見出し画像

【探偵コメディ】小学生探偵 小寺理緒〈20〉理と緒を武器に

〈20〉理と緒を武器に

 帰宅した理緒は、晩ご飯をかき込み、ひとっ風呂あびてから、早々に自分の部屋にこもった。そして、びっしりと情報が書き込まれた例のメモ帳を机に威勢よく叩きつけると、自分はベテラン刑事みたいに、どっかりと椅子に腰かけ、さも偉そうに腕を組んだ。
「よし。取り調べは済んだぞ。ここらで話を整理するか。」
 はじめは雲をつかむようだったこのラクガキ事件であるが、今日の取り調べを経て、一気に具体的な形を帯びてきた。本を借りた容疑者たちの姿、そして、彼らの証言が手がかりとなって、やっとこの事件が、ひとつの物語として理緒の頭の中で構築されてきたのである。
「やっぱり、足で稼いだ情報が捜査を進展させるんだ。いよいよミステリらしくなってきたな。」
 たくさんの推理小説を読んできたからだろうか、この事件の核心に、ぐんと迫った成果が理緒にはハッキリと感じられた。今日の捜査、新人探偵としては上出来だろう。

 とはいえ、まだ犯人が分かったわけではない。理緒は今日得られた情報を元にして、犯人を推理してみることにした。理緒はメモ帳に書き留めた内容を、『七つ首学園の怪事件』を借りた順番に従って、以下のようにまとめた。

(2年)斉藤・・・・ラクガキなし。難しくて読めず。
(5年)ダニエル・・ラクガキなし。漢字読めない。
(?年)高橋・・・・所在不明。
(6年)篠原・・・・ラクガキあり。漢字の勉強好き。
(4年)佐々木・・・ラクガキあり。捜査について相談。

 まず証言として重要なのは、ラクガキのあるなしだ。それによって、犯行の行われたタイミングがつかめる。単純に考えると、ダニエルの時になくて、篠原の時にあったのだから、その間の高橋にのみ犯行は可能ということになる。
 しかし、それは全員が本当のことを証言していればの話。ラクガキ犯がウソをついている可能性があるのだ。たとえば、篠原が犯人で、「もうすでに私の時にはラクガキされていた」とウソをつくような場合である。そういう可能性を考慮に入れると、まだ犯人を断定することはできそうにない。

 ただ、一方で、斉藤と佐々木は容疑者から除外してもよさそうだ。斉藤がラクガキしたなら、ダニエルがラクガキを見ているはずだし、また、篠原がラクガキを見ていたということは、その次に借りた佐々木がラクガキを書くことはできない。
「となると、犯人は、ダニエル・高橋・篠原に絞られたわけか…」
まるでパズルを解くように、理緒は、ことわりの字に恥じぬ論理力で、着実に推理を進めていった。

 しかし、理緒の推理はここで早くも行き詰まった。ラクガキの証言を元に話を進められるのは、どう頑張ってもここまでである。
 理緒は刑事がよくやるみたいに、イラだたしげに指で机を叩いたり、椅子から立って部屋をぐるぐる歩き回ったりした。しかし、ぜんぜん推理は進まないどころか、かえって疲れてしまって、バタンとベッドに倒れこんだ。
「あー!どうしたらいいんだ。」
犯人の目星がつかないことには、この先、捜査をどう進めるべきか決められない。理緒は途方とほうに暮れた。
「だめだ。私の推理力もこれまでか。もう先へ進めないよ。」

 うなだれる理緒の目に映ったのは、一日を通して持ち歩いていた探偵カバンだった。探偵道具一式と、そろばんが入っている、あの赤いチェックのカバンである。
 理緒は起き上がると、なんとなくカバンから中身を出し、そのうちのひとつ、そろばんを手に取った。
「これ、使わなかったな。」
そろばんはカムフラージュのために持っていたのだ。使わなくて当たりまえである。
 理緒はそろばんをシャカシャカと、頭の上で十回くらい振ってみた。なんとなくこうしていると、魔法の杖みたいに、軽快なリズムに乗って名案が浮かびそうな気がしたのだ。が、無論、そんなわけはなく、むなしさだけが部屋にこだました。

 理緒はハァと重いため息をつくと、今度は虫メガネを手に取った。
「そう言えば、これも使わなかったな。」
虫メガネというのは、探偵をあらわすシンボルのような存在だ。探偵はいつも虫メガネを持ち歩き、現場の小さな手がかりを見つけ出していく。今日は聞き込みだから仕方ないとはいえ、そんな虫メガネを一回も使わなかったのは、探偵の初心を忘れているように思えた。そろばんを使わなかったのとは訳がちがう。
 理緒は現場に立ち返ることにした。
「もしかしたら、何か手がかりを見落としてるかもしれない。虫メガネを使って、本をよく見てみよう。」
現場百遍ひゃっぺん。あらゆる探偵の基本精神に従い、もう一度、理緒は現場に立ち返ることにしたのだ。

目次〉〈次回

#創作大賞2023

いいなと思ったら応援しよう!

山田星彦 小説・写真・文学紹介など、たくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。