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パーティーはいつか終わる《3》【#創作大賞2025】

《1》《2》《3》《4》《5》《6》《7》《最終話》

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「え? あ、いや、え? あお、青羽さん、ですよね?」
「はい。驚かせてしまってすいません」

申し訳なさそうに笑うその顔は間違いなく私の知っている青羽さんなのだけど、人畜無害そうな顔と、首から下に広がる真っ黒なタトゥーの組み合わせがどう見てもアンバランスで思考の整合性がとれない。亀の甲羅を割ってみたら首から下がシックスパックのムキムキボディでしたみたいな、受け入れ難い奇妙さに少しだけ鳥肌が立った。

私が返す言葉を失って立ち尽くしていると、青羽さんの隣に立っている強盗覆面ラッパーもおもむろにマスクを脱ぎ出し「うす。潮田さん、初めまして! うちの青羽がお世話になってます」と快活に一礼して二ッと笑った。こちらはこちらで気さくな雰囲気だが、笑った時に見えた歯がすべて金色にコーティングされていて私は思わず「ひっ」と声が出た。

何が何だか分からなくなり、軽い眩暈で頭がふらつく。深呼吸をして一先ひとまず気持ちを落ち着かせよう、と息を大きく吸い込んだタイミングで「潮田さーん!」と後ろから溌剌はつらつとした声で呼ばれ、さっきからずっと心臓がバクバクしている私は、頼むから一旦落ち着かせてくれという露骨なうんざりした顔で振り返った。

「よかった、まだ帰ってなくて! あの、先ほどは失礼しました。わたし、このクラブでスタッフやってる芹沢せりざわっていいます」

話しかけてきたのは先ほどの黒スーツの女性だった。今までのパリッとしたメンズライクスーツから一転、だぼっとした厚手のパーカーにワイドデニムを合わせたラフな格好に着替えていたが、一七〇前半はありそうな高身長の彼女が着ると大人びたこなれ感があった。

「……いえ。こちらこそ、先ほどはお門違いな文句をぶつけてしまい申し訳ございませんでした」

私は芹沢さんに頭を下げるタイミングで、青羽さんの方をちらっと横目で見た。元はと言えば青羽さんの意味不明で強引な行動に私は振り回されて、あそこまで取り乱したのだ。青羽さんに聞きたいことが山ほどあるけれど、何から話せばいいのか、そもそも私たちが話すべきなのかも分からない。
私が睨んでいるように見えたのか、青羽さんは私と目が合うと「すいません」と頭をぽりぽりと掻きながら気恥ずかしそうに詫びている。

「こんなところで話すのもなんですし、近くの居酒屋とかで話しません? 潮田さん、まだお時間大丈夫ですか」

芹沢さんに聞かれて、「あ、はい。時間は大丈夫です」と咄嗟に答えてしまった。まったくもってこの状況が飲み込めていない私は今すぐにでも解説が欲しかったが、反論したら目の前にいるこの奇妙な男たちに何をされるか分からなかったので、ひとまずは芹沢さんの提案に従って居酒屋で話すのが無難だと思った。

「では僕たちもすぐに着替えてきます」と青羽さんが言うと、覆面マスクを被っていたラッパーの方も「失礼します」と言い残し、二人して足早にエレベーターへ乗り込んでいった。青羽さんがタトゥー丸出しの恰好で居酒屋に来たらどうしようと思っていたので少し安心すると同時に、インパクトの強い二人が一時的に姿を消したことで私はようやく少しだけ解放されたような気持ちになった。

青羽さんのあのタトゥーは本物なのか? そもそも一体いつからこんなところでDJなんてやっていたのか? そして何より一体なぜ、今日私をここに呼んだのだろうか。少し冷静になっただけで、疑問が山ほど浮かんでくる。青羽さんとは無事会えたけれど、彼に対する疑問はまだ一つも解決していない。

芹沢さんが「私たちは店の外で待ってますか」と言ったので、彼女に言われるがままクラブを出ると、私は久しぶりに外の空気を吸い込んだ。圧倒的な開放感で全身が満たされて、人生で初めて東京の空気を綺麗に感じた。

