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2月生まれの大魔王

いやあ、去る2025年は手を変え品を変え多種多様な災難を堪能いたしました!

「一体全体私が何をしたって言うの?!」
と自身が、泣く子どころか笑う亡霊すら黙る大魔王だということも忘れ、悲劇のヒロインぶるなどした日もあった。

ちなみに大魔王として命を繋ぐためにはその年に犯すべき罪のノルマが決まっている。
そのノルマを達成できなければGSギルティ・スコア不足と認定され翌年にはただの人間、それも後継の大魔王のお世話係として仕える身となる定め。
それ故罪は犯しきらねばならない。

因果応報という言葉があろう?
大魔王の身体を維持するために必要な罪を犯すたび、その報いは必ず受けなければならないのだ。

故にその災難たるや、吾輩が一流の大魔王であることの証明とも言えよう!

芋虫爆弾により白いカーゴパンツが御陀仏になり、自宅玄関で職質を受け、幾度となくトイレは詰まる……

これらも全て私自身が望んで招い……?

この世の茶柱が全倒壊したのかと疑うレベルの泣きっ面にオオスズメバチである。
一難去っていないのに五難くらい来る。

「茶柱全倒壊」

という具合に九月にはすでに音を上げていた。
つらいのは男もとい寅さんだけじゃない!
大魔王もつらいよ!

その後も鼻のイグアス化、物理的5テラバイト増量に伴う膝大規模爆発といった負のめしませアラカルトをくらい更に……ゲフンゲフン!

とはいえ神の方も色々大変だったのだろう。
スサノオのブチギレ問題発言や、ふらりと迷い込んできたガネーシャによる稲の食害に伴い経済活動が低迷。

(中略)経済的に参っていて
初穂料をふんだくるべく我に災難を送り込んでいる(中略)

モルディブあたりのホテルに閉じ込めた下っ端の神が朝から晩まで缶詰で災難を送り込んでいるのだな?

気づいておきながら神たちの経済活動に貢献することなく年の瀬を迎え、一週間前にぼーっとしていて左手中指を盛大に火傷。
べ……別にリアム・ギャラガー的ポーズをしていた訳じゃないんだからね!

極め付けは十二月三十一日。
「大晦日!チキチキ⭐︎蕎麦屋椅子取りゲーム」の参戦権すら入手できなかった我々は途方に暮れていた。

店から出て来たデカバラをさするニヒルな男の恵比寿顔が癪に触る。
触っただけだ。
特に何も起きやしない。

「あ、お寿司は? 回転寿司。」
「ああ……輪廻せし白銀上の銀鱗ね。いいんじゃない?」
「え?」
「輪廻せし白銀上の銀鱗!」
「はい?」
「輪廻!」
「リンネ!」
「せし!」
「セシ!」
「白銀!」
「ハクギン!」
「上の!」
「ジョーノ!」
「銀鱗!」
「ギンリン!」

というわけで我々は白銀上の銀鱗、もとい寿司の輪廻を断ち切るべく回転寿司屋の扉を開ける。

「さあ、寿司たちよ! 今こそ解脱するのです! わたくしがきたからにはもう……」

……ん?

「お……お客様、お席あちらです。お連れのお二方……」
「ヴェ?! どっ! どうもすみません、かたじけない! あ、かたじけなくない! なくはない! あの! ごめんなさい!」

おい、天野および娘!
病人を置いてそそくさと着座するな!
(病名:重度の厨二病)

遅れて席についた私にもタッチパネルは優しい。

──ようこそ、いらっしゃいませ!

