【秋葉原アンダーグラウンド】第3章 3話
レンは床に叩きつけられた拍子に口の中を切ったらしく、口から血が流れていた。その姿はまるで拷問に近い。
「おい、リツ。このままだと本当に死んでしまうぞ?」
「これで死ぬようなら、地下じゃ秒で死ぬぜ?」
トガは助けてくれない。リツも殺す気でやっている。これが地下世界の常なのか?だとしたら自分の考えは甘かった。覚悟だけでは人を助けるどころか、生きることさえままならない。これがアンダーグラウンドという世界。
レンは半分気を失いかけていた。そのとき、脳裏にマユの姿が浮かんだ。
「そうだ、オレ、マユを助けなきゃ。なに楽になろうとしてんだ?こんなとこで寝てる場合じゃねぇだろ!」
レンの周りの空気が変わった。レンを中心に、空気が渦を巻いているようだった。レンは上半身を起こし、そしてゆっくりと立ち上がった。
「ついに出たか?」
リツは薄ら笑いを浮かべながらレンを見つめている。一方でレンはリツを睨み返している。
「こんなとこで終われねぇんだよ!」
レンはそれまで自身にかかっていた重さを取り払うかのように、拳を思い切り天井に突き出した。空気の塊のようなものが天井にぶつかり、天井に穴をあけ、そのまま稽古場の屋根をも貫いた。稽古場に陽の光が差し込む。
「驚いたな。まさか重力まで跳ね返すとはな。」
トガは穴の開いた天井を見上げ呟く。リツは何も言わずレンを見つめている。
「どうだ?能力を使えた気分は?やればできるじゃないか。」
リツはこれまで見たことのないような優しい顔でレンに話しかけた。
「こんな化け物みたいなやつらが、地下にはうじゃうじゃいるのか?」
レンは息を切らし、誰に問うわけでもないように呟いた。
「ああ、そうだ。ただし、皆がリツのような達人というわけではない。安心しろ。お前は地下に行く資格がある。」
トガが答えると、そりゃよかった、とか細い声でレンは言い、その場に倒れ、今度こそ気を失ってしまった。
「トガ。私がこいつを地下に連れていく。それでいいな?」
「ああ。だがまだ及第点といったところだ。もう少しモノにしてから連れていけ。地上はオレがなんとかする。」
トガはレンを抱え医務室へと運ぼうとする。そのとき、
「トガ、地下では風は吹いたことがなかったよな?」
「ああ。これまでの研究で、風の力が顕現したことは一度もない。」
「そうか。地下に良い風が吹くといいな。」
リツは目を閉じながらそう言うと、どこからか颯爽と風が吹いてきた。穏やかで優しい風だった。
「ところでリツ、レンにかけていた重力は本当に5倍だったのか?」
リツはトガを背に歩きながらこう言った。
「10倍だよ。」
リツが稽古場を後にすると、またどこからか風が吹いてきた。
