SpaceX上場で消えたSPV持ち分──The Journal(2026年8月13日)
概要
2026年8月13日配信のThe Journalでは、データエンジニアのラム・ルパレティ氏が、非公開だったSpaceXへの投資手段としてSPV(特別目的ビークル)を通じて出資したものの、上場後に保有しているはずの持ち分が口座から消えていた問題を取り上げています。
執筆時点の為替レートは、1ドル=159.29円、1ユーロ=183.72円、1元=23.58円、1ポンド=215.10円、1ウォン=0.11円、1香港ドル=20.30円、1台湾ドル=4.94円、1ルピー=1.67円、1豪ドル=112.54円、1シンガポールドル=124.46円、1ディルハム=43.38円です。
ルパレティ氏が利用したのは、運用会社が提示したSPVでしたが、実際には複数のSPVを挟んだ多層構造で、本人が考えるほどSpaceX株に近い形ではありませんでした。SpaceX上場後に口座を確認すると、持ち分は新規上場の1年半以上前に売却済みと表示され、4万5450ドルだけが口座に残されていました。
他の投資家4人も同様の苦情を寄せており、一部はSEC(米証券取引委員会)に問題を提起しています。SPV市場の規制が薄いことが背景にある事例で、番組は「自分が何を保有しているのかを確かめること」の難しさと教訓を個人投資家に示しています。
プレIPO投資への参加
2020年、データエンジニアのラム・ルパレティ氏は、世界で最も注目されるテック企業の1社に投資する機会を得たと感じていました。友人から、企業が上場する前に投資できる機会があると聞き、その候補の筆頭がイーロン・マスク氏のロケット企業であるSpaceXの株式を購入する機会でした。The Journalの同僚であるコーリー・ドリバシュ氏がルパレティ氏に取材しました。
ルパレティ氏の友人たちは、彼がSpaceXに長く投資していることを知っており、普段から「もう大富豪だ」「株をたくさん持っている」とからかっていたといいます。ルパレティ氏がプレIPO投資家として株式を購入していたため、SpaceXが上場すれば大きな利益を得られる可能性があると見られていました。
ルパレティ氏が株式を購入した2020年末から2021年初めの時点で、SpaceXの評価額は約580億ドルでした。評価額が上がるにつれて彼の計画も膨らみ、秋に高校3年生になる子どもの大学教育費をこの投資で賄おうと考えていました。
ただしルパレティ氏のSpaceXへの投資方法はかなり複雑で、SPV(特別目的ビークル)と呼ばれる仕組みを通じたものでした。彼は実際の企業の株式を買っていたのではなく、SpaceX株を保有しているはずのファンドの持ち分、つまりエクスポージャーを購入しており、実際の株式からは少し距離がありました。
未公開株投資とSPVの仕組み
SpaceXは約25年間にわたり非公開企業として事業を続けてきました。野心的な目標を持つ非公開企業は資金調達のために株式を売却する必要があり、SpaceXは有力な投資家やベンチャーキャピタル、創業者イーロン・マスク氏の友人など、限られた投資家グループに繰り返し株式を売却してきました。
米国ではSECの規則により、非公開企業の株主名簿に載せられる投資家は最大2000人とされています。この数を超えると財務情報の開示が求められ、公開企業に近い扱いになるため、SpaceXは同じ投資家の集まりに株式を売り続けることになりました。
長年にわたって株式を買い続けてきたベンチャーキャピタルなども、さらに1億ドル分の株を買う必要はないものの、その機会を逃したくはないと考えるようになりました。
その結果、既存投資家の一部は、保有する未公開株を拠出してファンド(SPV)を作り、マスク氏とのつながりがなくSpaceXに直接アクセスできない投資家へ、株式そのものではなく、株式へのエクスポージャー(持分)を販売するようになりました。SPVは手数料を上乗せできるため、運営者にも利点がありました。
ただしSPVが販売しているのは企業の株式そのものではなく、将来上場した際に株式を引き渡すという約束に近いものです。取材に応じた弁護士は、これを信頼を問う仕組みだと説明しています。
Late Stage Managementと多層化した持ち分
ルパレティ氏は以前にもSPVを通じて他社に投資した経験があり、その際は手数料が差し引かれたものの、大きな利益は得られなかったものの損失もしませんでした。そのため、この仕組みは機能するという信頼感を持つようになっていたと話しています。
ルパレティ氏はSpaceXへのエクスポージャーを得るため、レイト・ステージ・マネジメント(Late Stage Management)という会社が運用するSPVに1万7000ドル強を投じました。
レイト・ステージ・マネジメントはニュージャージー州を拠点とし、2015年に設立されました。個人投資家向けに、非公開の注目企業へ上場前にアクセスできる手段として売り込んでおり、企業が上場した段階で初めて利益を得る仕組みだと宣伝していました。そのため、ルパレティ氏のような投資家は、上場までは持ち分が売却されないと考えていました。
同社には投資状況を確認できるオンラインポータルがあり、毎年の税務書類も送られてきたため、ルパレティ氏にとっては一見もっともらしく見えていました。ところが実際には、レイト・ステージ・マネジメントはSpaceXに直接投資していたわけではなく、別のSPVに投資していました。