さっきまで私がいたクラブの外観を見つめながら「ひょっとしてすべて夢だったのでは」とぼんやり思っていると、「お待たせしました」と二人組の中年男性がエントランスから出てきた。年相応の落ち着いた服装に着替えた彼らをはたから見ると、かたや上半身にタトゥーが入りまくっていて、片やラップでフロアを沸かせまくっている人間には到底見えない。

「では行きますか!」と芹沢さんが歩き出したかと思えば、クラブのすぐ隣にある雑居ビルの一階に入っているチェーンの焼き鳥屋に五秒も経たず入店した。私は心の準備が何もできないまま、芹沢さんの背中を追いかけるようにして足早に店へ入った。

席に案内されるや否や、芹沢さんはテーブルに設置されたタッチパネルをてきぱきと操作し料理を何品か注文する。同時に「みなさん何飲まれますか」と急かすように聞かれ、青羽さんが「ではビールを」と素早く答えると、覆面マスクを被っていた方はいつものといった感じで「ジンジャエールお願い」と微笑み、私は居心地の悪さを感じながらも「……では私もビールを」と消え入りそうな声で答えた。

「この店基本的に料理の提供遅いんで、串系でコスパの良いものとタイパの良いスピードメニューは先ほど頼んでおきました。あとは、各自頼む感じで」と芹沢さんが新参者の私にあえて説明するように言うと、タッチパネルを元の位置に戻して、ドリンクのメニュー表を私たちみんなが見える位置に立てかけた。よどみなく発せられた「コスパ」や「タイパ」という言葉に軽くカルチャーショックを受けつつも、彼女の行き届いた心遣いにどこか感心を覚える。

乾杯のドリンクとお通しはすぐに運ばれてきた。各々ドリンクを持ち上げ、芹沢さんの「ひとまず、お疲れさまでした乾杯ー!」の掛け声と共にみんなでジョッキをコツンとぶつけ合う。流れで居酒屋まで来てしまったが、私はいまだに状況が飲み込めていない。

「えっと、じゃあ、まずは自己紹介ということで。改めまして、芹沢花音せりざわかのんっていいます。いま二十五で、基本的にはあのクラブでスタッフやってまーす。あとで色々話しますけど、わたし、潮田さんにずっと会いたかったので超嬉しいです!」

芹沢さんが私の手を掴むようにして一方的な握手をしてくる。私は反応に困り「……はぁ」と曖昧な笑みを浮かべていると、「じゃあ、つぎ俺ね」と覆面マスクを被っていた方も続けて自己紹介を始めた。

「俺は行方学なめかたまなぶっていいます。年齢は四十五で、青羽と同じ年っす。青羽とは今日観てもらった”カルマ”っていうヒップホップユニットを一緒にやってて、俺はそのラッパーっす」

行方さんが「たぶんこれ見た方が早いか」と言いながら、私の目の前に自分のスマホを差し出した。そこには『ヒップホップユニット カルマ』というワードでグーグル検索をした結果が表示されていて、一番上には覆面の恰好をした二人組の写真が何枚か並んでいた。
『メンバー』という項目をタップすると、覆面マスクを被ったスーツ姿の人物の写真には『鳳凰ヶ韻(ラッパー)』という表記が、そしてディスコボールのヘルメットを被った上半身裸男の写真には『G‐GO:G‐TOK(DJ)』という表記がされている。

「えっと、この ”ほう、おう、が、いん”? というのが、その、行方さんのアーティスト名ということでしょうか」
「そうっす! 因果応報いんがおうほうのアナグラムっす」

そうすると、もう一人の『G‐GO:G‐TOK』が青羽さんのDJとしてのアーティスト名ということになるが、名前の読み方が分からず、先ほどから私の隣でビールをちびちびと飲んでいる当の本人を横目で見やる。私の視線を受け取った青羽さんは静かにジョッキをテーブルに置いて、私の知っている穏やかな口調で話し始めた。

