゃん描いたんだね」のうち、その中の「描」の一文字に虫メガネをかざした。
「私は先生のコメントを見た時、「おじいちゃん描いたんだね」と読みました。だから驚いたんです。「おじいちゃんなんていないのに」って。でも、その時、先生の「描」とラクガキの「犯」が繋がったんです。先生は絵のコメントに、「うまい!おじいちゃん猫いたんだね」と書いたつもりなんじゃありませんか?私は先生に、空き家に棲むヌシというオス猫の話をしたことがありました。先生はそのことを覚えていて、私の絵の猫を、年老いたオス猫、つまり、「おじいちゃん猫」と表現したんじゃありませんか?」
それは図星だったらしい。先生の肩は小さく震えていた。そして、どうやら先生は、理緒の推理の先に、自分がラクガキ犯だという逃れがたい結末が待ち構えていると、このときすでに悟ったようだった。
そんな先生へ向けて、理緒は最後の推理を披露した。
「「猫」と「描」は同じつくりで、違いは獣偏か手偏かだけです。先生は「猫」と書いたつもりだったけど、それが手偏に見えたことで「描」になってしまい、「おじいちゃん描いたんだね」という誤解が生まれてしまったんです。それに気づいた時、これはラクガキの「犯」の字と、全く同じ現象だと思いました。どちらも、獣偏が、手偏に見えてしまっている。そして、そんな現象が起きたのは、この二つの文字を書いたのが、同一人物だからとしか考えられません。ラクガキは誰が書いたかわかりませんが、スケッチブックのコメントは、紛れもなく先生が書いたものです。だから私は、先生がラクガキの犯人だと確信しました。これが、先生が犯人だという、決定的な証拠です。」
動かぬ証拠を突きつけられ、先生はもう何も言い返さなかった。じっと黙って、自分が書いたコメントを忌々しそうに見つめている。
もう先生に言い逃れをするつもりはないことが、理緒には伝わってきた。理緒の推理は、みごとに的中していたのである。
しかし、理緒はぜんぜん嬉しくなかった。自分の推理が当たっていたのだから、本当は喜んでいいはずだ。それなのに、理緒は嬉しくないどころか、悲しかった。心のどこかで、「先生が犯人であって欲しくない。自分の推理が外れていればいいのに。」と、願っていたのかもしれない。
理緒は、張り詰めていた口調を弱め、穏やかに語りかけた。
「私は、「犯」の字が間違っていることを手がかりにして、捜査を進めました。でもその結果、鷹羽くんが犯人であると誤解してしまったんです。そのせいで探偵をやめようとさえ思いました。だけど、皮肉なことに、今度はその「犯」の字が、先生が真犯人だって教えてくれたんです。」
外では雨が降り続いている。二人の沈黙を埋めるように、雨音は強さを増した。
「犯人が先生と分かってから、私はそのことを先生に言おうか迷いました。私はもう探偵じゃないと思っていたし、それに…私は先生のことが好きだから…。だったら、別に言わなくてもいいかなって…。しかし、それでも私は真実を追い求めなきゃならないと思いました。いろいろ悩んだけど、やっぱり私は探偵です。真実をねじ曲げるのと同じくらい、真実を隠してしまうのも罪深いことだと思ったんです。」
先生はいつしか机から目を離し、窓の外をぼんやり眺めていた。
理緒はそんな先生へ、最後にひとつ残っている、どうしても解くことができなかった謎をぶつけた。
「でも、私にはひとつだけ、解き明かせていない謎があります。なぜ先生はこんなことをしたんですか?先生がおもしろ半分で本にラクガキするなんて思えません。私には、いくら考えてもそれが分からないんです。犯人の動機が分からない以上、事件は解決したとは言えません。先生、お願いです。なぜこんなことをしたのか、そのわけを教えてください。」
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