過ぎゆく風景の記憶を留めるように
瀬戸内国際芸術祭をめぐる旅で、小豆島の風景を
東から西へとたどる。自転車での旅は、風を感じる
旅。潮風をを切るように海沿いを進めば、やがて
港の風景が近づいてくる。開けた場所に揚げられた
一艘の船。それは侵食されるかのように、船体の
下地が露出し、船の上には家形のフレームが並ぶ。

緑の向こうに見える一艘の船

船体は侵食されるように下地が顕となっている

時が途切れたかのごとく架台の上に固定された姿は

かつて海を進んでいた船の記憶を止めている

船体のいたる所で露出する木の下地には

透かし彫りのような文様が彫られ

それは船全体を覆うように広がっている

船体の青い塗装は、褪せてひび割れながらも

いつかの海の記憶を伝えている。家船と呼ばれる

この船は、かつて人が暮らし、海とともに存在したもの

使われなくなった船に刻まれる有機的な模様は

増殖するような厄災の記憶ともつながっている
そのまだら模様に、過去の記憶を重ねながら

使われなくなって、彫刻作品となる船は、かつての航路を

失って閉ざされた港を象徴するように

もう動くことはないという船の

中に閉じ込められた記憶を、外部空間へつなげるように

その増殖するような文様は

船に時代の光を取り込むように

今の風を取り入れるようにして

長い間、海と共にあった船体に

新たな記憶の層を重ねる

作品には、かつてそこに生活があった家船の痕跡が

残され、周囲の風景の中に浮かび上がり

人の気配を失った船は

この時代の記憶が刻まれた作品となる

すぐ側の小屋で、制作の過程にもふれたりも

時は流れて、色は褪せて
関係性は変化し続けていく

時代の変化に抗うような、強固な構造も
やがては侵食され、いずれ海と一つとなるように

船と海と朽ちゆく風景は、かつて人々の生活を
乗せていた、海の上に浮かぶ軍艦島に記憶をつなぐ

陸に揚げられた船に、海の存在を重ねながら
海の風景の中を、これまでも旅をしてきた

かつての家船に、新たな命が吹き込まれた
Inner Lightという作品は
木戸龍介氏が手掛けるもので
過去にも様々な場所で、風景に
記憶を刻むように、彫刻を続けられている
この作品は、かつて高松港までの定期航路があった
という草壁港の側に設置されている。世界に蔓延
したウイルスは、風景を侵食するかのように、人と
場所との関係性を変えていった。このInner Light
という作品は、かつての記憶を浮き彫りにさせる。
形あるものは、いつかは形を変えていくという理。
時間の流れにあらがうように、それを記憶が補完
するようにして、人々の心に残されていく。旅で
出会う記憶の層を感じながら、その波間にゆられる
ようにして、海の風景を携えるように旅を続ける。