「僕のは、自業自得じごうじとくの当て字です。ちなみにDJは僕が十五歳の時に始めました。行方さんとユニットを組んだのは二十歳の時ですね。日中はサラリーマンやってますけど、夜は今日みたいにクラブやライブハウスで音楽活動をしています」
「え、ということは、二十年以上も音楽活動を続けている、ということですか?」
「はい。僕がいま四十五なので、カルマを始めてから二十五年は経ちますね」

なぜ普段はあんなにも平凡なサラリーマンをやられているんですか、という純粋な疑問が顔に出ていたのか、青羽さんは私の怪訝そうな顔を見てさらに話を続けた。

「年の功もあって、今でこそ界隈ではそこそこの知名度がありますが、これ一本で稼いでいけるほどの収入はありません。ナイトクラブ業界は基本的にフリーランスとしてクラブと契約するケースが多いんですけど、個人事業主としてやっていくとなると社会保険料の負担も増えますしね。会社員と兼業していれば会社の健康保険と厚生年金保険だけで済むので、そういった経済的事情もあってサラリーマンを続けているというふしもあります」

色々と衝撃的過ぎてどこから突っ込めばいいのか分からず、そして想像の五倍くらい現実的な話をされて「……へぇ、大変なんですね」と否定でも肯定でもない適当な相槌しか返せない私に、「それと僕の性格上、ずっと音楽ばかりやっていたらそれはそれで気が狂うので、会社員は程よい精神安定剤なんですよ」と青羽さんは笑いながら付け加えた。

お待たせしました、と店員が料理を持ってきて、テーブルには鶏皮ポン酢、きゅうりの一本漬け、白菜キムチ、枝豆が所狭しと並べられた。
「うお、うまそー。まじ腹減ったわ」と言いながら、行方さんが口の中から金色の歯型のようなものを取り出して机の上に置いたのを見て軽く衝撃を受ける。

「ちょっと、それ汚いんですけど」
「ああ、わりわり」

眉根を寄せる芹沢さんに苦言を呈されると「ほら、こうすれば問題ないっしょ」と行方さんはヘラヘラ笑いながら、その金の歯型を自分のおしぼりで包むようにして隠した。行方さんを見た時から彼がどうやって食事をするのか気になっていた私は、彼の金歯が着脱可能だと知って謎が一つ解けたけれど、そもそもDJとラッパーと若い女の子と、よりにもよって何者でもない中年の私という謎の四人組で一緒に酒を飲んでいるこの状況が未だにまったく理解できない。

芹沢さんは早くも一杯目を飲み干して追加の注文をしていたようで、食事と一緒に運ばれてきた二杯目のビールを手に取るや否やそれを景気よくあおり、さっきよりもさらに上機嫌な様子で「潮田さーん」と絡んできた。

「あ、はい、なんでしょうか」
「青羽さんが潮田さんのこと好きなの、気付いてました?」
「……はい?」

隣にいる青羽さんに思わず視線を送る。しかし青羽さんはかたくなに私と目を合わせようとはせず、ジョッキを両手で持ちながらビールをぐびぐびと飲んでいるばかりだ。

「潮田さんが退職して地元に帰るって知った時はもう大変でしたよ。あの日のライブ、青羽さん荒れ狂ってましたもん」
「あ、あの、ちょっと待ってください。もしかして、青羽さんが今日私を呼んだのも、その、それが理由なんですか?」
「そうですよー。さすがに階段すっ飛ばし過ぎだろって思ってましたけどね。でもそんな不器用なところも本当に青羽さんっぽくて、面白そうだったんで私も協力しました」