しかし、その優しさに触れようと指を近づけた途端、笑顔は絶ち消えた。

「聞こえますか?」

……やはり反応がない。
私はすかさず真っ黒になったその顔をトントンと刺激する。

──意識レベルJCSジャパンコーマスケールⅢ-300

Ⅲ=刺激しても覚醒しない
300=痛み刺激に反応しない

……触れ合うことすら許されないのね。
前もそうだった。
そう、この場所で。
あなたと同じ姿で、あなたと同じ言葉で、あなたと同じだけ優しかった。
でもやっぱり私が触れようとした途端、こと切れてしまった。

真っ黒な服に身を包んだ華奢な男が、まだ温かさの残るあなたを抱きかかえて小走りで去って行く。

私はね、その姿が見えなくなるまで見送った。
「さよなら」は言わなかった。
言えなかった。
言いたくなかった。
だって、温かかったから。

また黒い服の男がやって来た。
「今度こそ、上手くやれよ」
低い声でそう耳打ちした。
何のことかわからなかった。

これだけはわかったの。
あなたにそっくりだけど、違う奴だって。
右頬の傷がなかったから。

私は慟哭を味覚を騙しながら身体の奥底まで飲み下すことにした。

緑色の粉を三掬い、熱いお湯を……

「うおおおおおっ!!!!」

どうやら設置面の摩擦をゼロにするエスパーに目覚めてしまったらしい。

左手中指を再度火傷。
重ね重ね、火傷。
軽率に火傷。

お店の方、飛んでくる。
重ね重ね、謝罪。
お店の方はなにも悪くないのに謝罪。
お互いに謝罪。
止まらない、謝罪。
熱湯蛇口も何故か反省。

しかし、艶やかな銀鱗をたたえし麗しの白銀をたらふく食べ、大満足の晩餐を終え私は思い残すことは何もないと信じ切っていた。

……この時までは。

さあ、本年の穢れを落とし切るぞ!
服を脱ぎ捨ていざ風呂へ。
丁寧に身を清め、湯船の蓋を開ける。

ふんわりと温かな白い霞に包ま……

おん?

ない!
なにもない!
湯がない!

栓をし忘れるという凡ミスをやらかす。
私は200キログラムの巨体をぶるぶる震わせながら身体を拭く。

「大殺界もいいところなんだが?!」
と全裸でブチギレていたら揺れに驚いた天野がやって来て
「あー……2月生まれの水瓶座、2025年は凶年ランキング堂々の一位だったみたいだよ。」
とインスタグラムのリールを見せてくる。

そうか……
あの彩り豊かな災いの大盤振る舞いはそういうことだったのか。
めくるめく災難の数々が脳内を駆け抜けていく。
全てが腑に落ちてゆく。

全ては因果応報。

受けた災難の数だけ犯した罪を思い出す。
ほくそ笑みながらGSギルティ・スコアをカウントする。

……どうやらこれで来年も吾輩は大魔王でいられそうだよ。
おっと、もうこんな時間だ。

それではここで、失礼するよ。

夜を除く鐘のを聴くことなく新たなる年を迎えた。
私の左手中指にはきちんと罪と罰とが刻まれている。

しかし私は不安なのだ。
鐘の音は聴こえずとも鈍足な波として我が鼓膜を震わせたはずだ。
つまり、意識は眠界みんかいに存在していたとて我が実態そのものの一次聴覚野には届いていたということになる。

もしやこれは……
リセットされている?

しかし……
疑心暗鬼になりながらひたすら左手中指を見つめていたら壁に激突した。

「うーわ! マジWonderwallびっくり壁!」

ほら、早速因果応報。
あまりの自分の優秀ぶりにすっかり参っちまうついたちである。

水瓶座、二月生まれの大魔王は難攻不落。
今年の「凶」という「凶」は全て吾輩が頂いた!

笑うのは私か?
それとも鬼か?
はたまた……おぬしか?

私は黒い液体で笑いを流しこ………
「熱!!!!」

口の中火傷した。

ああもう!
新年早々踏んだり蹴ったりだ。

蜂よ。
このクソ寒いのにブンブン飛ぶんじゃない!

大魔王は皆の幸せを願う。
だがそれは優しさからくるものではない。
私利私欲を満たすため、保身のため、地位の為だ。
だから「凶」を私に差し出すのだ。
それが私の生命線だから。

頼んだぞ。



ギルスコのため方など。

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