見出し画像

NVIDIA破談3日後、Anthropicが60億ドルでDecart交渉

3年前にできたばかりのイスラエルの1社に、この10日間で少なくとも3社の巨大企業が群がった。最後に名乗りを上げたのはAnthropicだ。Bloombergが8月13日に報じたところによれば、Claudeを作るAnthropicはAIチップ最適化スタートアップDecartを約60億ドルで買収する交渉に入っている。この動きに触れた日本語記事はまだ無い。この記事で分かるのは、Decartが何を作っている会社か、なぜこの数日で買い手の名前が入れ替わったように見えるのか、そしてAnthropicがこのタイミングで動く理由だ。

NVIDIA破談のわずか3日後に浮上した別の名前

事の発端は8月10日の報道にさかのぼる。イスラエルメディアCalcalistechによれば、Decartは当初NVIDIAとの買収交渉がまとまりかけていた。ところが交渉の途中でより高い提示額が現れ、Nvidiaとの話は流れた。

"Those talks collapsed after higher offers emerged."(Nvidiaとの交渉は、より高い提示額が現れた後に崩れた)

その「より高い提示額」の主として名前が挙がっていたのがSpaceXだ。報道時点では60億〜70億ドル規模の取引が「来週にも署名される可能性がある」とまで書かれ、イーロン・マスクは2024年からDecartを注視していたという。ところがその3日後の8月13日、BloombergとFortuneは揃って「AnthropicがDecartを60億ドルで買収する交渉中」と報じた。SpaceXとの交渉がその後どうなったのかは今回確認した記事のどこにも明記されておらず、破談したのかAnthropicと並走しているのかは分からない(未確認)。確実に言えるのは、1つの企業を巡って1週間強のうちにNVIDIA・SpaceX・Anthropicという少なくとも3社の名前が浮かんでは消えている、という争奪戦の速さだ。

DOS・Lucy・Oasis、Decartが売る「チップの節約」

Decartは2023年、イスラエル人エンジニア3人(Dean Leitersdorf・Orian Leitersdorfの兄弟とMoshe Shalev)が設立した。主力製品は同じチップからより多くの計算を引き出す最適化レイヤーで、公式発表によれば最新版のDOS 2.0はエージェント推論で毎秒1,600トークン(業界平均は200)を処理できるという。これに加えて、ライブ動画をリアルタイムで別の映像に変換する世界モデル「Lucy」(服やアクセサリーの試着映像を作るファッションEC向け用途などに使われる)と、ロボティクスや自動運転向けのシミュレーションを作る「Oasis」を持つ。地味な効率化ソフトと見栄えのする生成動画、性格の違う2つの顔を1社で持っている会社だ。

40億ドルが3ヶ月で60億ドルに膨らんだ根拠

Decartの評価額は今年に入って急上昇している。2025年8月時点で31億ドルだった評価額は、2026年5月のシリーズCラウンド(Radical Ventures主導、NVIDIA・Sequoia・Adobe Venturesなどが参加、調達額3億ドル)で約40億ドルに切り上がった。今回報じられている60億ドルという買収額は、そのわずか3ヶ月前の評価額に対して5割増しの水準になる。あなたが普段スタートアップの資金調達ニュースを追っていないなら、この上げ幅の大きさだけ覚えておけば十分だ。1つの会社を複数の巨大テック企業が競り合った結果、価格が短期間で吊り上がったことを示す数字だからだ。

IPO目前のAnthropicが欲しがっているのは「電気代」

なぜAnthropicなのか。TNWは「地味なチップ効率化レイヤーこそが、Anthropicの今の関心事に合っている」と評している。Anthropicは今年6月1日付でSECに非公開のS-1を提出済みで、早ければ10月にもNasdaq上場を目指していると報じられている。急拡大する利用需要をさばくには計算資源そのものを増やすだけでなく、同じチップからより多くの処理を引き出す効率化技術が要る、というのがFortuneが伝える買収動機だ。この案件が成立すれば、Anthropicにとって今年5件目、かつ過去最大の買収になる。ただし取引は確定していない。

"The deal has not been finalized and talks could fall through, said some of the people"(取引はまだ確定しておらず、交渉は破談する可能性があると関係者の一部は述べた)

AnthropicとDecart双方とも今回の交渉についてコメントを避けている。

判断

確認できているのは、DecartというイスラエルのAI最適化スタートアップに対して、この10日間でNVIDIA・SpaceX・Anthropicという少なくとも3社が60億ドル前後の金額で接触したこと、そしてAnthropicとの交渉が現時点で最も新しく報じられていることだ。読者個人が今日動けることは無い。これはB2Bの企業買収であり、Claudeの料金やサービス内容に直接影響が出た事実はまだ確認できていない。AI業界のインフラ動向を追っている人にとっては、「モデルの性能」ではなく「同じチップからどれだけ多くの処理を引き出せるか」という効率化の層に巨大企業が本気で値段をつけ始めた、業界の重心の変化を示す事例として見ておく価値がある。取引が正式に発表されるか、そしてSpaceXとの交渉が実際にどうなっていたのかが分かれば、この争奪戦の全体像がはっきりする。

関連リンク

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー