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致死量のプリティ、嘘つきの私

私の正体は小説家である。
商業デビュー五年目、文学賞受賞二回。
得意ジャンルはミステリだ。
なお、この四年間は壮絶なスランプの中にいる。

信じるか信じないかはあなた次第。

というのは安定の嘘である。
私は今、狼少年に憧れているから一日一善ならぬ
“一日一嘘”を心がけておる。

何が「得意ジャンルはミステリです」だ!
江戸川乱歩が子ども向け小説を書いていたことを知ったの、ほんの二日前のくせに。

何をいけしゃあしゃあと言ってやがる!
てやんでい!

否。
私ほど私として生きることが下手くそな人間はおらん。

だから最近は
壮絶なスランプの中にいる商業デビュー五年目、文学賞受賞二回、得意ジャンルはミステリの小説家で、毎日十一時にエッセイの締切、そして何かしらの原稿の締切に長期スパンで追われている小説家として暮らしている。

なぜ十一時かというとちょうどその時間に、
我が家付近の防災無線からふざけた音楽と共に電子的な女性の声で
「詐欺には(ニワニワニワ※エコー……)じゅうぶんに(ンニンニンニンニ※エコー……)気をつけ(ツケツケツケツケ※エコー……)ましょう(マショマショマショマショ※エコー)」
という「お前がな!」と言いたくなるような非常に胡散臭い放送がもたらされるからだ。
いや、理由になってないな。
反省してくれ、粛々と。

兎にも角にも、スランプの中にありながらも売れっ子のミステリ作家を気取っておくと世の中の大半のことは「まあ、いっか」で済ますことができる。

例えば、体重が二百キログラムになろうが、江戸川乱歩が市川整止になっていようが「まあ、いっか」だ。

だがしかしだ。
断じて狼少年になりたいわけでもない。

そもそもが少年という年齢ですらない。
せいぜいなれたとて狼中年※年齢である。
非常にタチが悪い。
予後も悪い。

ところで、先日ひきこもりの分際で東京都中央区という名ばかりセンターの「馬喰町」などというおぞましい街に馳せ参じた。
「来年の干支が喰われておる!怪奇怪奇!」
などと思いつつガタンゴトンとゆらりゆられて三千里(※距離盛るな)。

途中、女子高生のバッグについているマイメロちゃんの数を数えたらぴったり五十個だった。

二回数えた。
二回とも五十個だった。

だから私は述べ百体ものマイメロちゃんを見た。

一生分どころではない!
致死量のマイメロちゃんを見てしまった。

嗚呼、さようなら我が人生。
あれもこれも未完のままになるのね……
まるで、マルセル・プルーストのようじゃない!
『失われた時を求めて』……

──ばくろちょう、ばくろちょうです。

いけない。
とんでもない量のプリティーとピンキッシュを摂取したせいで気絶しておったわい。

いや待て。
今「ばくろちょう」と聞こえたがナンジャラホイ?

十二指腸、ホロホロ鳥、警視庁ならご存知だが
“ばくろちょう”ってナンジャラホイ?

視線をグイと持ち上げると「馬喰町」と書いてあるじゃないの。
これ、目的地。
危ない危ない。
かねてより「うまくいまち」だと思っておった。

という本当のことを暴露してみたぞ。
馬喰町だけに。

とまあ私の非常識ぶりがミステリである。

現実はミステリー小説よりも奇なり!

という私の決め台詞がようやく飛び出したところで本題。

本題までに千三〇三文字あった。
いやあ、ここまで辿り着いてくださったあなたは勇者!
オリンピックの長距離走出るべき!

