【秋葉原アンダーグラウンド】 第8章 8話
それから数ヶ月。アキモトを含む4名は研究に没頭した。初めはチンパンジーの検体を用意し、徐々に精度を高めていった。そしてついにミカサへの投与を行う段階にまで至ったのだった。ミカサは初め怖がってはいたが、オウになだめられると落ち着きを取り戻し、そしてゆっくりと深い眠りに入っていった。
「では第一次ヒト検体への投与を始める。」
「オウくん、そんなにかしこまるな。相手はミカサくんだ。君に絶大な信頼を寄せている。もっと気楽にやりなさい。」
「すみません、先生。さすがのオレでも緊張してしまって。」
「これまでの実験の数々を思い出しなさい。大丈夫、きっと上手くいく。」
はいとオウは頷き、ミカサへの投薬を開始した。薬の効果としては、脳からの電気信号を増幅させ、それを体外へ取り出させるというもの。つまり、全身電気人間となる算段だ。3時間ほどで投薬は終わった。ミカサの脳波に異常は見られない。あとはミカサが目を覚ますだけだった。
「たのむ。目を覚ましてくれ。」
祈るような気持ちでオウはミカサの手を握った。それから半日は経っただろうか、ミカサはついに目を覚ました。
「うにゅ、オウくん?あれ?手なんか握っちゃってどしたの?」
オウは思わずミカサを抱きしめていた。アキモトやロンが近くにいるにも関わらず、強く、長くミカサを抱きしめた。
「ちょちょちょ、オウくん?一体どしたの?み、みんな見てるよ?」
「怖かった。君が目を覚さない未来を想像して震えが止まらなかったんだ。」
よく見るとオウの体は震えていた。ミカサはそれに気付くと、ゆっくりとオウを抱きしめ返した。ロンは至って冷静だったが、アキモトは少し涙を浮かべているように見えた。
「ミカサくんも目を覚ましたことだし、まずは体に異常がないか精密検査をしようか。」
「うーん。特に変化はないっぽいんだけどなぁ。」
「ダメだ。ちゃんと言うことを聞きなさい。」
「はーい。」
ミカサはアキモトに連れられ、研究室の奥で精密検査を受けることとなった。オウはロンと研究室の外へと出ていった。オウはタバコに火をつけ、思いっきり息を吐いた。
「うまいか?」
「あぁ。格別だ。」
「まだ全て終わった訳ではない。ゆっくり味わうのはその後にしろよ。」
「わかってる。」
そう言うとオウはタバコの火を消し、ロンと共に研究室へと戻っていった。すると研究室の奥がなんだか騒がしいことに気付き、慌ててその場へと向かった。アキモトは床に転げ落ちており、ミカサはベッドの上で自分の手のひらを見つめていた。
「どうした?」
「あ、オウくん。私の体、こんなんなっちゃった・・・」
ミカサの両手のひらの間に電気が走っているのが見てわかった。もう力が発現している。予想より遥かに早い結果にアキモトは腰を抜かしていた。
「実験は成功だ。」
「先生、まだそんなこと言うには早すぎますよ。さっさと検査の続きをしてください。」
オウはアキモトの手を取り立ち上がらせた。しかしその後の検査も特段異常は見られず、むしろ電気信号により細胞が活発化し、ミカサの体調は前より良くなっているようにも見えた。ミカサには様々な対象実験が行われたが、それ以外は普通に生活することができていた。
「オウくん見てみて。電子レンジ使わなくてもあっためることができるようになったよ。」
「もはや便利人間だな。」
2人は笑っていた。このまま何も起こらずに穏やかに過ごせるといい。しかし、運命は無常にもその願いを打ち砕くのだった。ミカサは研究室に緊急搬送された。
「先生!ミカサの様子がおかしい!」
「オウくん、落ち着きたまえ。おそらく体中の細胞が活性化しすぎて電気の放出が止まらないでいるだけだ。一旦鎮静剤を打とう。」
鎮静剤によりミカサは穏やかに眠り始めた。オウはそっと手をやろうとしたが、帯電しているせいか弾かれてしまう。それでもオウはミカサの隣で寄り添っていた。
「神様・・・」
神を冒涜した実験であるにも関わらず神頼みとは。しかし今は神しかすがるものはいなかった。しかし神を冒涜した罪は重かった。しばらくするとミカサから大量の電気が溢れ出てきた。それは周りの機械を次々とショートさせていく。気がつくとミカサは目を覚ましていた。
「オウくん、私・・・」
「謝るな、ミカサ!今は電気を抑えることに集中するんだ!」
「ダメ・・・できない・・・」
「くっそ・・・」
オウはそのままミカサに抱きついた。感電し体が震え、髪も逆立っている。ミカサはオウを引き剥がそうとしたが、それでもオウはしがみついて離れなかった。
「オウくん、ダメ!死んじゃう!」
「ミカサ!君を一人では死なせない!死ぬならオレも一緒だ!」
ミカサは引き剥がそうしていた手を止め、逆にオウを抱き寄せた。オウの腕は既に力がほとんど入っていなかった。ミカサは涙を流したかったが、電気ですぐに蒸発してしまう。この想いをどう伝えればいいのか。すると瀕死の状態のオウが力を振り絞り口を動かす。
「ミ・・・カサ・・・これ・・・からも・・・ずっ・・・と・・・」
「うん。これからもずっと一緒だよ。」
激しいスパークが辺り一面を包み込み、ついにミカサによる放電現象は止まったのだった。
