【純愛ホラー】ツインテールとドッペルゲンガー〈11〉告白
ツインテールとドッペルゲンガー
この小説には、暴力・性描写などが含まれます。また、作中に登場する学説は作者の創作です。
〈11〉告白
彼女がこれまでに味わってきた苦難は、俺に深い同情を与えた。しかし、これで彼女への話が終わったわけではなく、むしろ、ここからが今日起きた事件の本題である。
それはもちろん、ドッペルゲンガーについての話であり、そのことが唯一、罪の意識に苦しむ彼女にとって、救いになる可能性を秘めているのだ。
俺はこれまでにないくらい声に熱を込め、彼女に話の続きを語った。
「たしかに君はあの子を恨み、殺したいと思った。だけど、さっき君は、自分の姿を後ろから見たと言っただろう?目の前の自分が、あの子を殺すのを見たとも言った。それは、あの時、君が分裂したからなんだ」
「分裂!?」
「そう。人間というのは、心の中で二つの矛盾する感情を同時に抱いた時、体ごと二つに分かれてしまうことがある。それをドッペルゲンガーと言うんだ。
あの子に彼氏ができたと知った時、君は確かにあの子を殺したいと憎んだ。でも一方で、それを止めたい気持ちもあったんじゃないか?殺したい気持ちと止めたい気持ち。矛盾する二つの感情。それが、一つの体に同居してしまって、あの瞬間、君を分裂させたんだ」
◆
ずっと彼女の心理を追いかけてきて、俺は思いの外、彼女の悩みに深く立ち入っていることに気がついた。もしかしたら、彼女自身が処理できていない、複雑に絡み合った心の綾を、今の俺ならば解きほぐしてやれるのではないか。そう思った。
そこで、俺は思い切って、彼女の心に一歩踏み込んでみることにした。
「そもそも、君は彼氏なんていらないと言ってたらしいが、決して、そればかりが本心ではなかったんじゃないか?当たり前に彼氏が欲しい気持ちや、男性への興味も持っていたし、もしかしたら、人一倍その想いが強かったのかもしれない。「彼氏なんていらない」と言い張る態度こそ、恋愛や異性に対する強い興味の裏返しだから」
彼女は俺の言葉に少し驚いたようで、目を丸くして俺を見上げた。しかし、おそらく自分でも無意識に、その感情に気づいていたのだろう。俺の言葉を静かに受け入れたようだった。
彼女は無言のうちに、強張っていた表情を少し緩めると、話の続きを促すように、そっと視線を俺の胸に落とした。
「あの子と会ってから、君は話を合わせて男性を拒否していた。だけど、その間もずっと、密かに男性を求める気持ちも持ち続けていて、その二つの感情の間で葛藤していたんだと思う。
だから、あの子に彼氏ができたと知ったとき、裏切られて憎くもあったけど、同時に、あの子の決断を理解する心も自然に芽生えた。自分だって、男性に告白されて嬉しい気持ちは、よく分かるから」
彼女は、いつしか泣きやんでいた。その猫のように大きな瞳で、今は俺の肩を通り越してどこか遠くを見つめている。その表情は、一時的に気持ちが落ち着いたというより、憑き物が落ちたように、どこか爽然とすらしていた。
その横顔を見ていると、俺はもう、この子が可愛くて仕方なくなってきた。
なぜだろう?彼女の殺人に対する怒りも、彼女に対する動物的性欲も、とっくの昔に俺の中から消え失せてしまって、その代わりに、純粋に彼女を可愛いと思う気持ちで、俺の心は満ちてきたのだ。
◆
そんな俺の気持ちなど知らない彼女が、遠くを見たまま、突然ぼそりと呟いた。
「私の中に、あの子を殺したいと思う自分がいたんだ……」
俺は正直に答えた。
「たしかに、俺は初めて君を見た時、可愛いけど勝ち気な印象を持った。信念を持っていて、自負が強そうに見えた。だが、そういう人間は、他人の言動を受け入れられないことも多い。強そうに見えて、実は脆くもあるんだ。
俺はさっき、もうひとりの君、つまり、君のドッペルゲンガーを見たけど、その表情はまるで野獣みたいに殺気立っていた。だから、俺は死体を見た時、二人の間に何か諍いがあって、激情したあいつがあの子を殺したと直感したんだ」
殺人の場面を思い出したのか、彼女の目に再び涙が込み上げてきた。俺は慌てて弁明した。
「でも、さっき言っただろ?君は分裂したんだって。だから、あいつはもう君とは別人なんだ。
あの子を殺したいと思ったのはあいつで、君じゃないんだ。君はあの子を殺そうなんて思わなかった。許そうと思った。そうだろ?」
俺の必死の問い掛けに、彼女は黙って頷いた。俺は安堵すると同時に、体の芯が蕩けるように熱くなるのを感じた。もう、彼女のことが可愛くて可愛くてしかたなかった。
俺は恐る恐る、彼女の頭に手を乗せた。そして、その流れ落ちるシングルテールを、結び目から毛先まで、優しく静かに撫で下ろした。
引っぱられて張り詰めていた時と違い、自然に垂れ下がるその黒髪は、柔らかくふんわりとしていて、逆立つ毛の一本もなく、従順に俺の手を受け入れた。
「君はさっきまでツインテールだった。でも今は、髪型が変わってる。俺はこれを見て分かったんだ。君の心は二つに分かれたんだって。
たしかに、前の君の中には、恋愛を拒否する偏屈な面や、裏切った友人を殺す残虐な面もあった。だけど、この髪を二人で分け合ったように、君と君のドッペルゲンガーは、心も二人で分け合ったんだ。
友人を殺すような残虐な部分は、全部ドッペルゲンガーが持っていった。だから、今ここにいる君には、そんな心は残ってない。今の君が持っているのは、彼氏ができた親友を心から祝福できる優しさ。そして、恋愛についても、自分の心に正直でいられる素直さ。そういう純粋な心だけを、君は引き受けたんだ」
◆
俺は感極まってしまい、自分でも鼻につくくらい、自分の言葉がキザになっていると思った。
そもそも、俺はついさっきまで、欲情に駆られて彼女を凌辱していたのだ。そんな男が今、彼女の心に同情し、優しい言葉をかけているのである。これでは、せめてもの罪滅ぼしとして、彼女を慰めていると見られても仕方あるまい。
俺は自身に問うた。
「俺の言葉は本心だろうか?それとも俺は、彼女に取り入るために優しい言葉をかけているだけなのか?」
すぐに答えは出なかった。考えれば考えるほど、これまで彼女に抱いてきた様々な感情が、俺の頭の中で渦巻いた。
俺は彼女を一目見て心を奪われた。恋心など一気に通り越し、欲情した。そして、俺はその欲望のままに、彼女に乱暴したのだ。
それはこの上なく汚い行為だった。だが俺は、どんなことをしても彼女を手に入れたかった。罪を犯しても、彼女を傷つけても、それでも俺は彼女を抱き締めたかった。
一方で今、俺は彼女のことが愛しくてたまらなくなっている。今度は彼女に、果てしない優しさをかけたいと思っている。行動が一貫していないかもしれない。欺瞞に見えるかもしれない。しかし、それはやはり俺の本心だし、その心にも嘘はないのだ。
◆
俺はもう一度、自分の心を正直に見つめた。
「俺は彼女をどう思っている?」
俺の心に浮かんだのは、初めて見た時から今の今まで、俺はずっと彼女に夢中ということ。それだけだった。
そう。俺は一目見たときから彼女に惚れ込んでいるのだ。彼女の視線に射抜かれた時、俺の中で理性も常識も、すべて壊れてしまった。夜の闇のせいでも、暗澹たる森のせいでもなく、彼女の魅力こそが、俺がそれまで纏っていた真人間の衣を剥ぎ取ったのだ。
俺はあの時、自分の本能に従うことが宿命づけられた。どんな手段を使っても、誰に文句を言われても、どんな裁きを受けたとしても、どこまでも純粋に彼女を求めると、あの時、俺は決めたのだ。
俺は、ようやく自分の心に気がついた。
そうだ。俺は彼女が生きてこの世界にいるということが、堪らなく嬉しいのだ。そして、その美しい彼女の体と心に、この手であらゆることをしたいのだ。
泣き叫ぶまで苛め抜いてもやりたい。
甘い声が漏れるまで可愛がり尽くしてもやりたい。
それは矛盾なんてしていない。俺が求めているのは、彼女が俺の側にいて、俺の言動に反応するという、たったそれだけのことなのだ。俺は彼女に、思いつく限りあらゆることをやりまくり、こんなにも美しい女性が俺の側にいるという奇跡のような現象を、この手で確かめたいのだ。
◆
気持ちに正直になった俺は、自分の心を止めるべくもないと、よく分かった。
俺は俯く彼女へ、俺の本心を打ち明けた。
「俺は君にあんなことをしてしまったけど、謝りはしない。むしろ、これからも君に同じことをするつもりだ。
俺は初めて君を見て、一目で心を奪われたんだ。そして同時に欲情した。だから、君を襲った。
本当だったら、声をかけて、告白して、付き合ってという道筋を辿るべきだったと思う。それを俺は全部すっ飛ばした。だけど、今、俺がその先に行き着いているのは、ただ君のことが愛しいという、その想いだけなんだ。
君はドッペルゲンガーと分裂した。だから、あいつとは違う道を歩んでいる。君はあいつのような残酷な人間じゃない。素直で優しい人間だ。俺は、そんな君が可愛くて仕方ないんだ」
言い終えて、俺は彼女を抱き寄せた。彼女は驚くこともなければ、嫌がることもなく、何も言わず、ただ、俺の胸元を見つめていた。
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