【秋葉原アンダーグラウンド】第5章 4話
昇給試験前日、キャサリンとチェルシーは休暇をもらい、2人だけでディナーに行っていた。
「お姉ちゃん、1級昇格おめでとう!」
「おいよせ、まだ試験も何も始まっていない。」
「お姉ちゃんなら楽勝だよ~。今日はその前夜祭ってことで。」
カンパーイと叫ぶ妹を見て、やれやれ気楽なものだなとため息をつきながらも、キャサリンはグラスをあわせた。
「話は嬉しいけどよ、なんで今1級を増やす必要があるんだ?」
「それはたぶん、私のせいかな。私が1級を拒み続けてたから、ついにシンさんが怒っちゃったのかも。」
「あいつはそんなことでキレるやつじゃないだろう。それにお前がいなくたって、核兵器みたいなやつが9人もいるんだぞ。なんで今なんだと私は思っている。」
「うーん。9人じゃ切りが悪いから10人にしておきたいとか?」
キャサリンはグラスに入っていたワインを一気に飲み干し、おかわりとチェルシーに言った。チェルシーは、はいはいと言いながら差し出されたグラスにワインを注ぐ。
「全っ然意味わかんねぇけど、まぁお前の代わりに1級になってやるよ。1級になれば単独任務だってできる訳だし、このアンダーグラウンドを自由に見て回ってやるよ。」
「え、お姉ちゃん一人で行動するつもりなの?だったら私も1級になって一緒に行動しようかなぁ~。」
「それこそ11人だと切りが悪すぎるだろ。それに基本1級同士の行動は認められていない。」
「だったら勝手にお姉ちゃんの後をついていくもん。1級ならそれが可能でしょ。」
チェルシーはぷーっと頬を膨らましワインを飲み干す。私もおかわりと叫ぶ妹を見ながら、キャサリンはなんだか少し嬉しそうだった。
「それで!明日の試験内容は何をするの!」
少し酔いが回ったのか、チェルシーの声は大きくなっていた。うっすらだが顔も赤い。
「明日、当日の発表になるそうだ。シンの推薦があるってことは、あとは実技だろうな。」
「実技ぃ?まさかシンさんと戦わせるってことはないよねぇ?」
「ははは、そうなりゃ一瞬で殺されて終わりだ。」
2人は笑い合い、残りの食事を楽しんだ。まさか実技試験の内容が悲痛なものになるとは夢にも思わなかった。
試験当日、会場には1級師兵9名とイジュン、ワン、ドクの姿があった。ワンとドクは不測の事態に備えての救護係として呼ばれた。キャサリンはチェルシーと共に会場の扉を開いた。
「2級師兵キャサリン・ローレック。只今まいりました。」
その声はシンに向け放ったつもりだったが、どこを見回してもシンの姿はなかった。代わりにイジュンが応える。
「よく来たな。正直お前がこんなにも速くここまで来られるなんて思っていなかった。」
「すぐにてめぇも追い抜いてやるよ。」
一触即発の空気が流れた。まさか相手はイジュンさん?そんなの無理だよとチェルシーは呟いた。しかし、その静寂を破るかのように不気味な声が響き渡る。
「はいはい、お二人ともそんなに睨みあわないで。せっかくの記念日を台無しにするつもりですか?」
それはカラスマだった。二人に近づいてくる。
「私はお前が相手でも別に構わないぞ。」
「だから、そんな怖い顔でこっちを見ないでくださいよ。まだ試験の内容もお伝えしてないじゃないですか。」
「推薦はシン直々にもらってるんだ。ならあとは実戦をするしかないだろう。」
「確かにこれから実戦を行ってもらいます。それが強さの証明になりますからね。ただお相手はここにいる9名でもイジュンさんでもありません。」
なら他に誰がいるというのだ?ワンやドクは階級を与えてもらってすらいない。だとするとシンしかいない。だが、シンの姿はどこにもみえない。
「お察しのとおり、お相手はあなたよりも階級が上のもの、すなわち1級以上となります。ですが困ったことにその人物はここにはいない。」
「は?それじゃてめぇが相手すりゃいいだけじゃねぇか?」
「それだとあまり意味がないんですよね。だってこれは通常の昇給試験とは違い、特別審査みたいなものですからね。」
キャサリンは苛立っていた。理由もわからないままここまで呼び出され、しかも誰とも戦わせないだと?こいつらは一体何がしたいというんだ。
「別に、ここにいる全員と殺り合ってもいいんだぜ。」
リツの殺気にその場にいる全員が反応した。キャサリンの周りには重力が渦巻いて見える。
「誰も戦わせないなんて言ってませんよ。これは特別審査だって言ったんです。」
「その言ってる意味がわかんねぇって言ってんだよ!早く始めろよ!」
「はい、わかりました。それではその実力を見せてもらいましょうか。では、チェルシーさん、キャサリンさんのお相手をしてあげてください。」
なに?キャサリンは思わずチェルシーのほうを振り向いたが、一番驚いていたのは他ならぬチェルシー本人だった。
