【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈35〉涙の推理
(注意)
この作品は連載ミステリで、記事の中で事件の犯人などが明かされています。
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〈35〉涙の推理
「この本にラクガキした犯人、先生ですね。」
理緒の言葉は、冷たい空気が流れる教室にいつまでも重い響きを残し、二人の間に、永遠に終わりそうもない深い沈黙をもたらした。
理緒は、その先に言葉を繋げることができなかった。ただ黙って目を伏し、手にした『七つ首学園の怪事件』を握りしめるだけである。
沈黙を破ったのは先生だった。先生は採点に使っていたペンを机に置くと、ありったけの笑顔を浮かべて理緒にこう言った。
「小寺さん!前は私のこと「警部」って呼んだけど、今度は「犯人」?私は「先生」だよ。でも、ちょっと安心したな。さっきの授業で探偵の話題がでたのに、小寺さんぜんぜん反応しなかったでしょ?もう、探偵は飽きちゃったのかと思ってたよ。」
それは、マジメな先生にしては随分ひょうきんな口振りだった。どうやら、重い空気を和ませようとしているらしい。
しかし、理緒が強張った表情を崩すことはなかった。
「あの時は、もう探偵はやめようと思っていたんです。でも、私はやっぱり探偵でした。それに、「犯人」は言い間違いじゃありません。」
先生の笑顔は俄に曇り、眉毛をハの字にして、鼻からフゥと息を吐いた。それは、生徒を叱るときによくやる先生の仕草だ。
「いったい、どういうことなの?」
理緒は『七つ首学園の怪事件』を机の上に置いた。そして、表紙をめくり、「犯人は高橋」と書かれたページを開いた。
「このラクガキは前に見せましたよね?」
「ええ。」
「私はこのラクガキを見つけてから、ずっと犯人を探してきました。」
「そうなの?まるで探偵さんじゃない。」
クスッと笑った先生に、理緒は捜査の進展を語った。
「この本を借りたのは、私以外に五人いました。四人にはすぐ会って話を聞くことができて、その結果、その人たちは犯人じゃないと分かりました。そして残る一人、三年生の鷹羽くんを私は犯人だと踏んで、彼の元へ乗り込みました。だけど、彼も犯人じゃありませんでした。私が間違っていたんです。」
「あら。」
「鷹羽くんには申し訳ないことをしてしまいました。だけど、彼との話の中で、私はこの本にまつわる、とても大事なことを聞かされたんです。」
「へえ。」
「私はその事を聞いてから、ずっとずっと、頭の中で何かが引っ掛かっていました。しこりがあるみたいに、何かを見落としているような気がしていたんです。でも、今朝ようやく、その引っ掛かりが解けました。」
理緒はここまで話して、ようやく先生の顔を見た。色白で艶のある肌の奥に、わずかに興奮しているのか、ほてったように血の気が差していた。
しかし、その色白の先生は、ぐっと眉間に深い皺を作ると、少々イラ立たしげに言った。
「小寺さん、ちょっと話が見えて来ないな。鷹羽くんに何か大事なことを聞いて、それから頭の中で何かが引っ掛かってた?「何か」が多すぎて分からないよ。」
理緒は話の矛先を変えた。
「先生。私がラクガキを見せに来た時のことを思い出してください。あの時、先生はこの『七つ首学園の怪事件』を過去に読んだことがあると言ってましたよね?」
「え?そうだけど。小学生の時にね。前に話した通りだよ。」
「その時に先生、私に物語の内容を教えてくれましたよね。」
「まあ、ざっくりね。」
「すみませんが先生。もう一度、私に『七つ首学園の怪事件』のあらすじを教えてくれませんか?」
「え?」
「お願いします。」
理緒に同じ話をもう一度するように言われ、さすがの先生も、「えー、また?」と言って呆れた。しかし、
「お願いです。簡単でいいので。」
そう頼む理緒の表情には、並々ならぬものがあったらしく、先生はその真剣さに押され、もう一度、本のあらすじを話しはじめた。
「えーと、たしかこの本は、七つ首学園という学校を舞台に、いくつかの奇妙な事件が起きるんだけど、その犯人が、一見カッコよくて正義感の強い高橋って男で、高橋は良い人のふりをして、実はみんなを騙してた。こんな感じかな。前に話したよね?」
理緒は再び俯いた。涙が込み上げてきた。
理緒は声を振り絞った。涙をこらえていたので、その声はところどころ上ずった。
「先生、私がずっと引っ掛かってたのは、今、先生が話してくれたこと、その内容だったんです。はじめにラクガキを見せたとき、たしかに先生は、今言ったのと同じことを私に教えてくれました。それが『七つ首学園の怪事件』のあらすじだって。でもそれが、とてもおかしなことなんです。そして…そしてそれが、先生がラクガキの犯人だと物語っているんです!」
先生はダンッと机を叩いた。
「いいかげんにして、小寺さん!何が言いたいの!?」
理緒はギュッと目を閉じ、あふれる涙を頬に流しながら言った。
「先生。『七つ首学園の怪事件』の犯人は、高橋じゃありません。」
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