「リボンの騎士」を見ると、めっちゃドキドキする・・
今回は、手塚治虫の名作「リボンの騎士」について少し書いてみたい。
この作品、名前を聞いたことはあるけど見たことはない、という人は意外と多いんじゃないかな?
できれば、これはひとりでも多くの人に見てもらいたいなぁ・・。
「リボンの騎士」(1967年)

なお、この作品は1967年、虫プロの制作。
「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」を経た後の制作ということもあって、だいぶアニメーション作りにも慣れてきたという印象がある。
だから「アトム」の頃に比べて、だいぶ画がよくなってるんだよね。


作画監督を務めたのは、中村和子さんと宮本貞夫さん。
宮本貞夫さんは、後にアメリカ/ディズニーに行って活躍したほど派手な実績だけに知ってる人もかなり多いと思うが、それより注目したいのは中村さんの方である。
レジェンドアニメーター/中村(穴見)和子

・・何なんだ?この美女は!
一瞬、リアル「リボンの騎士」かと思いましたよ・・(笑)。
はい、彼女はおそらく日本の女性アニメーター第1号といえる人でしょうね。
そういや以前、「なつぞら」という日本アニメ黎明期を舞台にしたドラマがあったじゃないですか。
NHK朝ドラで、広瀬すず主演のやつ。

これは、広瀬さん演じる「奥原なつ」というヒロインが実在のアニメーター/奥山玲子さん(東宝動画出身、後に小田部羊一と結婚)をモデルにしたやつだったでしょ?
で、このドラマ作中、なつの先輩にマコさん(演/貫地谷しほり)という人がいたんだけど、このマコさんこそが上記中村和子さんをモデルにしたキャラだったんですよね。
ちなみに、中村さんのニックネームは「ワコさん」だったわけで・・。

いや、このドラマのマコさんもスゴイ人だったけど、現実のワコさんもまた相当にスゴイ人だったらしいぞ?
なんせ、あの「アニメの神様」こと森康二さんが
「あの人は魔女じゃなかろうかと思いました」

とまで語っており、おそらくガチのプロフェッショナルだったんでしょうね。
とにかく、東映社内では社内ナンバーワンの美人として有名だったらしい。よくよく話を聞けば、彼女は東映入社前に「東宝ニューフェイス」の試験に合格してたらしく、つまり、女優としての進路を蹴ってアニメーターを志望したという変わり種なんですわ。

美大出身でデザインに強く、自ら着る服も自分でデザインしてたという才女である。
1960年代、まだ男尊女卑が色濃かっただろうご時世に、こんなスゴイ女性が既にいたんですね~。
ただ、この人は単にカワイイだけじゃないのよ。
どうやら一方で、かなり気の強いところがあったみたい・・。
というのも、その後に彼女は東映を辞めて虫プロに移籍をしちゃったんです。
周りは止めたらしい。
「虫プロなんて、1コマ打ち(フルアニメーション)をやらない三流の会社だぞ?」と。
・・そう、当時東映の連中はほぼ全員、虫プロの作品を軽蔑してたんですよ。
あんな画の動かないものはアニメーションではない、ってね。
ところが、ワコさんはそうやってディスる連中に対して、後にこうコメントしたらしい。
「東映的なやり方はダメなのよ。ナウなアニメというのは動かさないことなのよ」

・・うむ、どっちかというとカワイイ系じゃなく、カッコイイ系の人だね。
彼女は真の手塚信奉者で、決してリミテッドアニメーション(3コマ打ち)を否定しなかったらしい(実は、虫プロ社内にも否定論者は結構いたんだが・・)。

でね、ひとつ重要なことを述べておきたいんだが、
この「リボンの騎士」の制作途中、ワコさんの旦那はクモ膜下出血で急死しました。
それでも、作監を降りなかったワコさん・・。
どんだけ仕事の鬼やねん?
なお、手塚先生はそういう仕事熱心なワコさんのことが大のお気に入りで、その数年後、ワコさんのことをモデルにしたヒロインを立てて、1つの漫画を描きました。
それが皆さんもご存じ、この作品です↓↓
「三つ目がとおる」ヒロイン/ワトさん

そうなんですよねぇ・・。
「三つ目」の中で手塚先生はワトさんのヌードとか結構描いてるし、かなり好き放題やってます(笑)。

で、ワコさんもワコさんで手塚信奉者だから、そこにクレームはつけないんですよね。
なお、ワコさんは手塚先生が虫プロ社長を辞任したと同時に退社し、また、先生が逝去された時にはアニメーターという職から引退しています。
「手塚さんに呼ばれて虫プロに入って以来、今日までアニメを続けてきましたが、それは只々手塚さんのお人柄に魅かれ、そのお仕事をお手伝いしたいという思いからでした。
ですから、私にはもうアニメにこだわる意味がなくなってしまったのです」

