解説:Laura Mayerが語る「努力中毒」からの回復──コーポレート・マミーと限界
▶ 元エピソード: https://pdst.fm/e/traffic.megaphone.fm/WSJ3879294686.mp3
概要
あるポッドキャストの特別シリーズ「Work Mode」の今回のエピソードでは、新しい回顧録「Try Hard」の著者であるLaura Mayer氏が登場し、自身の仕事中毒とも言えるキャリアと、そこからの回復について語ります。彼女は、仕事にのめり込みすぎる「努力家(Try Hard)」としての性向が、ABC Newsなどの大手企業での重役へのキャリアを築く一方で、パニック発作や会議中に泣き出すなどの代償をもたらした経験を赤裸々に告白しました。
Mayer氏は、幼少期にアルコール依存症の母親を「管理」するために記録をつけ始めたことを、自身の仕事観の原点だと分析します。大人になってからも、その徹底した努力家の姿勢は評価されつつも、組織の問題を一手に引き受ける「コーポレート・マミー」と呼ばれる袋小路のポジションに自ら進んで陥ってしまったと言います。
転機となったのは、娘の誕生と、キャリアの絶頂期にあったABC Newsの重職を自ら辞めたことでした。現在は5歳になる娘から「なぜずっとオフィスにいるの?」と問われた経験を振り返り、努力家であることの再定義を試みています。
仕事中毒のルーツ:幼少期の「最初の仕事」
Mayer氏が仕事と呼ぶものへの傾倒は、イリノイ州の小さな町で過ごした幼少期にまで遡ります。彼女は、アルコール依存症に苦しむ母親の様子を記録し管理することが、自身にとっての「最初の仕事」だったと語ります。
Mayer氏は、母親の飲酒の度合いをハリケーンの強度を示すサファ・シンプソン・スケールになぞらえ、0(飲酒なし)から5(非常に破壊的)までのチャートを作成していました。この行動は、制御不能な状況を自らの手中にあるかのように感じさせ、同時に「紙の痕跡を残す」ためのものでした。彼女にとって、記録を残し帳尻を合わせることは、極めて重要な作業だったのです。
「私は自分の仕事に取り憑かれていました。朝起きて最初に考えるのは仕事で、寝る前に最後に考えるのも仕事です。それはまるでスロットマシンのようです。成功という回路がどういうものか、そして何かを成し遂げた後の束の間の感情を知っているからです。これはまさに依存症のサイクルであり、私たちの社会で極めて美化されているものなのです」
努力の価値と依存症の狭間で
仕事への没頭は、Mayer氏に目覚ましいキャリアの成長をもたらしました。彼女はABC NewsやPanoply Mediaといった大企業やスタートアップで要職を歴任し、「Revisionist History」や「The Dream」など、100以上のポッドキャストの立ち上げに関わりました。20代で管理職へと昇進する原動力となったのは、間違いなく彼女の労働倫理でした。
Mayer氏は「努力を見せること」が大好きだと断言します。数学の授業で「途中式を見せなさい」と言われるのが、間違えたとしても、自分の努力がどこにあったかを誰にも否定させない行為だと考えていたからです。彼女は、努力を外に示すことで、結果がどうであれ「自分がどれだけ試みたか」という事実を確保しようとしていました。
しかし、彼女の言葉には、この姿勢が単なる野心ではなく、内面の欠落感を埋めるための行動だという認識も滲みます。
「もし子供も家族もいなければ、外形的には『成功した』と思えたでしょう。しかし依存症の本質は、その中心的な欠落感が決して満たされないことです。だから私は、『もう十分やった』とは決して感じられないのです」
彼女は、当時の自分はとにかく「真剣なビジネスパーソン」として認められたいと強く望んでいたと振り返ります。
コーポレート・マミー:賞賛される袋小路
キャリアを重ねる中で、Mayer氏は何度も「コーポレート・マミー」と彼女が呼ぶポジションに就くことになります。これは中間管理職として、上層部と部下の板挟みになり、組織の構造的な問題を一手に引き受ける役割です。上司は面倒な管理的業務をやりたがらず、現場との緩衝材として、仕事熱心な「働き手」にその役割を押し付けるのです。
「まるで企業問題のダムのように、上が抱える問題を部下に流さないようにし、部下が抱える問題を上に届けるのです。しかし、自分には実際に何かを解決する権限はないのです」
LinkedIn上での肩書きは素晴らしく見えるものの、このポジションは決定的なキャリアの袋小路だと彼女は指摘します。組織は彼女を問題処理の担い手としてしか見ていないため、意思決定ができる上級管理職への道は永遠に閉ざされてしまうからです。Mayer氏は、自分自身の「努力したがる」性質が、この報われない役割を何度も引き受けてしまう原因だったと分析します。
「テーブルを築け」:スタートアップと精神の限界
ポッドキャスト業界に巨額の資金が流れ込む中、Mayer氏は自らを「完全に証明された」存在だと言ってくれる人物と出会い、ポッドキャスト会社の共同創業者となります。その人物の「君に席を用意するのではありません。テーブルそのものを築いてほしい」という言葉は、努力が報われた瞬間のように感じられました。
しかし、この機会は彼女の限界を超えて自分を追い込む傾向を利用された、単なる過酷な仕事だったと彼女は回顧します。仕事への没頭は、地下鉄でパニック発作を起こすなど、心身に深刻な悪影響を及ぼし始めました。それでもなお、彼女は突き進みました。
「もし仕事をしなければ、自分は存在しないも同然だと思っていました。この状況を解決する唯一の方法は立ち去ることだと分かっていましたが、手放すことは、それまでの人生の全てを放棄することのように感じられたからです」
彼女は「諦めない人」でした。それは努力家の裏返しでもあります。
ABC News退職:初めて引いた境界線
皮肉なことに、Mayer氏がついに限界を迎え、自ら「辞める」という決断をしたのは、彼女のキャリアの中でも最大級の仕事、ABC Newsのエグゼクティブ・プロデューサーを務めていた時でした。これは彼女にとって、仕事と私生活の間に初めて意識的に設けた境界線でした。
その背景には、娘の存在がありました。彼女は、子供の頃に自分自身の境界線が尊重されなかった経験が、大人になって仕事で一切の境界線を設けられない状態へと変容したと語ります。
「『私は仕事だけの人間ではない』と受け入れることが、最終的に境界線を引くことを可能にしました。この本は私の母と娘に捧げています。娘が現れ、私が仕事だけの存在ではないと気づいたからです」
娘が教えてくれたこと、これからの「努力」
5歳になる娘は、すでに母親のワーカホリックな姿を冷静に観察し、Zoom会議の物真似をするなどしてからかうと言います。Mayer氏が深く心に刻んだのは、娘から「なぜずっと『ミッキーマウスのオフィス』にいるの?」と問われ、「後悔」という言葉の意味を説明した時のことでした。
彼女は、同じように努力しすぎてしまう人々へのアドバイスとして、次のように語りかけます。
「自分の価値は、最後に送ったメールや最後のプロジェクト、最後の成功だけで決まると考えないでください。失敗に固執するのもやめましょう。もっとやりたいというエネルギーを持てることは素晴らしいです。でも同時に、時には『もう十分やった』と腰を下ろして実感することも大切なのです」
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