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Barron's Streetwise 解説:肥満症治療薬GLP-1の巨大市場──Eli Lillyの優位性と特許の崖

▶ 元エピソード: https://www.barrons.com/podcasts/streetwise


2026年8月1日

概要

Barron'sの経済ポッドキャストStreetwiseの今回のエピソードでは、ホストのJack Howe氏が、肥満症治療薬GLP-1受容体作動薬の市場について解説しています。この市場は、人工知能に次ぐウォール街で最大の利益成長ストーリーになりつつあり、Eli Lillyは今年、S&P500種株価指数構成銘柄の中で14位となる310億ドルの利益を見込んでいます。

主要なプレイヤーはデンマークのNovo Nordiskと米国のEli Lillyです。注射薬ではLillyのゼップバウンドが二重作動薬として優位に立っていますが、経口薬ではNovoが先行しています。Medicare(高齢者向け公的医療保険)による7月1日からの給付開始や、経口薬の登場が市場拡大を加速させています。

Morgan Stanleyのアナリスト、Terrence Flynn氏は、2035年までに糖尿病と肥満症だけで1900億ドルの市場規模を予測しています。特許の崖は2031年以降に迫っていますが、両社とも新薬開発と製造能力への巨額投資で、ブランド薬市場の維持を図っています。さらに、これらの薬剤が炎症調整薬として、アルツハイマー病や依存症など、より広範な疾患に適応拡大する可能性も注目されています。

Jack Howeの個人的体験と「万能薬」の視点

Jack Howe氏は今週、Barron's Magazineに「万能薬(the everything drug)」と称するカバーストーリーを執筆しました。これは同氏が長年追いかけてきたテーマであり、以前にもEli LillyのCEO、Dave Ricks氏をポッドキャストに招いたことがあります。約4年前には、自身の体重が8分の1トン(250ポンド)であると告白するコラムをBarron'sに寄稿しました。当時から10ポンド強を減量し、現在は体重が230ポンド台後半に落ち着き、肥満の定義から「過体重」へと分類が変わった可能性があります。この個人的な経験もあり、GLP-1薬への関心は一層強いものとなっています。

GLP-1市場の現状と成長ドライバー

Eli Lillyは来週水曜朝に第2四半期決算を発表する予定で、市場の注目を集めています。医薬品とコンピュータチップには、供給制約のある市場であること、巨大な価格決定力を持つこと、そして最終需要が急拡大していることなど、重要な類似点があります。

GLP-1市場の規模予測は、ここ数年で爆発的に膨らんでいます。約4年前、Eli Lillyがチルゼパチドを投入した当時、JPモルガンは2031年までの市場規模を340億ドルと予測していました。この数字は今では控えめに映り、ウォール街の他の予測はすぐに$100 billionを突破しました。今年に入ってMorgan Stanleyは、糖尿病と肥満症だけで2035年までに1900億ドルに達するという見通しを示しています。この拡大の背景には、メディケアによる給付開始や雇用主の保険適用拡大、新たな経口薬の登場に加え、保険適用範囲の広がりや投与方法の進化、そして使用可能性の爆発的な増加があります。

Terrence Flynn氏によると、GLP-1薬の普及はまだ「序盤から中盤」の段階です。米国では前年比30%の成長が続いており、Morgan Stanleyの予想に沿った、あるいはそれを上回るペースで推移しています。同社は2035年までのGLP-1売上高予想を1500億ドルから1900億ドルへと引き上げました。これは糖尿病と肥満症のみを対象とした数字で、米国の肥満人口の30%が服用することを前提としています。

市場成長を加速させる要因として、7月1日に始まった連邦医療保険Medicareの給付開始が大きな転換点として挙げられます。これまで連邦法により、減量のみを目的とした薬剤への支払いは禁止されていましたが、一時的なプログラムとして月額50ドルの自己負担で提供が開始されました。Medicare加入者の3分の2以上が過体重または肥満であるため、このルール変更の影響は大きいと見られています。短期的にはコスト増となるものの、長期的には高額な健康合併症の減少で元が取れると支持者は主張しています。また、雇用主による保険適用も2年前の44%から来年には65%へと拡大する見込みです。患者の平均自己負担額は月に119ドルで、2年前の196ドルから低下しています。

注射薬と経口薬の競争構図

GLP-1市場には、Novo NordiskとEli Lillyという二大企業が存在します。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とは腸で分泌されるホルモンで、脳に働きかけて食欲を抑制します。Novoの製品はGLP-1受容体のみを標的とする単一作動薬ですが、Lillyの主力注射薬ゼップバウンド(一般名チルゼパチド)は、GLP-1に加えてGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)という第二の受容体も標的とする二重作動薬であり、臨床試験でより高い減量効果を示しています。このため、注射薬市場ではLillyが60%以上のシェアを握っています。

