5/1|新茶が香る
5/1|八十八夜
立春から数えて八十八日目——つまり、5月初旬。暦の上では「八十八夜」と呼ばれるこの日は、日本の暮らしに根差した節目のひとつである。
「夏も近づく八十八夜〜」と、文部省唱歌『茶摘み』で知られるこの言葉は、多くの人にとって郷愁を誘う響きだろう。
まるで句読点のように、季節の移ろいをふと感じさせる言葉。春から夏へと季節が静かにバトンを渡すような、そんな時期である。
八十八夜は、農業に携わる人々にとって特別な日だった。寒さもようやく去り、霜の心配がなくなるこの頃から、田畑の作業が本格的に始まる。
茶畑では新茶の摘み取りが行われ、その若々しい香りが立ちのぼる。特に八十八夜に摘まれた新茶は「縁起が良い」とされ、飲むと一年間無病息災で過ごせるとも言われてきた。
このような言い伝えや風習は、現代の都会暮らしでは少し遠く感じられるかもしれない。でも、日々忙しく過ごしていると、こういう季節の区切りがありがたく思える。
ふとしたときに、「ああ、もう八十八夜か」と気づくことで、春の名残と、夏への期待が入り混じる、不思議な感覚になる。
私にとっての八十八夜は、どこか優しい響きをもっている。それは、子どものころ祖母と一緒にお茶を飲んだ記憶かもしれないし、学校の授業で歌った唱歌の残響かもしれない。
あるいは、季節が巡るたびに変わらずそこにある、穏やかな日本のリズムのようなものかも。
この時期、スーパーやお茶屋に並ぶ「新茶」の文字を見ると、なんとなく手に取りたくなる。
まだ少し涼しさの残る朝に、その新茶をゆっくりと淹れて飲む。急須の中で、葉がふわりと開く。その様子を眺めながら過ごす時間が、なんとも贅沢に感じる。
八十八夜。それは、日本の自然と人々の暮らしが、そっと手を取り合うような、美しい季節の名だと思う。
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