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寸借詐欺

『敷居が高い』
相手に不義理があって後ろめたい状況を指す言葉であるが、ハードルが高いというような意味合いの誤用パターンが横行している。
私は商店街で古本屋業を営んでいる。商店街組合として宣伝のためにコミュニティFMで番組を放送しているのだが、深夜番組好きの会長の意向で各商店持ち回りで、毎週順番にエピソードトークを披露している。これをあえて誤用パターンで言う→本当に『敷居が高い』。芸能人でもないのに、素人が面白いトークをそんなに簡単に出来るわけがない。
そして次回が出番の私は気が気ではない。もちろん、手ごろなトークの持ち合わせなどない。古本屋としては仕入れた村上春樹さんのエッセイ→ジャズバー経営のため、明日支払わなければ不渡りになるが、支払い額をどうしても用意出来ない夜に、あてもなく散歩をしていると、本当に必要な額のお金を拾って、事なきを得たという時効なエピソードを読んだことを思い出し、日が沈んだ頃合い、シャッターを閉めて、お金はいいので必要なトークを拾いに散歩に出ることにする。
 とはいえねぇ、ただ歩いていても、そんな都合よくエピソードは飛び込んでは来ませんよ!と思っていたところ、交差点の信号待ち→小学校低学年の男の子と付き添っている30代くらいのお父さんとの会話。「やっぱり神戸牛だよな。」話しかける父親。対して子は「神戸牛より松阪牛」反論する。父親は「そんなこと言っても、神戸牛と松阪牛、いっしょに焼かれて出て来たら区別つかないだろ?」もっとも、と私は思いながら聞き耳をたてる。「そんなことないよ、松阪牛は特有の脂肪の霜降り具合を見れば一発だから」やたらグルメ?な子の返し。末恐ろしい、とか思いながら信号が青になったので歩き出し、親子の会話から離れる。興味深くはあったが、今の会話をエピソードにするには、弱いか?もう少し何かしらなサムシング/エニシング求ム。仕事の事ならともかく、なぜこんなことで悩まないといけないのか?うーむ、嫌になってきたので、気分転換に(気分転換の散歩ではあるが)自販機で缶コーヒーを買おうと小銭を取り出したところ、、チャリリーン、思わず落とした小銭が道路を転がっていく。目で追うがカラダがなかなかついていかない。そんなとき→長髪でメガネをかけた欧米系の女性(女性に失礼な言い方かもしれないが、なんとなく軽井沢にいた頃のジョンレノンを思わせる雰囲気)に小銭を拾ってもらい、思わず「ソーリー、サンキュー」と伝えると、「えっ、いや全然」と流暢以上にネイティブな日本語を返され、何だか逆に焦ってしまう。その数秒後、これもネタに〜と思うが、やはり弱いか。と、思っているうちに商店街周りを一周し、我が古本屋に戻ってきてしまったではないか!うーむ、この弱い2本のみ、、困ったなあ、と思った瞬間、先ほど落とした小銭から昔のあるエピソードが頭の中から転がり落ちてきた、、、


〜〜聴いていただきました曲はエルヴィスコステロ&ジアトラクションズで"Everyday I write the book"でした。というわけでお送りしてます商店街ラジオですが、私は毎日本を書いてるわけではなく、毎日本を売っておりまして、古本屋でございます。で、今回お話しするのはその家業の古本屋を継ぐ前、学生の頃の話でして、、→学校へは徒歩で通学してたのですが、ある朝、通学路の途中で、みすぼらしい感じのオジサンに呼び止められました。お金を貸して欲しいというのです。オジサンは上着を少しつまんで、自分のお腹を見せ、「ここにキズがあるでしょ?これの治療をしたいのだけど、病院まで遠くてお金が足りない」と病院の診察券も見せてきました。確かにキズはあるのだけど、診察券の病院は妙に遠い郊外にあり、ココから電車を乗り継がないと行けない距離。もう少し近所の病院でいいのでは?と口に出したかは覚えてないけど、思わずそう思ったものでした。それで、結局オジサンは2000円要求してきたのです。私にとって2000円は当時厳しい額で、少しかわいそうな気もしましたが、ごめんなさい、しました。その時のオジサンの残念そうな顔が胸を締め付けます。ところが、数日後、まったく同じ時間、同じ場所で、そのオジサンはまったく同じ手口の2000円、私に声をかけてきました。若かった私はそこで、これが『寸借詐欺』というものか、と勉強したわけです。やるつもりはないですが、以前に声をかけた相手は覚えておくものだな、と。その後、私は家業の古本屋を継ぐ気はなく一般企業に就職し、社会人として、あくせく働いておりました。そんな、ある日の帰り、雨の日の晩でした。スーツ姿で傘を差しながら、信号待ちをしていると、「すいません」と声をかけられました。私の持っているビニール傘よりも、見ただけでグレードが高いと分かる傘、身なりも私のサラリーマンスーツよりも、遥かにこぎれいなジャケット姿の紳士でした。こんな立派な人が私に何用か?と思っていると「小用で市バスに乗りたいのだけど、あいにく小銭を持ち合わせてなくて、すいませんが200円ほど、お借りできませんか?」〜その瞬間、私の頭の神経細胞が雷のようにバリバリとつながりました。こぎれい過ぎて、まったく気づきませんでしたが、顔はあのみすぼらしかったキズ&妙に遠い病院男です。
あんな商売(?)でこんなに成り上がれるのか?凄すぎないか?しかも、まだこんなことで稼いでるのか?立て続けに質問事項が自分の中に湧き上がりますが、まさか本当に聞くわけにもいかないですし。にしても、前は2000円でしたが、今回は雨の日バス代200円と手ごろ。さらにこの雰囲気なら、マジで騙される人も多そう。妙な納得感。やはりサギも「敷居は低い」に越したことないものです。(了)

↑これは古本屋業のアナザーデイて感じです。

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