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村上春樹が、日本アニメに与えたモノ

先日、村上春樹原作アニメめくらやなぎと眠る女」を見た際、ふと思ったことがひとつあるのね。
それは、春樹作品の直接的アニメ化はこれが初めてだが、その一方で

<春樹っぽいアニメ>は、実をいえば今までにも案外たくさんあったよな、と。

でも、よく考えればそれは意外でも何でもないことで、ごく当たり前のことだろう。
だって春樹先生は80年代からの一貫したべストセラー作家であり、おそらく「これまでの生涯、村上春樹の小説を1冊も読んだことがない」って人たちの方が日本では少数派のはずなんだよ。
最近は学校の国語の教科書にも載ってると聞くし・・。
それはつまり、多かれ少なかれ、誰しもが必ず何らかの形で春樹作品の影響を受けている、ということでもある。
ましてや、アニメを制作するクリエイター側の人間であれば、なおのことだろう。
少なくともクリエイターなのに「春樹は1冊も読んでません」という人は、限りなくゼロに近いんじゃないか?

「灰羽連盟」(2002年)

原作/安倍吉俊 監督/ところともかず

で、<春樹っぽいアニメ>という話題になった際に、必ずといっていいほど一例に挙げられるのが、この「灰羽連盟」。
これは原作者/安部吉俊先生自身、この作品が「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」に着想を得たものだと公認してた記憶がある。

あと、同小説の影響下にあるといえば、おそらくこれも↓↓そうだろう。

「エンジェルビーツ」(2010年)

原作/麻枝准 監督/岸誠二

思えば麻枝准さんは、これに限らず「CLANNAD」や「AIR」など、常に春樹系の世界観を打ち出してきた人だよね。

安倍吉俊 1971年生まれ

麻枝准 1975年生まれ

割とポイントなのが、このおふたりがほぼ同世代ということだと思うんだわ。
「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」が発刊されたのは1985年のことであり、おそらくおふたりとも思春期にこれの啓蒙を受けた系なんじゃないの?

「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」

多分だが、この作品が70年代生まれ以降の世代に与えた影響はめちゃくちゃ大きいだろうね。
一説には、この作品↓↓もまた、同小説の影響下にあるという話も・・。

「進撃の巨人」(2013年)

いや、もっと言うと、2010年代以降ブームとなった「なろう系」、「異世界転生ファンタジー」というもの自体が<春樹>だといえるのかもしれん。

・・と考えると、いまどきのアニメのうち大体半分近くは、<春樹>の影響下にあるかも?

ただ非常に面白いのは、こういったコンテンツが<春樹っぽいアニメ>だということに「気付いてる人」と「気付いてない人」、これがめっちゃ明確な形で現在分かれてることなんだよね。
気付いてる人は多分一番最初から気付いてたし、気付いてない人はそれこそ今さら「初耳なんですけど?」というリアクションかもしれない。

こういう分断ともいえる現象って一体何なのか?というのを私なりに考えてみたんだが、思うに、今の我々日本人が

①春樹の小説を読むし、アニメも見る

②春樹の小説は読むが、アニメは見ない

③春樹の小説は読まないが、アニメは見る


という3種に分類できるとして、この①~③のうち、最大シェアとなってるのはどれだと思いますか?

こういうアンケートをとった実績はないと思うのであくまで想像になるが、私は意外と③がいまどきのトップであるような気がする。
だって、アニメ好きは漫画/ラノベの方に傾倒しがちだし、あまり純文学の方へは敢えて行かないでしょ?
・・ただ、ラノベ作家のほとんどは<春樹>の洗礼を受けてる人たちだし、結局のところ、間接的なカタチで無自覚に影響を被ってるんだろうけど。

「少女革命ウテナ」幾原邦彦

そして<春樹>影響下の代表選手ともいえるのが、やはり私は幾原邦彦だと思う。

こうやって謎のペンギンが日常に闖入してくるあたりは「そのまんま」だと思うし、逆に上の3分類で③に該当する方々は、こういうペンギンの存在を一体どんな意味で解釈してるんだろう?と少し疑問にさえ思うよ。

さらにいうと、そういう③の方々は「ウテナ」世界をどういう風に解釈しているんだろう?
この作品ほど、①の人と③の人とで解釈が異なってくるものはないはずなんだ。
いや、ヘタに誤魔化さずにもっとハッキリというと、

<春樹>的な物語構造に触れたことない人に
「ウテナ」の世界観は、ほとんど理解できないはずなんだけど?

いや、理解できる!という人は逆に凄いですね。

まず、<春樹>的な物語として「最も分かりやすい」とされてるのが前述「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」であり、この小説を未読の方の為に軽く説明をすると、この作品は

①「世界の終り」セカイ線
②「ハードボイルドワンダーランド」セカイ線


という2つのセカイの物語が同時進行していく構造になってるわけです。

で、これはもう名作文学だからネタバレも許されるだろうと仮定して敢えて書くが、

①⇒異世界、主人公の内的セカイ
②⇒現実世界、主人公の外的セカイ


という構造になってるわけよね。

「世界の終り」セカイ

特にここで重要なのが、①のセカイなんですよ。
ここは、

・謎の壁に囲まれ、壁の外に出ることは不可能
・登場人物たちは皆、過去の記憶がない(記憶を吸われている)
・謎の獣(一角獣)が壁の外と内を行き来している


という魔訶不思議な世界観になっており、まさに「どこかで見たアニメ」的でしょ(笑)?

