無論、パン
「マロンパン、ミロンパン、ムロンパン、メロンパン、モロンパン……」
「パロンパン、ピロンパン、プロンパン、ペロンパン、ポロンパン……」
とタイピングに合わせてボソボソ言う私の目の前であの男がパンを喉に詰まらせて
フゴォッ!!!!
となっておりました。
アラウンドサーティ男性の嚥下機能がここまで低下しているとは想定していなかった。
元・看護師として自身のアセスメント能力の低さに脱帽……ではなく戴帽式で授けられたナースキャップを返納せねばならんと思った。
というか元・看護師という時点ですでに返納しているような気もするがな!
今度から看護師が看護師を辞める時は返帽式をやろう、そうしよう。
ところで、看護協会の皆様、私はこのままあの免許証(失踪中)を保持していてよろしいのでしょうか?
問題があればDMでよろ!
(ノリは、羽根よりも軽い。)
天野「っあーーーー!! 死ぬかと思った!! 変なところに入った……!!」
私「おおん? 何が“変なところ”じゃ!!」
天野「え?!」
私「気管だよ、それは変なところでもなんでもなく気管だよ!!」
天野の気管よ……
憂うこと勿れ。
代弁者・俺、今汝の言葉を述べよう……
「俺に変なものを入れるな!!
酸素以外のものを入れるな!!」
なにもこれを言いたいのは天野の気管のみならず。
世の中の数多の気管が今日もどこかで“変なところ”扱いされている。
私はそれが悲しい!
変なところ呼ばわりされてもなお、
主人の身体を守るため、咳反射で護衛にあたっておられるのだぞ!
そんな気管様を……
それでも貴様は“変なところ”呼ばわりするのか?!
日々、おぬし達の身体をどちらかといえば最前線で守ってくれている気管様を……
なおも侮辱するのか?!
なお、今まさに気管様は繁忙期にあられる。
【気管様が現在抱えているタスク】
①秋の花粉の撤去作業(随時)
ブタクサ・ヨモギ・カナムグラ
②各種ウイルス・細菌・微生物への退去指示
◽︎マイコプラズマ肺炎の原因となる微生物“肺炎マイコプラズマ”対応(緊急)
◽︎インフルエンザウイルス対応(前倒し)
◽︎新型コロナウイルス対応(夏頃より継続中)
〈お子さま〉
◽︎RSウイルス対応(常時)
◽︎A群溶血性レンサ球菌(緊急)
③その他
◽︎乾燥した空気(突発・緊急)
◽︎誤嚥(常時)
こんなにも忙しなく働いておられる気管様だが、思いの外控えめで
臓器界の花形・心臓や肺に隠れ霞んでいる印象が否めない。

【気管】
下気道に属する呼吸器。
成人で直径約2cm、長さ約10cm。
心臓の裏あたりで2本の主気管支に分岐する。
右気管支は左気管支と比較して太く、25°と鋭角に位置しているため異物が侵入しやすい。
左気管支は45°である。
感染防御機能のはたらきによって無菌状態。
外から異物が侵入しても粘液で包まれ、線毛運動によって食道や口外に排出される。
簡単に言えば、
喉の下あたりから始まって、心臓付近で究極の二手の分かれ道を展開してくる場所。
しかも、中は毛むくじゃら。
例えるならば、草だらけの道。
我が家の庭!
