みみずのお目覚め
たぶん、これは僕の名だ。
たぶん、それは俺の靴だ。
それで、この体感三十九・八℃の身体は誰なんだ?
光の中で僕は溺れている。
──アクセスが集中しています。
まるであのロックバンドのファンクラブ先行予約じゃないか!
デジャヴだ……
あれは確か……
何……
あれ……
──本日の予約枠は埋まっております。
他院へのお問い合……
「ああ!」
灼きただれたような喉からは声の燃え殻みたいなものしか出てきやしない。
今の僕には、熱いライヴへの招待状もなければ発熱外来の整理番号すらない。
途端、肺の表と裏が逆転したみたいに激しく咳き込んだ。
左肺の揺れるような感覚。
その反対側にはじっとりと貼り付くようなひりつきを覚えた。
喘鳴の後、僕は茫然と窓の外に目をやる。
そうだ、そこの君だ。
いつも、いつも、いつも……
まだ、まだ、満足できないの?
いくらなんでも強欲過ぎるだろう。
奪うだけ奪ってそれでもまだ……?
これが夢か現かわからない。
だけど、そこの君。
見ているだけならりんごのひとつでも切り分けてくれたっていいじゃないか。
せめて蔑むな、哀れめ!
蝕まれし我が身を!
違う。
鯖缶すら開けられぬほど非力な……
それも違う。
ああもう……
とにかく……
「っ……!」
窓の外、遠ざかる榛色の猫の尾っぽを睨みつけた。
仄暗い、側頭動脈の拍動に揺れる景色は信用するに値しない。
猫は去る。
ベッドの端に腰掛けて、澄ましているのは誰なんだ?
ダークグリーンの小綺麗なスーツの……
さっきからそこで……
──なんだ?この牢屋みたいな部屋は……
「二十平米の牢屋があってたまるもんか! 家賃六万三千円……管理費込み……来月から二千円値上げだ……世知辛い!」
──君は囚われの身なの?
「違う。マトリョーシカだ……マンションの中に部屋、部屋の中に僕、僕の中に……ウイルス……」
「ねえ、僕からも訊いていい? 君はどこから入ってきたの?」
──さあ?
君の中の穹窿の空にでも聴いてみたらいいんじゃない?
「あ……ちょっと……」
急激に落ちてきた睫毛。
閉ざされた世界。
身体の全てが心臓になったかの如く感じられる大きな拍動。
「ねえ、いないの?」
……じゃあ僕は、誰なんだ?
ドッ……ザー……
ドッドッ……ザー……
浅い呼吸の中で聴く、あまりに静かな雨の音。
いいや?
僕はさっき、朝日を見た気がする。
正確には、身体の左半分を照らされた、何者か。
つまりこれは、脈の音。
──ガサガサ……ゴッ!バサッ……
──ガサガサ……
僕は掛け布団も毛布もすっかりどけて、積読の山を踏み越える。
二十平米のワンルーム。
余る熱に、軋む節々。
球関節の毳立ち。
冷えたドアノブがかえって心地よかった。
覗き窓から見える、半球の空……
半球の空……
半球の……?
腹の虫が鳴く。
否、大蛇の咆哮!
鍵を捻り、わずかに開けた扉の裏。
真っ白な袋が渇いた風と戯れる。
柔らかな陽射し。
袋の中を覗き見ながら、僕は思った。
これは冷えた土の中、わずかな温みに目覚めるミミズの心持ちだ。
全てはウイルスが見せた美しい夢。
綺麗に賽の目に切られたリンゴを、我が穹窿の空に……って……
リンゴについた歯形、これ、本当に僕……?
三十七・四℃のこの身体は……?
僕の空っぽだった穹窿は、もうきっと赤い赤い夕焼けに染まっているだろう。
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やればできた!
恋愛小説が書けた。
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風邪をひくと人間、弱気になるものです。
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体調を崩すたび心の中で遺書を書くよ、私は。
この主人公よりタチが悪い。
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ヒートテック着てあったまってこ(エッセイ)。
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ゆきお様・作
これぞまさしく飛沫発熱狂騒!
タイトルがまず、いいじゃないですか。
「ミミズのザラメ」。
誰が思いつきましょうか?
シナプスはどこへと繋がるのですか?
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よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し