あのですね、冒頭でも述べた通り私って小説家じゃないですか。
それもミステリの。
だからやっぱりミステリ書かないとな……ゲフンゲフンッ
ミステリしか書けないので書いたんです。

「非番の平日、粛々と」
というタイトルでございまして、主人公は本日非番の警察官・烏丸からすまカスミ(27)。
非番だというのに担当する事件に自ら翻弄されに行く話だ。
なお、烏丸が担当するのは「連続殺人事件」である。

実はこれを書く前日、凄まじくふざけたサイレンのパトカーが自宅前を五往復もしたのだ。
あまりにもふざけていたのでこちらもふざけてスマートフォンのメモ機能に、しっかりと刻み込んでやった。

──ピーポーピーポーピーポーピーポー……
ウォウウォ!
ピーポーピーポーピーポーピーポー……
ウーウッ!
ピーポーピーポーピーポーピーポー……

「非番の平日、粛々と」

ウォウウォ!なんて、モーニング娘。の「LOVEマシーン」を彷彿とさせる完璧なウォウウォ!だった。
ウーウッ!に関しては本場のマンボだったぞ!

でだ。
あまりにも通るから恐らくまた私を逮捕しにきたのだろうと思い外に出た。
いかんせん、昨夜遅く自宅階段で唐突にT.M.Revolutionごっこと称しWHITE BREATHを熱唱、それもご丁寧にビブラート付きでやらかしたのでやましい点がモリモリなのだ。
だから自主して減刑してもらうつもりだった。

エアコン消し忘れ 金欠だけはデフォルトで
乾燥した空気に ノドを痛めてる

Y.M Revolution「WHAT BREEZEN」(T.M Revolution「WHITE BREATH」の替え歌)

が、しかし。
私はここでとんでもないモノを発見してしまう。

……首のない、バラバラの遺体を。



鳩の。



あ、そうです。
「非番の平日、粛々と」
の登場人物は全員、鳥です。

そう、鳥です。

モチーフは、鳥が巻き起こした食物連鎖の縮図です。

それもそうだが私はただただ鳩の死に打ちひしがれていた!
だってあの子は私の心の友だったから。
私たちはあまりにも互いを知り過ぎていた。
心を通わせてきた(一方的に)。
だからこそ、そんな彼女の痛ましい姿を目の当たりにした私は何も手につかなくなった。

──ミク。
まさか、私が第一発見者になるなんて。
思ってもみなかった。

この一ヶ月くらい、毎朝七時十分に庭のモミジの木にやってくる規則正しいキジバトの大豆生田美鳩おおまみゅうだみく

そんな大豆生田氏は常にボッサボサ。
なお、私の頭は鳥の巣並みにボッサボサである。

大豆生田氏のボッサボサゲージは十段階中の七。
“今シーズンで着倒すから”
などと安直に購入したものの思いの外着心地が良く、今年で七年目くらい着続けているプチプラのロンTくらいの質感で、そこがまた生活感があって魅力的だった。

そんなボッサボサの大豆生田氏は、一応美容にも関心を持っている。
もみじの枝にぼってりととまり、ツンツクツンツク忙しなくやる。
とにかく、やる。
途中ムクドリに「ギエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」と言われても、やる。
やめない。
ヒヨドリが「ピイイイイイイイイヤ!!!!」と新手の小島よしおと化していたってやめない。
ずっと、やる。

ちなみに、どこをツンツクしているとお思いだろうか?

脇なのだ。
脇をツンツクしているのだ。

脇のあたりをひとしきりツンツクした後、
「臭っさ」みたいな反応をする。
体感三秒間。
そして決まって私の方をチラ見してくる。

「いや、マジでさ、やっべえクッセぇのよ。嗅ぐ? ほれほれ、嗅ぐ?」
の顔。

その前にフレーメン反応の如く虚無フェイスするのだが、鳥はフレーメン反応しない生物だしなんなのだろうか。
フレーメン反応ってほら、あの犬とか猫とかがやつ。
人様の秘密の花園のかほりを嗅いでしまった時なんかに瞳孔かっぴらいて口半開きみたいな……
そうそう、それだ。

先程、三秒ほどと言ったが
「ちょっと待ってて」と言ったきり五時間は戻らない私の言う“三秒”ほど信用ならないものは
政治家の「秘書がやりました」くらいのものなのできちんとデータをとってみた。

キジバト・大豆生田美鳩の「臭っさ」秒数の測定
測定機器:iPhone XR(瀕死)
◽︎1回目:3.04秒
◽︎2回目:2.48秒
◽︎3回目:3.55秒
◽︎4回目:3.29秒
◽︎5回目:2.38秒
──────────────
平均:2.948秒

キジバトの習性「臭っさ」の検証より

惜しい!
約二.九秒である。
誤差は〇.一秒………

つまり私は約二.九秒、時間の進みをゆっくりと感じているということである。
それはどういうことかって、ジャネの法則に則って言えば、私の感覚は若いっちゅうことだ!
同世代より〇.一秒分な!
〇.一秒分のヤング!