経口薬の分野では様相が異なります。Novoが1月に経口のWegovyを発売し、Lillyは4月に経口薬Foundeoを承認取得しました。経口薬はいずれも単一のGLP-1受容体のみを標的とするため、Lillyの注射薬で見られた性能面での優位性は消滅します。Flynn氏は、両者の有効性と忍容性は似通っているものの、Novoの薬には服用後30分間の飲食制限があるのに対し、LillyのFoundeoにはそうした制限がなく、これが実臨床での使い勝手に影響する可能性を指摘しています。現在、経口薬ではNovoが85%の市場シェアを占め先行しています。

経口薬の登場は、注射薬の需要を奪うのではなく、市場全体の拡大をもたらしています。実際、両社の経口薬が投入された後も、注射薬と合わせた総市場は成長を続けています。経口薬は2030年までに市場全体の約4分の1を占めると予想されており、その簡便さと低コストが普及を後押ししています。

経口薬同士を比較すると、減量効果の面ではNovoの経口版Wegovyがわずかに優位に立つ可能性がありますが、LillyのFoundeoは化学的により安定しており、長い保存期間が求められる海外流通に適しています。さらに、Foundeoは小分子化合物であるため大量生産が容易で、世界規模での供給拡大に有利です。

Lillyの研究開発パイプラインと次世代薬

Lillyは次世代薬の開発でも先行しています。開発中のレタトルチドは、現在の二重作動薬からさらに一歩進み、三つのホルモン受容体を標的とする三重作動薬です。順調に進めば早ければ来年にも市場投入される可能性があります。

また、別の開発品であるエロラリンチドは、GLP-1とは全く異なるメカニズムで作用し、脂肪減少と筋肉減少の比率を改善する効果が期待されています。将来的にはゼップバウンドとの合剤として、より低用量で副作用を抑えつつ、筋肉を維持しながら脂肪を減らす治療法となるかもしれません。このような合剤が実用化されるとしても、早くとも28年以降になると見られています。

特許の崖と二層市場の展望

GLP-1市場には特許の崖というリスクも存在します。Novoのセマグルチドは2031年まで、Lillyのチルゼパチドは2036年まで特許保護下にありますが、両社とも特定の製剤や注射器デザインに関する特許の厚い網を築き、保護期間を2040年以降まで延長しています。

Flynn氏は、将来の市場は二層化すると予測しています。Lillyのブランド薬は優れたプロファイルを武器に高価格帯を維持し、Novoのセマグルチドの後発品が低所得層向けに市場の総量を拡大するという構図です。マンジャロはブランド市場で支配的な地位を維持し、セマグルチドのジェネリック版は低所得層に浸透することで、結果としてこれらの薬を使用する人口全体を押し上げます。UBSの分析によれば、インドのように既に特許が切れた市場でも、製造の不純物問題などから後発品の供給能力は限定的で、2030年までに世界のGLP-1需要の25%から30%しかカバーできないと見られています。

複合薬局による模倣薬の販売に対する規制も強化されており、両社にとって追い風です。さらに、インドの後発医薬品メーカーであるDr. Reddy's Laboratoriesは、自動注射器ペンの不純物問題などにより、年間供給見通しを1200万ドルから600万~700万ドルへと下方修正しました。こうした事例は、特許切れ後もジェネリック医薬品市場の立ち上がりが容易ではないことを示しています。

企業価値と投資家の見落とし

過去5年間でLillyの株価は約5倍に上昇したのに対し、Novoの米国預託証券(ADR)の上昇率はわずか11%にとどまっています。この結果、Lillyの株価収益率(PER)は約35倍であるのに対し、Novoは15~16倍と割安になっています。Lillyは今年を起点に5年間で1株当たり利益の倍増が予想されているのに対し、Novoの同期間の累積成長率見通しは29%に過ぎません。NovoのADRは約3.5%と高い配当利回りを提供しているものの、Lillyのそれは1%未満です。2031年までにLillyは620億ドル以上のフリーキャッシュフローを生み出すと予想されており、これはNovoより約400億ドル多い金額で、その資金はすでに研究開発やGLP-1以外への多角化を目的とした小規模買収に投じられています。