「一体いつから……」と私が小さく声を漏らすと、手元のジョッキを空にした青羽さんがようやく意を決したように「十年前です」ときっぱり答えた。

「……じゅ、十年、ですか!?」
「はい。十年前の当時、僕は今の会社ではなくOA機器の販売会社に勤めていたんです。複合機とかの保守点検で定期的に取引先企業へ訪問する仕事をしていたんですけど、その中で潮田さんをお見かけして、そのなんというか、一目惚れしました。お恥ずかしながら声をかける勇気はなく、素敵な方だな、といつも遠巻きに眺めていたんです。あ、気分を害してしまっていたら申し訳ございません」
「あ、いえ……」
「それから五年後に今の会社に転職して、その三年後に経理部に配属されて現在に至ります。今月の中旬頃に出た内示で潮田さんがあと二週間ほどで退職されると知って、僕は居ても立ってもいられなくなって、芹沢さんや行方さんに相談して、今日のサプライズで潮田さんに思いを伝えようと決めていたんです。あの、今日は色々と振り回してしまい本当に申し訳ございませんでした」

本気で殺されるかと思った今日のアレがまさか青羽さんなりのサプライズだったとは思わなかったし、そもそも青羽さんにそこまでの好意を寄せられていたとはつゆほども気付かなかったが、それは私が鈍感というより、その十年間でアプローチめいたことを一切してこなかった青羽さんの奥手すぎる姿勢に原因があることは明白だった。

「青羽さん、有名になる前からずっとあのクラブでDJしてて、スタッフみんなと仲が良いんです。たまにライブ終わりとかにスタッフも含めてみんなで飲みに行くんですけど、青羽さん酔っぱらうと潮田さんの話しかしなくなるんですよ。そんな潮田さんが退職してもう会えなくなるかもって聞いたんで、スタッフみんなでサプライズに協力したんです。いつもより早めに店開けて、カルマのライブやるっていう事前告知をしてお客さん集めました。月曜なのにこんなに人来てくれるとは思わなくて正直びっくりしましたよ。潮田さんに盛り上がってるところ見せれてよかったー」
「てか潮田さん、会社辞めて地元帰っちゃうんだよね? 青羽のやつ、その辺は全然付いて行く覚悟らしいんだよ。色々急すぎて整理する時間が必要だと思うから、すぐにじゃなくて、ちょっと考えてみてくれねえか?」

芹沢さんと行方さんにあれこれ補足されて、青羽さんの私に対する好意の解像度が徐々に上がっていく。それに比例するように、私の中では罪悪感がふつふつと込み上げていた。
黙り込んでいる私に、青羽さんは優しく言い添える。

「ご両親の介護で大変な時期に頭を悩ませてしまって申し訳ございません。このまま潮田さんが地元に戻られて、生活に慣れて時間に余裕ができた時にお返事いただく形でも結構ですよ。というか、今更のことで恐縮ですが、もし今潮田さんにお付き合いされている方がいらっしゃる場合は……」

「すいません」

これ以上曖昧な態度を取るべきではないと思い、青羽さんの言葉の途中で私は答えた。

「……すいません、私、この歳になるまで恋愛というものをしたことがないんです。人を好きになるということが、よく分からないんです。それと……」

少し間を置いて、私は三人を見つめる。芹沢さんも行方さんも青羽さんも、神妙な面持ちで私の言葉を待っている。

「えっと、職場でお伝えしていた親の介護というのは本当の理由ではなくて、実は私……地元に戻って結婚するんです。この歳で寿退社とは言いづらくて、会社では隠していました。申し訳ございません」

場が静まり返ると思ったけれど、芹沢さんがすかさず質問した。

「えっと、先ほどの話と繋げると、それは恋愛結婚ではないということですか?」
「そうです。父が紹介した人と、私は結婚することが決まっているんです」

私の含みのある言い方を芹沢さんは見逃さなかった。
「それは普通のお見合いとはちょっと違うんですか?」と聞かれて、私は寺のことを話す覚悟を決めた。

「私の実家は寺で、代々血縁者で継いできたんです。私には男の兄弟がいなくて、姉が一人いますが、姉には寺を継ぐ意思はまったくなくて今どこにいるのかさえ分かりません。必然的に、私は物心ついた時から寺を継ぐことが決まっていました。父は頑固、というか特殊な人間なので、血縁者以外に寺を継がせるということを絶対に認めない考えなんです。今回私が地元に帰るのは父の知り合いの住職の息子と結婚するためで、その方が婿入りする形で私と結婚して、実家の寺がその方の寺を吸収合併する形で双方の寺を存続させていくようです」