ジャネの法則
発案者:ポール・ジャネ(フランス)
時間の流れが早く感じられる=年長者
時間の流れがゆっくりに感じられる=年長者

Wikipedia

というわけで、大豆生田美鳩は脇をツンツクしてから二.九秒間「臭っさ」をする鳩であることをお分かりいただけたはずだ。

それはさておき、この日はいつまで経っても大豆生田氏が現れない。

心配になって…….ではなく、例のふざけたサイレンに向け投降するために外に出たのだが……

隣の家のアラナイ改めジャスナイジャスト九十歳・直近の夢:あの世で猫飼う(本人談)が我が家の玄関にどこからか拾ってきたと思しきカリンを積んでいる!

ここは賽の河原か何かか?
そもそもジャスナイ……あなた親より長く生きているじゃない、そんなもの積まなくていいのよ。
というかそもそも石じゃないし、カリンだし。
死んでもないし、なんなんだい?
縁起でもない。

なお、ジャスナイは何も言わずにシルバーカーのカラカラカラカラ……という音だけを残し去っていった。

この時視界の左下に違和感を覚えた。
左下ってのは夏には草が生えまくっていた庭の一部なのだが今はそれが枯れて禿げ散らかしている。
そこが、雪でも降ったかのように白いのだ。

真剣にマスカラを塗る時の如く人中をグーンと伸ばしてのぞいてみると……

大量の羽毛及び身体の一部分。
色からしてキジバト。

私は瞬間察知した。

大豆生田美鳩は死んだ、と。

そしてあの遺体散乱具合からして犯人はカラスだということも百戦錬磨の刑事の私にはわかる。

間違えた!
商業デビュー五年目、文学賞受賞二回のミステリ作家の私にはわかる!
壮絶なスランプの中にあろうとも、これくらいのトリックも見抜けないようじゃ筆を折るだけじゃあ済まないでしょ?
折った筆を燃やしてその炎でマシュマロ焼くくらいじゃなきゃ、生きていけないの!
わかる?

何、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してんだよ……
わかってんだよ、アンタの魂胆くらい……
アンタが俺の才能に嫉妬して筆を折るように仕向けてるってことくらいな!
そうでもなきゃこんな狙い澄ましたようにやってこないだろう?
でも残念だったな……
俺は新たなる力を手に入れた。

最後のひと塊りの文章は今日夢の中で“芥川蓬之介”が蓬池寛に向かって叫んでいた台詞だ。
蓬之介、お前そろそろ死ぬ死ぬ詐欺やめてくれないか?
何ヶ月間にもわたってロングランすな!
無限に我が夢枕でロードショーすんな!
疲れる!

で、大豆生田氏への追悼の意味も込めて書いた次第だ。
「非番の平日、粛々と」は大豆生田美鳩氏に捧げる鎮魂小説である。

……これ、やってみたかったんだよ、こういう後書き!
『はらぺこあおむし 』でいうところの冒頭の「妹のクリスターへ」みたいなやつ!

夢が叶いました。
思い残すことは何も……なくはないのでまだ生きます。
でも、蓬之介はいい加減にしろ。

そして、大豆生田美鳩。
あれからやはりあなたは現れませんね。
あの羽は、あなたのものだったのですね。
今まで、ありがとう。
また会う日まで。


【おまけ】
ちなみに馬喰町の由来は、遡ること江戸時代。
幕府の博労ばくろうが管理していた馬場ばんばがあり、“博労”が転じて“馬喰”になったそうだ。
……何も「喰」なんておどろおどろしい方ではなく「食」にしとけよ。
口偏に「食」ってもう意味の重複がすごいしまどろっこしいわ。


究極書かせていただいた続編もある。

【小説の言い訳を集めました。】


【参考資料】
◽︎三菱地所
すてきな街を、見に行こう

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