Flynn氏が指摘する、投資家が見落としている重要なポイントの一つが総アドレス可能市場(TAM)の大きさです。加えて、現在研究が進められているアルツハイマー病やパーキンソン病、薬物・アルコール依存症、炎症性疾患などへの適応拡大が実現すれば、現在の市場予測には織り込まれていない隣接市場が開ける可能性があります。Flynn氏は「もしこれらの薬剤が脳疾患、メンタルヘルス疾患、あるいは炎症性疾患で効果を示せば、それは追加の隣接市場を開拓する可能性があります。この点は我々の予測やコンセンサス予想にはまだ十分に織り込まれていません」と話しています。

Morgan Stanleyがオーバーウェイト評価を付けているもう一つの銘柄が、Structure Therapeuticsです。この企業は、LillyのFoundeoと同様の経口GLP-1薬と、経口アミリン薬の両方を開発中であり、次世代の治療選択肢として注目されています。また、Pfizerなど他の企業も、週1回の注射から月1回の投与へと間隔を延ばした製剤の第3相試験を進めており、データの公表は12~24カ月先と見られています。

GLP-1薬の多様な適応と「万能薬」としての可能性

これらの薬剤は現在、主に「肥満注射薬」として認識されていますが、将来は「万能薬」のような存在になるかもしれません。GLP-1薬は食欲を制御するため、減量に驚くほどの効果を発揮します。その結果、体重や食生活に関連する睡眠時無呼吸や脂肪肝、心疾患にも有効であることがわかっています。

しかし、研究の対象はそれだけにとどまりません。現在、薬物やアルコール依存症、腎臓病、アルツハイマー病、パーキンソン病、膝関節炎、乾癬、喘息、卵巣嚢腫、さらにはがんリスクの低減にまで及んでいます。これらの薬は単なる食欲抑制剤ではなく、全身において炎症を調節する因子として作用していることが明らかになりつつあります。慢性炎症は多くの疾患の根本原因と考えられており、そこに直接働きかける点が、GLP-1薬の広範な可能性を支えています。Morgan StanleyのFlynn氏は、こうした脳疾患やメンタルヘルス疾患、炎症性疾患への適応拡大が実現すれば、現在の市場予測にはまだ十分に織り込まれていない追加の隣接市場が開けると指摘しています。またLillyはアルツハイマー病や乳がんの治療薬にも取り組んでおり、今後1、2年のうちに商業的に大きな意味を持つ可能性のある臨床試験結果の開示が控えています。

社会全体への影響

米国の肥満率はここ数年でわずかに低下し、40.7%となりました。これは5年前から約1.5~2ポイントの低下です。1976年の建国200年時点では、肥満率はわずか15%でした。一部のアナリストは今後数年間で総カロリー消費量が緩やかに減少すると予測しており、これは大手食品企業や医療機器メーカーの株価下落の一因となっている可能性があります。医療機器株については、将来的に肥満に関連する手術の需要が減少するのではないかという懸念も背景にあります。

McKinsey Health InstituteでHealthy Longevity担当ディレクターを務めるLars Hartenstein氏は、米国が「代謝の健康」を大規模に達成できれば、2050年までに年間5兆ドル以上、GDPの約3%に相当する経済効果が生まれると試算しています。ただしGLP-1薬はその触媒に過ぎず、完全な解決策ではないとHartenstein氏は述べています。

この試算の背景にあるメカニズムは極めてシンプルです。人々が健康になれば生産性が向上し、より多くの人が労働力として参加できるようになり、就労可能年齢での早期死亡も減少します。このモデルは非現実的な仮定を一切置いておらず、高齢化社会で高齢者の労働参加率が突然上昇するといった、社会的に望まれない前提は含まれていません。純粋に、疾病率の低下によって人々がより社会に貢献できるようになり、死亡率の低下によって生産的な人生が長期化するという計算に基づいています。

Howe氏が、GDPの多くは過食とそれに伴う医療費という「本来すべきでないこと」で成り立っているのではないかと疑問を投げかけたのに対し、Hartenstein氏はその前提が誤りであると明確に答えました。Hartenstein氏は、将来の消費パターンがどう変化するかは極めて興味深い問いだと指摘し、明日の消費が代謝の健康やより広範なウェルビーイングに寄与するような姿を想像する機会があると述べています。こうした消費パターンの詳細な分析はまだこれからですが、いずれにせよ人々が可処分所得を消費し支出し続けることは変わらない自明の理です。

▶ 同じシリーズの前回: Barron's Streetwise 解説:決算シーズン、タイムビリオネア、そしてインカム戦略 https://note.com/yondo/n/n91c5d7b6ad7d

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