建設DXは人手不足を救えるのかー社会インフラシリーズ#3
人手不足が深刻化する建設業において、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」への期待が高まっています。
ドローン、AI、3D設計、無人施工…
これらの技術は、現場を劇的に変える可能性を秘めています。
しかし一方で、「本当に人手不足は解消できるのか」という疑問も残ります。
本記事では、スマート建設はどこまで現場を変えられるのか、
そして見落とされがちな限界について整理します
1.建設DXとは何か(前提整理)
建設DXとは、
データとデジタル技術を活用して、建設の仕事・仕組み・ビジネスモデルを変革することです
単なるIT導入ではなく、
現場のやり方
働き方
産業構造
まで変える取り組みです。
2.建設DXの主な取組み(ここが具体性の核)
① ICT施工(現場のデジタル化)
ICT施工とは、建設生産プロセスの各段階(測量、設計、施工、検査、維持管理)において、ICT(情報通信技術)を活用して生産性を向上させる取り組みです。国土交通省が推進する「i-Construction」の柱となっています。
・3次元データによる測量:
ドローン(UAV)やレーザースキャナーを用いて、短時間で高密度な3次元地形データを取得します。従来、数日かかっていた広範囲の測量が数時間に短縮されます。
・3次元設計データ作成:
測量データに基づき、完成形を3Dモデル化します。これにより、断面図だけでは把握しにくい複雑な形状も正確に共有でき、施工ミスを未然に防ぎます。
・ICT建設機械による施工:
3次元設計データとGPS/GNSSを連動させ、建機のブレードやバケットを自動制御(マシンコントロール)したり、操作を補助(マシンガイダンス)したりします。熟練オペレーターでなくても、ミリ単位の高精度な施工が可能です。
・3次元データによる検査:
出来形管理(仕上がりの確認)に3次元データを用いることで、従来の多点計測や立ち会いが不要になり、検査項目と時間を大幅に短縮します。
👉 メリット:
・「人→データ」への置き換えにより、現場の作業人員を削減できる。
・丁張り(目印)の設置が不要になり、建機付近の作業員が減るため安全性が飛躍的に向上する。
・経験の浅い若手でも、ベテランに近い精度で施工が可能になる。
② BIM/CIM(設計〜施工の一体化)
BIM(Building Information Modeling)は主に「建築」、
CIM(Construction Information Modeling/Management)は主に「土木」分野で用いられる概念です。
・3Dモデルに属性情報を付与:単なる立体図面ではなく、部材の材質、強度、コスト、工期などの「属性情報」を統合して管理します。
・フロントローディングの実現:設計段階で施工上の問題点(干渉チェックなど)を洗い出し、現場での手戻りを劇的に減らします。
・維持管理への活用:完成後の修繕履歴や点検データを紐付け、建物のライフサイクル全体を効率化します。
👉 「図面」から「情報のデータベース」へ
③ AI・データ活用
AIとデータの活用は、個人の経験や勘に頼っていた判断を「客観的な数値」に基づく判断へと変革します。
・工程管理の最適化:
過去の膨大な施工データや天候情報をAIが分析し、最も効率的な作業スケジュールを自動生成します。遅延リスクを早期に検知し、先手のアクションを可能にします。
・施工ミスの予測・検知:
画像認識AIを用いて、配筋検査やコンクリート打設時の不備をリアルタイムで検知します。手戻りを防ぎ、品質の均一化を図ります。
・労務配置・安全管理の効率化:
現場内の人や重機の動きをデータ化し、AIが危険な接近をアラート通知したり、無駄のない人員配置を提案したりします。
・熟練技能のデジタル化:
ベテランの視線や動きをセンサーで解析し、AIが「暗黙知」をマニュアル化・可視化することで、若手への技術継承を加速させます。
👉 経験頼み → データ判断へ
④ 無人化・ロボット化(安全性と省力化の極致)
無人化・ロボット化は、人が直接立ち入ることが困難な危険場所での作業を可能にし、同時に現場の省人化を極限まで推し進める技術です。
・遠隔操作・自動運転建機:
災害復旧現場や急傾斜地など、二次災害の危険がある場所で、離れた場所から建機を操作します。最近では、5G通信を活用した低遅延の遠隔操作や、あらかじめ設定したルートを自動で走行・作業する自律型建機の導入が進んでいます。
