見出し画像

【秋葉原アンダーグラウンド】第5章 9話

その夜、キャサリンは身支度をした。身支度といっても地上へ持っていくものは何もなく、単身一つで出ていくつもりだった。玄関を出るとき、靴箱の上にチェルシーと2人で撮った写真立てが目に入った。

「私の退院祝いに撮ったやつだったか。」

病室のベッドから身を乗り出しているキャサリンの隣で笑顔でピースサインをしているチェルシーの姿があった。キャサリンは写真立てを手に取り、そのまま懐にしまった。

キャサリンは公社には何も言わず、エルの待つ管理棟へと向かっていた。エルの階級はキャサリンより上だ。例え刺し違えてもここを出て行ってやる。キャサリンの意志は固かった。林の中を歩いていると人の気配を感じた。キャサリンはとっさに拳に重力を固めた。

「挨拶もなしに出て行くなんて、お前らしいっちゃお前らしいか。」

木の影からトガが姿を現す。幽閉されてたんじゃなかったのかと尋ねるキャサリンに、さっき解放されたとだけトガは応えた。

「まさか止めに来たんじゃないだろうな?止めても無駄だぞ。」
「オレも一緒に出て行く。」

は?という表情を浮かべていたキャサリンの目の前で、トガは1級師兵に与えられている勲章を燃やした。

「これでオレは1級でも公社の犬でもなくなった。」

キャサリンは拳を解き笑った。久しぶりに笑った気がする。

「せっかく檻から出られたのに、また罪を犯したな。」
「問題ない。地下の法律は地上では適用されないからな。」

トガは本当に出て行く様子だった。キャサリンは少し安堵していた。

「妹、チェルシーのことは本当にすまなかった。」
「なんでお前が謝る?誰かが悪かった訳じゃないんだ。それでも・・・私は・・・自分も含めて誰かを許さずにはいられない。」

だからここにいてはいけないんだとさらに付け足した。トガは黙って頷いていた。

「それじゃあ行くか犯罪者。」
「お前だってこれから手配書がばらまかれるぞ。それこそ大罪だ。」

2人は笑いながらエルの待つ管理棟へと入っていった。

「あとは知っての通りだ。地上へ出てトガと共にAKIHABARA49の運営を任されている。」

レンとシュンは何も言えずにいた。まさかそんな過去があったなんて。一体どんな想いで地下の研究の片棒を担ぐようなことをしていたのだろう。レンは素直に聞いてみた。

「どうして劇場だったんですか?地下との縁を切りたかったのであれば、ツインタワーなんて見たくないもんじゃないんですか?」

リツは少し遠くを見つめながらこう言った。

「マユがな、似ていたんだよ。妹のチェルにさ。」

エルとの戦闘でトガとリツはボロボロになりながらも地上へ這い出た。秋葉原のホームまでくると警備員に捕まりそうになったが、2人はかわすように駅の外まで逃げた。大通りは避け、裏路地へと入っていった。警備は上手くまくことができたが、そこでリツのほうは地面に倒れこんでしまった。救急車を呼んでくると言い、トガはリツを壁にもたれかけさせた。意識が遠くなっていく。

「だ、大丈夫ですか?」

目の前には小さな少女が立っていた。恐る恐る水を差し出している。リツはそれを受け取り飲もうとしたが途中で咳き込んでしまう。血が混じっていた。すぐにお医者さんをよんできますという少女に、今救急車を呼んでもらっているとだけ伝えた。

「少し近くにいてくれないか?」

そう言うと少女は少し戸惑いながらもコクリと頷き、リツの隣に座った。乱れていた呼吸が和らいでいく感じがし、リツは思わずこう聞いていた。

「君、名前は?」
「あ、私、マユっていいます。」

それが2人の初めての出会いだった。


いいなと思ったら応援しよう!