【秋葉原アンダーグラウンド】 第7章 3話
レンの放った朱雀は依然として動けずにいた。もがき、雄叫びを上げているようにさえ見える。レンはどうすることもできず、衝撃波が渦巻く中呆然と立ち尽くしていた。しかし、今度はレンの体がシンのほうへ向かい吸い寄せられていく。レンは始め何が起こっているのかわからなかったが、背後に違和感を感じその正体を突き止めた。
「これは、虎の手・・・?」
「気付いたか、レン。君は私に吸い寄せられている訳ではなく、虎の掌によって押されているのだよ。」
レンは逃げる仕草をするも、虎の掌はレンを掴んで離さない。このままシンに近付いてしまえばすぐさま切られてしまう。しかし、レンの目の前にはシンではなく、またしても虎の腕のようなものが立ちはだかる。
「何も2本だけとは言っていない。虎は手足が4本あるからな。」
手なのか足なのかわからないが、3本目のそれはレンに向かい襲い掛かる。こんなもの生身で食らったら本当に死ぬかもしれない。レンはかろうじて黄龍を握っていたほうの腕を動かし叫んだ。
「玄武・解!」
レンは黄龍の周りの風を圧縮し、小さな盾のようなものを作った。それはまるで亀の甲羅のような形をしていた。虎の四肢の1つとそれはぶつかり合い、またしても激しい衝撃が走る。直撃は防いだが、虎の威力のほうが強く、押し潰されそうになる。
「すごいな、レン。まさか玄武まで扱えるとは!その姿は第一形態だな?さて、どこまでいけるか。」
シンはそう言うと4本目の虎の四肢を繰り出してきた。それは防戦一方のレンのほうへ向かってくる。
「これで最後だ、レン!さばいてみせろ!」
「くっ・・・玄武、剛!」
先に放った玄武・解の姿が大きくなり、レンを包み込むドーム状の盾となった。レンは亀の甲羅の中に収まるような形となり、そこに最後の虎の四肢がぶつかる。先ほどより強い衝撃がレンを襲う。玄武・剛は2本の四肢で押し潰されそうになり、次第にヒビのような跡が走る。
「くっ・・・」
「どうした、レン!そのままじゃ玄武どころか、君の体ももたないぞ!」
「くっそぉぉぉおおお・・・!」
玄武・剛は一瞬力を取り戻し白虎を弾き返そうとしたが、ついには限界を迎え粉粉に砕け散ってしまった。そしてそのまま容赦なく、白虎はレンを襲った。
-----
「起きたか?」
「オレ・・・あの後・・・何がなんだか・・・っ痛!」
「動かないでくれ。今傷の手当てをしている。大丈夫だ、骨までは折れていない。」
シンは自身の能力を治癒へと変換し、レンを介抱していた。あれからどれだけの時間が経ったのだろう。一体あの後どうなってしまったのだろう。オレは生き残ったのか。そんな疑問を解消するかのごとく、シンは口を開いた。
「あれから約1時間ってところだ。白虎は君に直撃したが、玄武によりだいぶ消耗させられていたのだろう。気を失ってはいたが、そんな大した怪我にならずに済んだ。」
「オレ・・・生きてるんですね・・・」
「ああ、ちゃんと生きている。それに誇ってくれていい。私の全力を止めたんだからな。お陰で私もすっからかんだ。」
シンはそう言うと笑ってみせた。これまでの表情で一番明るい。どこかスッキリしているようにも見えた。
「でも、これじゃシンさんを止められない・・・」
「いや、実を言うとそうでもない。君の行動によって考えが変わった。自首するのはロンを止めてからにすることにした。」
ほんと?と言い起き上がろうとしたが、またしても体中に痛みが走りレンは断念した。レンは横になったまま話の続きを聞いていた。
「すでに皆で修行すると言ってあるからな。それを実行に移すまでだ。レン、私がこんな風にしてしまったのに悪いが、君はもっと技を磨いてくれ。」
「シンさん、オレもっと強くなるよ。」
シンが手を差し伸べると、レンはかろうじて腕を動かし、2人はそのまま握手をする形となった。すると今度は森の茂みのほうから物音が聞こえてきた。
「レン!お前ここで一体何をしていた!?」
「あれ、リツさん。どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもない。あれだけの衝撃が走っているのに気付かないやつがどこにいる。」
「まさかここのてっぺんとやり合うとは、テメェもずいぶんと偉くなったもんだな。」
リツのほか、そこに現れたのはトガとシュンだった。話を聞くとシュンはこの近くで前倒しでトガとリツに修行を頼んでいたらしい。そこにあの衝撃波だ。トガの言う通り気が付かないほうがおかしいのかもしれない。
「なんだかみっともないところ見られちゃったな。」
「お前は馬鹿か?お前のレベルじゃまだまだシンには及ばないって言ったろ。」
「いや、意外とそうでもなかったよリツ。発展途上ではあるがいい線までいっていた。」
リツと呼ばれたことも驚いたが、あのシンにここまで言わせるとは。本当に一体ここでどんな戦いが行われていたのだろう。何一つ理解できないことに苛立ったリツは、気付くとレンの腹を殴っていた。
「リツさん、今度こそオレ死んじゃう・・・」
「ふん。師匠に断りもいれず勝手に行動した罰だ。」
そうは言っているものの、リツはどこか安堵し優しそうな顔をしていた。
「トガ、悪いが肩を貸してくれないか。いや、レンにではなく私にだ。」
「まったくお前も無茶しやがって。明日以降の修行は一体どうするんだ?」
「ほんとにその通りだ。明日の修行はトガ、君が指揮をとってくれないか?」
トガは初め呆れた顔をしていたが、その後黙ってシンに肩を貸してやった。