・自動追従・搬送ロボット:
資材運搬などの単純作業をロボットが担います。作業員の後ろを自動でついてくる追従型ロボットや、地図データをもとに目的地まで資材を運ぶ自律走行ロボットにより、重労働からの解放と搬送効率の向上を図ります。
・施工ロボット(床仕上げ・溶接など):
ビル建築などの屋内作業において、コンクリートの床仕上げ(トロウェル掛け)や鉄骨の溶接、天井ボードの貼り付けなど、特定の作業を自動で行うロボットです。品質の安定化と、夜間などの無人稼働を可能にします。
・点検・巡回ドローン/ロボット:
橋梁の点検やトンネル内の異常検知、夜間の現場巡回などを自動で行います。人が近づけない高所や狭小部でも、高精度なカメラやセンサーで詳細なデータを取得できます。
👉 メリット:
・「人が死なない現場」の実現:
危険作業を機械に代替させることで、重大事故のリスクをゼロに近づける。
・24時間稼働の可能性:
夜間や休憩時間中もロボットが作業を継続することで、工期短縮に大きく寄与する。
・労働負荷の軽減:
重筋作業をロボットが担うことで、高齢者や女性など多様な人材が活躍できる環境が整う。
⑤ バックオフィスDX(事務・管理の効率化)
バックオフィスDXは、現場以外の事務作業をデジタル化することで、現場監督が本来の業務(品質・安全管理)に集中できる環境を作る取り組みです。建設業特有の「紙・ハンコ・対面」文化からの脱却を目指します。
・クラウド型施工管理ツールの活用:
図面、写真、日報、工程表をクラウド上で一元管理します。現場からスマホやタブレットで入力・閲覧できるため、事務所に戻っての書類作成時間を大幅に削減します。
・電子契約・電子請求:
膨大な契約書や請求書のやり取りを電子化します。印紙代の削減だけでなく、郵送の手間や承認待ちの時間をゼロにし、キャッシュフローの透明性を高めます。
・リモート臨場(遠隔臨場):
ウェアラブルカメラやスマホを活用し、発注者が事務所にいながら現場の検査や確認を行います。移動時間を削減し、意思決定を迅速化します。
・勤怠・労務管理のデジタル化:
顔認証やICカードによる入退場管理を行い、労働時間を正確に把握します。2024年問題(時間外労働の上限規制)への対応には不可欠な要素です。
👉 メリット:
・現場監督の「サービス残業」や「持ち帰り仕事」を減らし、ワークライフバランスを改善する。
・本社と現場の物理的な距離がなくなり、リアルタイムでの指示・相談が可能になる。
・ペーパーレス化により、情報の検索性が向上し、過去の知見を再利用しやすくなる。
3.建設DXの効果(期待される変化)
① 生産性の向上
建設業の生産性は他産業より低い水準にありますが、DXによって「移動・待機・二度手間」という3つの大きなロスを削減することで、劇的な改善が期待されます。
・移動・待機時間の削減:
リモート臨場やクラウド管理により、現場と事務所の往復や、指示待ち・検査待ちの時間を最小化します。
・手戻りの防止:
3Dモデル(BIM/CIM)による事前シミュレーションで、現場での設計ミスや干渉による工事のやり直しを防ぎます。
・作業の高速化・高精度化:
ICT建機の活用により、丁張り設置などの付随作業をカットし、熟練度を問わず短時間で正確な施工を可能にします。
👉 「稼働時間」ではなく「作業密度」を高めることで、少ない人数と時間で高い成果を生み出します。
② 人手不足の緩和
DXは、単に「人を機械に置き換える」だけでなく、労働環境を劇的に改善することで、離職防止と新規入職者の確保という両面から人手不足にアプローチします。
・少人数での現場運営:
ICT施工や自動化技術により、これまで複数人で行っていた測量や手元作業(丁張り設置など)が一人、あるいは機械のみで完結できるようになります。
・「3K」からの脱却と若者の流入:
「きつい・汚い・危険」というイメージを、ドローンやタブレット、遠隔操作といった「スマートでかっこいい仕事」へ塗り替えます。
これが若年層やITに関心のある層への強力なアピールとなります。
・多様な人材の活躍:
重筋作業のロボット化やリモート管理の普及により、体力的な制約がある高齢者や、育児・介護などで現場に常駐できない人材でも、専門知識を活かして活躍できる場が広がります。
👉 「少ない人数で回る仕組み」と「人が集まる魅力」を同時に創出します。
③ 技術継承の強化(技能のデジタル資産化)
熟練技能者の「勘」や「コツ」をデータ化し、若手への継承を効率化・加速させます。
・熟練技術の可視化:
ウェアラブルカメラやモーションセンサーを用いて、ベテランの視線、身体の動き、力加減を計測・データ化します。これを手本としてVR(仮想現実)などで再現し、若手が疑似体験できるトレーニング環境を構築します。
・ナレッジシェアの仕組み化:
これまで現場ごとに閉じていた「施工の工夫」や「トラブル対応」を動画やクラウド上のデータベースに蓄積。必要な時に誰でも検索・参照できる体制を整え、経験不足を知識で補完します。
・AIによる技術支援:
ベテランの判断基準をAIに学習させ、現場の状況に応じた最適な施工手順をAIがアドバイスすることで、若手監督の意思決定をサポートします。
👉 「背中を見て覚える」から「データで学ぶ」へ
④ 安全性の向上(リスクのゼロ化)
デジタル技術を「守り」に活用し、建設現場の宿命であった事故リスクを最小化します。
・危険箇所の事前把握:
BIM/CIMモデルを用いた施工シミュレーションにより、重機と作業員の接触リスクや墜落の危険がある箇所を事前に特定し、対策を講じます。
・リアルタイム安全管理:
AIカメラやセンサーが現場の危険を自動検知。重機への接近や、保護具の未着用、体調不良の兆候(心拍数異常など)をアラートで通知し、事故を未然に防ぎます。
・危険作業の代替:
高所点検、トンネル内調査、水中作業などをドローンやロボットが代行することで、人間が危険な場所に立ち入る機会そのものを減らします。
👉 「注意」に頼らず「仕組み」で命を守る
4.しかし現実は甘くない(ここが重要)
建設DXは「進んでいる」と言われつつ、
実際には進みが遅い産業でもあります。
進みが遅い主な要因は以下のとおりです。
1.コストと規模の格差: ICT建機やソフトの導入には多額の初期投資が必要で、中小企業には負担が大きく、元請けと下請けでデジタル化の差(デジタルデバイド)が生じています。
2.業界構造の問題: 多重下請構造であるため、企業間でデータの形式が異なったり情報が分断されたりしやすく、業界全体での足並みが揃いにくい現状があります。
3.現場の負担と人材不足: 現場が多忙で新しいITツールを導入・定着させる余裕がなく、現場とITの橋渡しができる「DX人材」自体も不足しています。
4.現状維持のバイアス: 「今のやり方でも何とか回ってしまう」という側面があり、抜本的な構造改革に踏み出しにくいという背景があります。
これらが複合的に絡み合い、技術はあっても社会実装が遅れているのが現状です。
それでは、建設DXの主な課題と今後の方向性を解説します。
5.建設DXの主な課題
① 初期投資が高い
建設DXの導入には、従来の設備投資とは桁違いのコストがかかることが多く、これが最大の参入障壁となっています。
・ハードウェア・ソフトウェアの高額な導入費:
ICT建機は、通常の建機にセンサーや制御システムを追加するため、1台あたり数百万円から1,000万円以上の追加費用が発生します。また、BIM/CIMを動かすための高スペックPCや、年間数十万円におよぶソフトウェアのライセンス料も大きな負担です。
・計測・通信環境の整備コスト:
現場全体で3次元データを活用するためには、高精度なドローンやレーザースキャナーの購入、さらには山間部などの現場でも大容量データをやり取りできる高速通信環境(Starlinkや5Gなど)の構築に多額の費用がかかります。
・「見えないコスト」の存在:
単に機材を買うだけでなく、3次元データを作成する専門業者への外注費や、自社社員がツールを使いこなすための教育訓練費(リスキリングコスト)が発生します。導入初期は作業効率が一時的に下がるため、その間の人件費も実質的なコストとなります。
・投資回収の不確実性:
建設プロジェクトは現場ごとに条件が異なる「一品生産」です。ある現場のために導入した高額な設備やデータが、次の現場でそのまま転用できるとは限らず、中小企業が数年スパンで投資を回収する計画を立てにくいという構造的な問題があります。
👉 中小企業には負担が大きく、公的な補助金やリース活用の検討が不可欠です。
② 中小企業への普及の遅れ
建設業界の9割以上を占める中小企業においてDXが進まないことは、業界全体の底上げを阻む最大の要因です。
・元請けと下請けの「デジタル格差」:
大手ゼネコン(元請け)がBIM/CIMや高度な管理システムを導入しても、実際に現場で作業する中小の下請け企業がそれに対応できる設備やスキルを持っていない場合、結局は「紙の図面」や「電話・FAX」によるアナログなやり取りに引き戻されてしまいます。