そう、こんな設定を春樹先生は80年代でもう考案してたわけで、ぶっちゃけこれをセカイ系の元祖としてもいいほど。

・・というより、90年代~00年代で花開いたセカイ系ほとんどが春樹先生の影響を受けた作家たちの創作物だし(庵野さんや新海さんだって同じく)、それを思うと元祖というのもあながち大袈裟でもないのよ。
いわば、<基礎>だね。

こういう<基礎>は、欧米のコンテンツだと(映画など)大体が

・聖書
・ギリシャ神話
・シェイクスピアの戯曲


という3つ、そのいずれかが物語の下敷きになってるものである。
・・うん、正直我々日本人の多くは欧米人ほどこの3つに精通してない為、どうしてもコンテンツの理解度が低くなっちゃうんだけどさ。
「えっ?こんなオモロない作品が何で向こうで評価高いの?」と我々が思うようなやつは、大体がそれでしょ。
つまり、一般常識のギャップとでもいうべきところか・・。

で、一方の日本はアニメ/ラノベ等サブカルの<基礎>になってるものは何かというと、それは「聖書」でも「神話」でも「シェイクスピア」でもなく、やはり消去法的にいっても<春樹>ということになると思うんだよね。

ただし、いくら春樹先生がベストセラー作家とはいえ、欧米でいう「聖書」「神話」「シェイクスピア」ほどに皆が知ってるほどの<基礎>というわけでもないんだ。

・・実は、ここが問題だと思う。


結局はこういう<基礎>に関する知識の欠けた人たち(上記3分類の③)が予想以上に多いもんで(多分それは創作者側にとって想定外だったはず)、受け取る側が作品の表面だけを舐めて「美味しくない・・」という反応しかできないケースがやたら多いのよ。

これは創作側の能力がないわけでないし、かといって受け取る側がバカだというわけでもないし、ただ単純に<基礎>知識のストック不足なんだわ。
創作側が普通に「このぐらいは誰でも知ってるでしょ」と思って創った部分が、大体は予想以上に伝わっていない。

その象徴こそ、麻枝准作品だと私は思うなぁ~。

「エンジェルビーツ」第11話

たとえば「エンジェルビーツ」のこのシーン↑↑とか明らかに「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」オマージュだし、おそらく麻枝准的には「どや?<春樹>だぞ?」とドヤ顔を絶対にしてたはずが、意外とほとんどのアニメファンがまるでそれに気付いてないと思うのね。

こういうの、麻枝さんマジで可哀相・・(涙)

特に麻枝さんは作詞/作曲/脚本、その全てをできる人だからこそ<春樹>を<自分の土俵>で表現することに全力を尽くしてたという人である。
そして、その集大成ともいえたのが「エンジェルビーツ」だっただろうよ。

じゃ、皆さんにはその音楽の素晴らしさも含め、改めて麻枝さんの世界観に触れていただきたい↓↓

「エンジェルビーツ」AMV

・・やっぱ、いいねぇ!


そういえば、麻枝さんは今春クール、久しぶりに新作アニメをリリースしてるんだっけ。

「summer pockets」

・・ごめんなさい。
全然見てないや。
また泣かせてくれるやつだろうし、そのうち追っかけましょう。

さて、この麻枝准以上に忠実な形で<春樹>を映像化したのが「灰羽連盟」だと思うし、これまたビジュアル面がなかなか良かったわ。
沈んだ色調、街のデザイン、越えられない高い壁、まさに「世界の終り」、そのまんまの世界観じゃないか?

「灰羽連盟」OP

・・うん、いいねぇ!


でね、これ見て私感じたんだが、やっぱ日本のアニメを見る以上は、せめて「世界の終りと~」ぐらいは一応読んでおかないと、作品の解釈等で何かと不都合が生じることにもならないかな、と。
そういう作品の根っこの存在をユーザーが特に知らず、ただそこに咲いた花だけ、ただ表面の部分だけを愛でていても、そんなの本質を捉えられてないに等しいと私は思うんだよね。

余計なお世話かもしれんが、しかし最低限でもいいから<春樹>は押さえておくべきである。
だって、これほどまでセカイ系アニメが氾濫してる現状、やっぱその出発点となったものを無視する方が、むしろ不自然というものでしょ?
好き嫌いに関わらず、どうしても無視するわけにはいかないカルチャーって実際あるのよ。
アニオタにとってはそれこそが<春樹>であり、必ずやクリアしておくべき課題図書といえるだろうね。
別にたくさん読む必要はないし、何なら「世界の終りと~」1冊だけでいいと思うぞ?


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