【秋葉原アンダーグラウンド】 第7章 8話
各種報道機関では、政府主導のもと人体実験が行われていたというビッグニュースが入ってきたことにより、慌ただしい事態となっていた。またテロリストは地下からやってきたという情報も入り乱れていたことにより、政府とテロリストとの繋がりを疑わせる記事も多数掲載された。事態の収拾のため、首相が表に出てこなければならないことは火を見るより明らかだった。ロンは総理官邸で弁明の内容を考えていた・・・かに見えた。
「クククッ、シンのやつめ、早速吹っかけてきたな。」
「笑ってる場合じゃないんじゃないか、ロン?お前が表に出てくるところを狙っているんだろう?」
「まぁ計算のうちだな。おそらくカイ辺りが出て来るだろう。オレが人前で能力を使えないことをいいことに、大方拉致でもするのだろう。」
「で、テロリストと繋がっていると疑っている国民を利用し、上手く逃げたとして国民を欺く。だが、お前は黙って拘束されているしかない。出てきたところで国民の不信感はより強まるからな。出てこないとしても、それはそれで不信感は強くなる。」
「詰んだとでも言いたそうだな。ヤツらがそう思い込んでいるところを叩けばいい話だ。」
「具体策はあるのか?」
「ヤツらはどこまで行ってもテロリストだ。テロリストは排除せねばならん。ただそれだけの話だ。」
「シンの策に乗じ、潰すという訳だな。」
「どんなトリックを使ったかまでは晒さん。我々は正当防衛を主張すればいいだけのこと。命からがら逃げてきた。それこそ感動的ではないか。」
ロンはこの期に及んで無実を証明させる算段だった。自身やその部下たちの実力をもってすればシンは簡単に潰せる。そんな思惑があるからこそ、こうも余裕でいられるのだ。
「それに、マリの能力だってある。あれがあれば一瞬でこの戦いを終わらせることができる。」
「それはシンも同じ考えだろう?オレらに取られないようにずっと護衛をつけている。」
「まぁマリは起こすのにまだ時間がかかるからな。今すぐどうこうできる話ではない・・・とでもヤツは思っているんだろうな。クククッ、オレの力があれば、いつ起こそうがマリの能力を100%に近い形で発揮させることができるのだよ。」
「これまでそうしなかったのは、やはり護衛がいたからか?」
「ミライのことか?確かにヤツの能力は少し厄介ではある。だがな、事を順序立てて進めなければ美しいものも美しくなくなるのではないか。」
「ここまで全て計算通りとでも?」
「まったく、天才というのはたまに罪であるということをすっかり忘れていたよ。」
ロンにとっては全て計算通りだったに違いない。首相の座を得たこと。ルリではなくマユのほうが覚醒したこと。そしてこれからシンたちを一掃すること。ただ一つ誤算があったとすれば、アンダーグラウンドに風が吹いたということだろう。このときは知る由もなかった訳だが。
「それで?記者会見も迫ってきている訳だが、いつ、誰がマリを取りに行くんだ?」
「もうすでにハクのやつを向かわせている。」
「なるほど。ハクであればミライの能力に対抗できるかもしれんな。」
「あぁ。それにヤツはうちのNo.2だ。大抵の問題は一人で片付けることができるだろう。」
-----
秋葉原のドンキホーテは依然として規制線が張られ立ち入り禁止の状態が続いていた。警察の見張りも複数名存在している。そこにふらっと一人の少女が現れ、中に入ろうとしたが警備員の手によって止められてしまった。
「こら君、ここから先は立ち入り禁止だ。ロープが張っているだろう?それにもうこんな時間だ。こんな時間に女の子一人で歩き回っちゃダメじゃないか?」
「ダメ?」
「そうだ。あぶない連中だっていっぱいいるんだ・・・そうだ、とりあえずおじさんが話を聞くからそちらに止めてある車に行こう。」
そう言うと警備員は少女を連れ、職務質問と称して車の中へ連れ込む。扉が閉まると同時に警備員は少女に襲いかかってきた。
「最近は物騒な事件ばかり起きているからな。こんな状況だ、女の子一人襲われたとしても何の問題もない。」
「ダメ。」
次の瞬間、警備員の首に30cmくらいの針のようなものが貫通する。血こそ噴き出していないが、警備員は失神し座席にもたれかかる態勢となった。少女は車を後にし、先ほど警備員に止められた場所からドンキホーテの中へと入っていった。
少女は8階の劇場の入り口までやってきた。ここにも規制線が張られているものの、警備の姿はなかった。規制線をくぐり少女は劇場内へと侵入する。中は酷い状態だった。壁や床が爆破されたような跡が無数にある。おそらくカラスがやったものだが、それ以降誰も何もしていない、手付かずの状態だったことが容易に想像できる。ツインタワーの一柱は破壊され、中にはカプセルのようなものがあった。もう一柱は傷もなく、おそらくここにマリが閉じ込められているのだろう。少女は手のひらをその一柱に当てる。
「あれ?君、関係者?ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。それとも迷子になった?って警備の目掻い潜ってここまで来てるとなりゃ敵さんになるよね?」
少女は手のひらを柱から離し、こちらをじっと見つめている。
「あなたは?」
「私はここの劇場で事務をやってるミライっていうんだ。君はずいぶんと若く見えるけど、戦いにきたってことでいいのかな?」
「うん。怪我すると思うからできれば戦いたくない。」
「そうだなぁ。私も小さい子相手に怪我はさせたくないなぁ。」
「ううん。怪我するの、ミライ。ハクは怪我しない。」
少女は静かにハクと名乗った。