長々と喋ってしまった、という後ろめたさを感じたのも束の間、芹沢さんが「でもそれって、潮田さんとその住職の息子さんの間に子供が生れなかったら詰みじゃないですか? 純粋な血縁者だけでずっと寺を継いでいくなんて無理があると思います」と純粋な質問を私に投げ返す。

「おっしゃるとおりです。四十の私が普通に妊娠することはもちろん、ましてや健全な子供を産むことなんて、現実的に難しいと思います。ですがそれは父にとっては最重要問題ではありません。あの人が本当に固執しているのは、血縁者による継承を”自分の代で終わらせないこと”なんです。先代がしてきたことを自分だけが果たせないというのが何よりも嫌で、私という直系卑属ちょっけいひぞくが生きている以上、他の誰でもない私に寺を継がせることが父の信念なんです」

行方さんが枝豆に手を伸ばしながら、「そっかあ」とあくまで軽い口調で相槌を打つ。

「どうしても家族で継いでいきたいってことなら養子を取るとか色んな手段がありそうだけど、そういうつながりじゃなくて純粋な血縁にこだわってるって感じか。人の親を悪く言うつもりはねえけど、何というか固いお父さんだな」

”固い”という単純な言葉ではカテゴライズできない複雑な精神構造が、父にはある。同情するわけではまったくないが、父も一人の被害者なのかもしれないと考えるようにして、私は自分を納得させて生きてきた。

「父は寺の一人息子として生まれ育ちました。幼い頃から寺を継ぐことが決まっていたので、おそらく家族から大切に育てられたんだと思います。小さい頃から特別に甘やかされ、寺のことしか教えられない特殊な環境で育った父は、大人になっても外の世界をまるで知らないような人間でした」

酔いが回っているのか、饒舌じょうぜつさが良くない方向に加速していく。家庭の話なんて自分が悲しくなるだけなので口に出したくないとは思っているのに、今なら曝け出せるかもしれないという両極端な感情で頭がいっぱいだった。

「父は、檀家との付き合いは怖いくらい完璧にこなしますが、一方で家での傍若無人ぼうじゃくぶじんっぷりはおよそ僧侶とはかけ離れているものでした。跡継ぎ候補である私にはわざとらしいほど丁寧に接してくれましたが、母に対するマンスプレイニングは日常茶飯事で、自分の中にある”理想の母親像”を常々口にして、自分では何も手を動かさないくせに母の家事にはことあるごとに口を出し、時には母の作った料理をその場で捨てたりもしました。母が罵られる光景は見飽きるほど見てきました。母も母で面従腹背めんじゅうふくはいというわけではなく、完璧に洗脳されているのか、私が心配すると却って私を叱って父を擁護するので、私は母に対して何もしてあげる気が起きなくなりました。そんな家で一生を終えるのが嫌で、一度でいいから外の世界を知ってみたくて、私は東京に出てきたんです」

すべて話し終えたところで、やらかした、と即座に気付いた。酔いに任せて身の上話を完全に喋り過ぎてしまった。初めて他人に吐露したことでこれまでのわだかまりが少し形を変えた気がしたけれど、誰かに打ち明けたところで直面している現実が変わるわけでもなく、結局これまでの私の発言は、”父に逆らえないので黙って地元に帰ります”という単なる意思表示に過ぎないと思うと、自分が情けなく思えてこのまま消えてしまいたかった。

「潮田さん」

孫を呼ぶような声で青羽さんが私の名前を口にする。何だか優しく頭を撫でられたような気持ちになって、思わず泣きそうになるのをぐっと堪える。

「ご家族のこと、話していただきありがとうございます」
「いえ、すいません……。初対面の方々にこんな重い話をしてしまって、申し訳ない限りです。あの、忘れてください」
「……潮田さん。身の上話で恐縮ですが、僕の話も聞いていただけますか」

そう話す青羽さんの目は、目の前の私を通して別の何かを見ているようだった。私は何も言わずにこくりと頷いて、遠い記憶を辿るような彼の目をじっと見つめた。



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