読書感想文 羽田 圭介 「スクラップ・アンド・ビルド」
羽田 圭介 著「スクラップ・アンド・ビルド」を読んだので感想文を書いてみたい。
「スクラップ・アンド・ビルド」は2015年に芥川賞を取ってる。今から十年前だから結構昔の作品ということになる。主人公の健斗は28歳の職探し中の無職だ。職探しをしながら祖父の介護をやっている。こう書くと介護の話で、優しさみたいなものが前面に出てくる感じと思うかもしれない。
「スクラップ・アンド・ビルド」は奇妙な理論で成り立っている。祖父の介護を積極的にやればやるほど、祖父自身の力を奪っていき死期を早める。だから積極的に介護する選択をする。はたから見れば健斗は介護をよくやる人物とみなされるだろう。でも主観的には死期を早めているのだ。
そういう祖父を見ながら、健斗自身も変わっていき体を鍛え始める。健斗と母と祖父の家族の物語である。そこには介護があり、介護を必要とするもの、介護を行うものがいる。介護とはケアであり、哲学でもケアの理論は大いに見直されている。健斗が学ぶのは怠けるなということだ。祖父が、かたい食べ物をきらい、甘くて柔らかいものしか食べない様子に端的に表れている。
ふと思ったのは「精神医療の専門性」という本の一部分だ。引用してみれば、
もちろん、 利用者に「苦労」を経験してもらうという過程は容易ではない。利用者のなかには、 苦労や課題といった現実に 向き合うことができずに暴力や暴言という形で、ときには 精神症状という形をまとい 表出してしまうことがあるという。
福山氏:でもすごい「 うわー」 と言って、「ばかやろうー」みたいな形で、全然反省の面は出てこなくって、 いつもそうやって逃避しちゃう人で、向き合えないのね。 でもちょっとずつ そうやってクライシスの対応している中で、「一緒に謝るから」とか言って、「ちゃんと悪かったっていうのを思ってるでしょ?」って言ったら、ツーって泣いたりとかする人でね。 そうそう。だから自分だってやりたくないのはわかるけど、どうしてもやっちゃう。なんかあるんだよね、 みたいに言ったら、ちょっと体感幻覚みたいなものがあるみたいだし、 どうも 幻聴もやっぱり ひどいみたいだ し っていう、彼女も病気のところが浮かび上がってくるんだけども、それに対してやっぱりお母さんに攻撃に出ちゃうっていうのはちょっと違うよねって、 あとになってみたら そうやって話はできるんだけども、やっぱり そのときの感情のコントロールってなかなかできなくて 。
「精神医療の専門性」に出てくるのは神業に近い凄い医療の達人が出てくるので、これを普通の人がやるのは不可能でしょう。でも、怠けるなという声とこの部分の声は共鳴する部分があると思う。声が響く空間はある。がんばれは禁句かもしれないけれど、どこかでやらなければいけないときはある。健斗はそれを受け取り、最終的には再就職を果たすことになる。
何かを受け取るのは主体の恣意的な部分が大きい。でも確かに受け取ったのであり、身体的な変化も、たぶん精神的な変化もあるだろう。私自身は「スクラップ・アンド・ビルド」の母の年齢に近い。これから介護を行うことになるだろう年齢であり。もう少ししたら介護される側に回る。そのときどんなことを受け取るのか、そんなことを考えながら読んだ。