獣すら通らないから獣道にすらならない草だらけの無法地帯……
それは言い過ぎた。
ええと。
全然無駄ではない毛。
身体において髪の毛、まつ毛、眉毛と並んで無駄扱いされない毛がいっぱい生えている。




これらをふまえ、
先ほどの天野の気管で何が起きていたかを再現ドラマでどうぞ。
天野「メロンパンっパンパパンっ!」
天野の脳(視床下部)「それは美味いぞ!食え!」
天野「いただきまーす!」
〈外部環境〉
迷惑人間1号「マロンパン、ミロンパン、ムロンパン、メロンパン、モロンパン……」
「パロンパン、ピロンパン、プロンパン、ペロンパン、ポロンパン……」
迷惑PC1号「タンタカタンタカタンタカタカタンパァァァァアン!!」
天野の視床下部「食べろ!食べろと言っているだろう!」
天野「モッシャモッシャ」
天野の視床下部「そうだ、いい子だ。」
天野の聴神経「音声入力信号を受信、聴覚野へ送信を開始します。」
天野の側頭葉聴覚野「受信完了、ウェルニッケ野にて情報のスキャンを開始します。」
天野のウェルニッケ野「解析完了。無意味な音声です!危険!Warng!危険!Warning!」
メロンパン「おおっうおっ!!え?!」
天野のウェルニッケ野「無意味な音声です!危険!Warng!危険!Warning!」
天野「(マロンパンミロンパンってなんだよ馬鹿だろ!)」
メロンパン「お……俺が行きたいのはそっちじゃなァァァァい!!!」
気管「へ?!隕石?!ふおおおおおおおお!!!!線毛全力稼働で迎え撃つ!!!さあ!!!こい!!!」
メロンパン「ああああああ!!!」
気管「迎撃開始!!!」
天野「フゴォッ!!!!」
こういうことである。
“むせる”って一見アレだが、まだ“むせられる”だけいい。
むせられなかったら右気管支、詰まり放題である。
別に右気管支は詰め放題の会場でもなんでもないからな。
で、ワタクシとて意味もなくマロンパンだのペロンパンだの言っていた訳ではないのだ。
というのは自分を正当化するための嘘だが、
あれはな、“気管に変なモンが入った時にむせる”ないし、そもそも“気管に変なモン入れない”ためのトレーニングになるだよ!
嚥下体操ってご存知だろうか?
これは口周りの筋肉なんかを覚醒させて、
メロンパンのみならず食べ物やら飲み物やらを正しいゴールに落とすべく行うブートキャンプなのだが……
看護学生諸君。
言われない?
教員に。
「パタカラ体操丸パクしてねぇでオリジナリティ出してけ!!他人の褌で相撲取ってんじゃねえよ!!」
ってさ。
私は言われたんだが、まあそれはいいとして。
でだ。
深夜、翌日に嚥下体操指導を控えた俺が編み出したのがこれ。
「マロンパン、ミロンパン、ムロンパン、メロンパン、モロンパン……」
「パロンパン、ピロンパン、プロンパン、ペロンパン、ポロンパン……」
デイサービスの会場でやらせてもらったのだが、
大正二桁&昭和一桁&二桁ガチ人生の先輩たちが本気で取り組んでくださったのだよ!
「こんなの、朝飯前だよ!」
とファンキーな女性が言っていた。
昼飯前に。
そのせいで、認知機能のアセスメントどうなってんの、と教員に詰められました!
そこは、慣用句として理解しろよ看護師!!
看護師免許とると慣用句がわからなくなるのかと思って一瞬国試受けるのやめようかと思ったくらい。
国試受かって酷使されるんだからやはり受けない方が良かったかもしれん!
それはさておき、とにかくこれはデイサービスでバズり散らかした。
そして、
“メロンパン食べたくなった”の民が続出したので
食事前の水分摂取についても説くはめになったがまあよい。
老年看護学があまりにも苦手で単位習得が危ぶまれたワシも、このバズりのおかげで無事単位が取れました。
うれしくて嗚咽したらむせました。
気管に変なモンが入ったからです。
はい。
看護学生の皆さんは、オリジナル嚥下体操作ってこいとかって無茶振りされたらぜひ試してくれよな!
天野はゲフンゲフンしながらも、メロンパンを食べることをやめなかった。
テーブルにはボロボロボロボロとパンの残骸が気の早い雪の如く降り積もる。
そこを迅速過ぎる除雪車の如く指で回収していくお下品アラウンドサーティ男性。
メロンパンを食べている間中ゲフンゲフンしていた。
私は私でタンタカタンタカタンタカタカタンパァァァァアン!!しながら例の呪文を唱え続けた。
むせかえるほどのメロンパンへの愛は決して止まらない。
無論、メロンパンは彼にとっての正義であり続けるのであった。
結論、誰も悪くない。
だから、今日も気管はなんと呼ばれようとも主人の身体を守るべく働く。
メロンパンのサクサクの帽子も、私が返せずにいる真っ白な帽子も
きっと誰かの正義なのだ。
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