禁酒を破った夜に、教材を買った/昔稼げた男のしょうもない再起録 #4
スナックさちこから帰った夜。
酒の匂いを消すために、水を飲んだ。
たぶん消えていない。
でも、自分では消えたことにした。
妻には何も言わなかった。
禁酒中に飲んだことも。
昔話をして、少し気持ちよくなっていたことも。
「で、今は何してるの?」の一言が、まだ頭に残っていたことも。
布団に入っても、眠れない。
横で妻が寝返りを打つたびに、少しだけスマホを伏せた。
別に悪いことをしているわけではない。
いや、禁酒中に飲んで帰ってきた時点で、少し悪い。
なので、スマホを見た。
経験上、良くない流れだと分かっていた。
楽に戻れる方法を探していた
検索したのは、副業だった。
note。
Brain。
ココナラ。
目に飛び込んできたのは、
「24時間自動収益システム」
「コピペで簡単」
昔なら、少し鼻で笑っていたと思う。
そんな簡単に稼げるわけないだろう。
そう思っていたはずだ。
でも、その夜のボクは違った。
楽に戻れるなら、戻りたかった。
もう一度ゼロから積み上げるのは、正直しんどい。
体力もない。
気力もない。
でも、何とかしたい。
そういう時の副業広告は、妙に明るく見える。
今だけ、に弱い夜
気づけば、ある教材の販売ページを見ていた。
動画講座。
限定ノウハウ。
個別サポート。
本気の人だけ。
今だけ特別価格。
画面には、赤い文字でこう書いてあった。
通常価格150,000円。
今だけ59,800円。
さらに下では、カウントダウンの数字が動いている。
残り何時間。
残り何分。
本当にその時間で終わるのかは分からない。
でも、深夜の布団の中で見るカウントダウンは、昼間より少し強い。
都合が良すぎるだろう。
そう思う自分もいた。
でも、弱っている時は、少し希望に見える。
これを買えば、昔の自分に戻れるんじゃないか。
そんなことを考えていた。
かなり危ない。
進んだのは、カードの利用額だけだった
気づけば、購入ボタンの前まで来ていた。
買えば変わる気がした。
買えば、戻るきっかけが手に入る気がした。
結局、買った。
決済完了の画面を見た時、少しだけ人生が進んだ気がした。
進んだのは、人生ではなくカードの利用額だけだった。
決済完了メールが届く。
妻に見られたら、少し面倒なことになる気がした。
悪いことをしているわけではない。
自己投資である。
そういうことにした。
禁酒を破った夜に、自己投資。
なかなか都合のいい言葉である。
そのくせ、教材用のフォルダ名だけは立派につけた。
「再起プロジェクト」
我ながら、名前だけは強い。
中身はまだ、何も始まっていない。
名前だけは堂々としていた
翌朝、教材を開いた。
PDFはちゃんとしていた。
動画も並んでいた。
目次も立派だった。
それだけで少し安心した。
もう半分くらい変わった気になった。
もちろん、変わっていない。
1本目の動画を少し見て、メモを取った。
なるほど、と思った。
これは使えそうだ、とも思った。
そして止まった。
記事は出していない。
商品も作っていない。
売り場もない。
100円も生まれていない。
残ったのは、教材と、まだ何も出していないボクだった。
翌朝のパソコンには、新しいフォルダだけができていた。
「再起プロジェクト」
名前だけは、やたら堂々としていた。

👇このお話の続き
👇このお話を最初から読む
いいなと思ったら応援しよう!
チップなんて…そんなお気を遣わずに…ありがとうございます!