ワコさんがここまで言うから、中には手塚先生とワコさんの不倫関係を疑う人もいたと思う。
でも、さすがにそういうのは無かったと思うぞ。
手塚先生、とにかく忙しかったから・・。
ただ、先生はワコさんをエロい目で見てたことは「三つ目」でしっかり証明されてますので、こういうのも「浮気」の一種かもしれませんね(笑)。
しかも、ワコさんは32~33歳ぐらいで未亡人だっただろ?
そりゃ、未亡人ってのは誰だって萌えるよなぁ・・

まぁ、こうしてワコさんの話ばかりしてるのもあれだな(笑)。
じゃ、「リボンの騎士」に話を戻しましょう。
ちなみにだが、ここの制作スタッフには、後のマッドハウス社長(現MAPPA会長)丸山正雄が「設定」を担当してたし、あと、我らが富野由悠季が演出/絵コンテとして入ってたということも押さえておくべきかと。
「うわっ、富野さん、例によってワコさんを怒鳴ったりしてないかな?」と心配になる人もいるでしょうけど、いや、キャリア的に当時ワコさんの方が全然上だったし、多分、大丈夫だったと思います。
よく知らんけど・・。

じゃあ次は、<富野由悠季と「リボンの騎士」の関係>について語っていきましょう。
これはね、正直いって結構重要なんですよ!
ただ、この件について語るには「リボンの騎士」の全面的ネタバレをしなくちゃ話が始まらんので、まずはそこをご了承ください。
ネタバレがイヤだという人は、ここで読むのをSTOP願います。
<「リボンの騎士」ネタバレ>

基本、この物語は権力闘争劇という構造。
シルバーランドの王のひとり娘が、主人公のサファイア。
本来、この国では男子にしか王位継承権が無い為、王の計らいでサファイアは「王子」として育てられている。
周囲には、オンナノコだとバレないようにして・・。
一方、王座を狙う奸臣/ジェラルミン公(←悪役)。
彼はサファイアがオンナノコであることを暴き、その王位継承権を失効させた上で、自分の息子を次の王座に就けようと企んでいる。


そう、この物語の基本構造は、【サファイアvsジュラルミン+ナイロン】なんですね。
で、大事なネタバレをひとついうと、最終的にはジュラルミンの陰謀により王/女王ともに殺され、サファイアだけが辛うじて生き残るのよ。
・・で、国は完全にジュラルミン一派に乗っ取られてしまいました。
当然、両親の仇討ちとしてサファイアはジュラルミンへの復讐を誓う。
やがて彼女は、仮面でその素顔を隠した正体不明のレジスタンス、「リボンの騎士」となった。
そして、敢然とジュラルミン一派に立ち向かっていく・・。

というプロットの説明だけで、もう既に、勘のいい人は気付いたでしょ?
・奸臣の叛逆により、殺された王、女王
・辛うじて逃げ延び、生き残った王子、王女
・仮面を着け、両親の仇討ちを誓う王子


そう、シャアアズナブルの元ネタは「リボンの騎士」なんですよ。
ならば、さしずめ「ガンダム」におけるジュラルミンは、デギンザビということになるんでしょ?
デギンザビ

でも「ガンダム」のプロットをよく思い出してほしいんだが、結局シャアはデギンへの復讐を果たせません。
なぜなら、デギンは身内のギレンに殺されちゃったから・・。
で、この「敵の内部における仲間割れ」という構造は、実をいうと「リボンの騎士」でも全く同一ですからね。
ジュラルミン⇒側近のナイロン卿に裏切られ、暗殺される
デギン⇒長男ギレンに裏切られ、謀殺される

さらにいうと、その後、ナイロン卿/ギレンともに彼らもまた身内の裏切りに遭うわけで、そういう細部まで「リボンの騎士」⇔「ガンダム」はプロットが酷似してるんですよね。
実は富野さんって、めっちゃ「リボンの騎士」の影響を受けてるとか・・?

うむ、よく富野さんは虫プロの悪口をいうけど、この人は時々「大嫌い」が「大好き」という意味だったりもするんで、正直よく分からんのですよ。
でも、やっぱ手塚先生の影響は大きいんじゃないかなぁ・・。
これは前述のワコさんもそうだが、やっぱ手塚作品って「才能ある人を引き寄せる引力」のようなものがあるんです。

特に「リボンの騎士」はジェンダーというデリケートなものを扱ってるだけに、やはり今見ても少しドキドキするんですよ。
だってさ、サファイアのカラダには「オトコノコ」と「オンナノコ」という2つの成分が入ってるんだぞ?
これは何を意味するかというと、
もしサファイアと交際すれば、それは異性愛と同性愛を同時に楽しめる、一粒で二度おいしいポイント2倍DAY、だよね?


こういう変態スレスレの変化球を投げてくる、手塚先生ってマジ天才だと思うわw
ほら、たとえば永井豪先生とか、彼は確かに豪速球投げるけど、球種は常にストレート一本だろ?
ところが手塚先生の球は、めっちゃくちゃ歪んだりするんですよ(笑)。

だから「リボンの騎士」も、たかがコドモ向けアニメだと思って侮らないでください。
案外、スゴイよ?