こうして第二層、第三層、第四層と重なることがあり、SpaceXの実際の株式から離れるほど構造は複雑になります。
番組の取材によると、バハマに拠点を置くオフショア投資会社キャピタル・トゥルースが、SpaceXの未公開株を保有するSPVの一部を取得し、その持ち分を再構成してレイト・ステージ・マネジメントに販売したとみられています。ルパレティ氏が購入したのは、その一段先のエクスポージャーでした。
SpaceX上場と口座の異変
6月にSpaceXは新規上場を実施し、評価額は1兆7700億ドルとされました。ルパレティ氏は自分がSpaceX株2500株分に相当する持ち分を持っていると見込んでおり、上場後には30万ドル以上になる可能性があると考えていました。
上場日には友人が祝意のメッセージを送り、近所の人からも祝賀パーティーを開くのかと冗談を言われるほどでした。夫妻はその日、夕食に出かけて祝ったといいます。
ところが上場直後にレイト・ステージのポータルを確認すると、サイトが一時的に利用できない状態になっていました。ポータルが復旧した後、口座には「SpaceXの持ち分は2024年12月31日に売却された」と初めて表示されました。これは新規上場の1年半以上前の売却でした。
ルパレティ氏はレイト・ステージの代表番号に何十回も電話しましたが、誰も応答しなかったと話しています。6月23日には同社のオペレーション用メールアドレスに説明を求めるメールを送り、税務書類を扱っていたニュージャージー州の会計事務所の担当者もやり取りに加えました。
税務担当者は「包括的な調査を進めている」と回答し、数か月以内に情報を提供すると伝えました。一方、レイト・ステージのメインアドレスからは、税務担当者はオンラインポータルについて説明できる立場になく、ポータルはメンテナンス中だと伝えられました。その3日後、ポータルが復旧すると、口座にはSpaceX株の持ち分はなく、過去の投資の結果として4万5450ドルが残っていると表示されました。
ルパレティ氏が期待していたのは上場後に売却された場合の30万ドル超でした。レイト・ステージ側は、売却時点の2024年9月にメールで通知したはずだとしましたが、ルパレティ氏は迷惑メールや削除済みフォルダまで探しても、売却に関する連絡は一切受け取っていないと話しています。The Journalが確認した2024年分と2025年分の税務書類では、持ち分はなお保有されていると記載されていました。
一般的に、SPVが上場前に持ち分を売却できるかどうかは募集書類の内容次第です。多くの募集書類では、会社が買収されるか上場するまで保有し続ける計画だと約束しており、事前に売却されることは通常は想定されていません。
レイト・ステージ・マネジメントは度重なる取材に応じませんでした。The Journalが同社の登記上の住所を訪れると、ビルの管理人は「3年前に退去した」と話しました。
投資家の対応とSPV規制
ルパレティ氏は、自分にはさらに多くの金額が支払われるべきだと考え、口座に残された4万5450ドルを引き出していません。一部の投資家は弁護士を雇って請求に乗り出しています。
ルパレティ氏は「インド出身だが、アメリカでこのようなことが起きるとは思っていませんでした。こうしたことをやってのける人たちの図々しさに驚いている」と話しています。
The Journalは、レイト・ステージのSPVについて同様の苦情を抱える投資家をほかに4人確認しました。ルパレティ氏を含む一部の投資家はSECに問題を提起しています。
SPVは投資信託(ミューチュアルファンド)と同様の監督をほとんど受けておらず、投資家や保有資産を公表する義務も、監査済みの財務諸表や詳細な損益計算書を提出する義務もありません。資金調達前にSECの承認を得る必要もなく、専門家は「かなりグレーな領域で運営されている」と指摘しています。
番組は、こうしたSPVの広がりが、リスクを取ってでも早く大きな利益を得たいという投資家心理や、未公開株投資で富を築いた人々へのあこがれを背景にしていると分析しています。富裕層向けの株式市場は未公開市場だという二層化した構造が生まれており、SPVはそのすき間を埋めるように拡大してきました。SpaceXやOpenAI、Anthropicといった企業へのアクセスを望む個人投資家が、危険な兆候や実際の株式から遠い構造に目をつぶってしまう面もあるとしています。
今後も大型IPOが続く中で、SPVがリスクを高めるかどうかはまだ分からないとしつつ、番組は読者からの反響を踏まえ、今後もSPVについて取材を続けると締めくくっています。
▶ 同じシリーズの前回: The Journal 解説:森のプレデター未解決事件──フランス警察がDNA系譜学でプライバシー法回避(2026年8月12日) https://note.com/yondo/n/n9ea0fff1c709
▶ このテーマの記事をまとめ読み: マガジン「米国株とマーケットの論点」 https://note.com/yondo/m/mb4ec8df94ddb
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