・投資余力の乏しさ:
前述の通り、ICT建機やソフトウェアは非常に高額です。資本力のある大手企業は研究開発費として投資できますが、利益率が低く、直近の資金繰りを優先せざるを得ない中小企業にとって、数年後の効率化のための数千万円の投資は極めてハードルが高いのが現実です。
・ITリテラシーと教育の限界:
中小企業では一人ひとりの役割が多岐にわたり、新しい技術を学ぶための時間的・精神的な余裕がありません。また、社内にITに詳しい専任担当者を置く余裕もなく、社長や現場監督が独学で対応せざるを得ないため、導入が一部のツール(LINEやデジカメなど)に留まってしまいます。
・「一品生産」による汎用性の低さ:
中小企業が受注する工事は規模が小さく、現場条件も千差万別です。
大規模な土工であればICT建機の効果は絶大ですが、小規模な修繕や複雑な都市部の工事では、高額なデジタル機材を導入しても「元が取れない」という判断になりがちです。
👉 業界全体が多重下請構造である以上、下請け企業のデジタル化なしに真の建設DXは完結しません。
③ 現場とのギャップ(「導入」と「活用」の乖離)
ITツールを導入しても、実際の現場で使われず形骸化してしまうケースが後を絶ちません。
・「使い勝手」の悪さ:
開発されたシステムが現場の実態(屋外の過酷な環境、手袋着用、騒音など)を考慮していない場合、操作の煩わしさが作業効率を下げ、現場から敬遠されます。
・二重管理の発生:
デジタル化を進めても、発注者への提出書類や社内規定で「紙」の原本が求められる場合、デジタルと紙の両方を作成する手間が発生し、現場の負担が倍増します。
・「現場の勘」への過信と不信感:
長年培った経験則を重視する現場サイドと、数値データを重視するITサイドの間で、信頼関係が築けていないことがあります。「機械の出す数字より自分の目の方が正しい」という心理的反発が、定着を阻みます。
・導入プロセスの丸投げ:
経営層が「とにかくDXだ」とツールだけを現場に押し付け、具体的な運用ルールやサポート体制を整えない場合、多忙な現場監督は新しいことを覚える余裕がなく、結局従来のやり方に戻ってしまいます。
👉 「導入=活用」ではなく、現場が「楽になった」と実感できるまでの伴走支援が不可欠です。
④ データ連携の難しさ
建設プロジェクトには、発注者、設計会社、元請け、数多くの専門工事業者(下請け)など、多種多様な組織が関わります。これらの組織間でスムーズにデータをやり取りできないことが、DXの大きな足かせとなっています。
・ファイル形式の不一致(互換性の欠如):
3Dモデルを作成するソフト(BIM/CIMソフト)はメーカーごとに独自のファイル形式を持っており、異なるソフト間ではデータが正しく表示されなかったり、属性情報が消えてしまったりすることがあります。この「変換の手間」がデータの利活用を妨げています。
・情報の「サイロ化」:
各企業が独自の管理システムやクラウドツールを導入しているため、プロジェクト全体で情報を共有しようとしても、システム同士が連携できず、結局はメールや手作業でデータを移し替える「情報の分断」が起きています。
・責任の所在とデータ所有権:
万が一、共有されたデータに誤りがあった場合、誰が責任を負うのかというルールが未整備です。また、自社のノウハウが詰まったデータを他社に渡すことへの抵抗感もあり、オープンなデータ連携が進みにくい土壌があります。
・通信環境とデバイスの制約:
現場で大容量の3Dデータを閲覧しようとしても、通信速度が足りなかったり、現場のタブレットのスペックが不足していたりすることで、結局「紙の図面の方が早い」という結論になりがちです。
👉 「つながる仕組み」と「標準化」が、業界全体の効率化の鍵となります。
⑤ 人材不足(DX人材も不足)
建設業界全体で「現場のプロ」と「ITのプロ」の両方が不足しており、その両者を結びつける人材がいないことがDXの最大のボトルネックとなっています。
・「現場」と「IT」の橋渡し役がいない:
DXを推進するには、建設現場の特有のルール(施工手順や安全基準)を熟知し、かつ最新のデジタル技術で何ができるかを理解している人材が必要です。しかし、現状は「ITはわかるが現場を知らない」ITベンダーと、「現場はわかるがITは苦手」な技術者の間に深い溝があり、実効性のあるシステム構築が進みません。
・若手入職者の減少とITスキルの偏り:
そもそも建設業への若手入職者が減っている中、数少ない若手も「ITを使いこなす」以前に「現場の基本」を覚えることで手一杯です。また、デジタルネイティブ世代であっても、建設専用の高度なソフト(BIM/CIM等)を使いこなすには専門的な教育が必要ですが、その教育体制が整っていません。
・中核層のITリテラシーの課題:
現場の意思決定権を持つ40代〜60代の層において、従来のやり方への成功体験が強く、新しいデジタルツールを習得することへの心理的・時間的ハードルが高い傾向にあります。リーダー層がDXの価値を実感できない限り、組織全体への定着は困難です。
・外部人材の採用難:
IT人材は全産業で奪い合いとなっており、労働環境のイメージが厳しい建設業が、優秀なエンジニアやデータサイエンティストを確保するのは極めて難しいのが現状です。
👉 「ツール」を買うことはできても、それを「使いこなす人」を確保・育成することが最難関の課題です。
⑥ 業界構造そのものの問題
日本の建設業界特有の構造が、DXの浸透を根本から阻害しています。
・多重下請構造の弊害:
ピラミッド型の頂点にいる元請けがDXを推進しても、実際に現場で手を動かす3次、4次の下請け企業までデジタル化のメリットやコストが還元されにくい構造があります。情報の伝達経路が長いため、データが途中でアナログ(紙や電話)に変換され、情報の鮮度と精度が失われます。
・過度な価格競争と低利益率:
受注時の価格競争が激しく、多くの企業が「次世代への投資」に回す利益を確保できていません。DXによる中長期的な効率化よりも、目先のコスト削減が優先されるため、高額な初期投資を伴うデジタル化が後回しになります。
・短期志向の受注形態:
工事ごとにJV(特定建設工事共同企業体)が組まれ、プロジェクトが終われば解散するという「一品生産・現場完結型」のビジネスモデルです。現場ごとにルールや関係企業が異なるため、特定の現場で培ったDXのノウハウやシステムを他へ横展開しにくいという課題があります。
👉 仕組みそのものが、標準化や継続的な投資を前提とするDXと相性が悪いのが実情です。
6.本質的な論点(ここが一番大事)
建設DXの本質は、単なる「ITツールの導入」ではなく、**「建設業というビジネスモデルと組織文化の再構築」**にあります。技術の問題以上に、長年培われてきた「構造の問題」が深く関わっています。
■よくある誤解
× DXすれば人手不足は解決する → 実際は:
👉 **DX + 制度改革 + 働き方改革**がセットでなければ、ツールだけが浮いてしまい、現場の負担は逆に増えます。
■なぜ進まないのか(詳細解説) 建設DXが他産業に比べて遅れている理由は、単なる「ITアレルギー」ではなく、以下のような業界特有の深い構造的要因があります。
1. 投資対効果(ROI)の見えにくさとコスト負担
ICT建機やBIM/CIMソフトは非常に高額です。例えば、ICT建機は通常の建機に比べて数百万円から一千万円以上の追加費用がかかることがあり、BIM/CIM対応の高スペックPCやライセンス料も継続的な負担となります。
しかし、建設プロジェクトは「一品生産」であり、現場ごとに地形や土質などの条件が異なるため、導入した設備が次の現場でそのまま100%の性能を発揮できるとは限りません。特に中小企業にとっては、数千万円単位の投資を回収する見通しが立ちにくいのが実情です。
また、導入費用だけでなく、3次元データを作成する外注費や、オペレーターの教育訓練費といった「見えにくいコスト」も重くのしかかります。
2. 多重下請構造による「情報の分断」
建設現場は元請けから数多くの下請け企業が連なるピラミッド構造です。 元請けが高度な3Dデータを使おうとしても、現場の実作業を担う下請け企業にそのスキルや設備がなければ、結局は紙の図面に戻ってしまいます。
この「デジタル・デバイド(格差)」が業界全体の足を引っ張っています。また、利益が下請けにまで適切に分配されない構造では、下請け企業が自発的に高額なDX投資を行う動機が生まれにくいという側面もあります。
3. 職人や現場監督による「長年の経験」と「学習コスト」の対立
職人や現場監督は、長年の経験に基づいた「今のやり方」で工期を守るプロです。
新しいITツールは、長期的には効率的でも、導入初期には必ず「学習コスト(手間)」が発生します。 常に工期に追われ、「今日中にここまで進めなければならない」という極限の状況にある現場にとって、一時的にでも作業スピードが落ちるDXは、生産性を下げる「リスク」と捉えられがちです。
4. 成功体験に基づく「現状維持バイアス」
「今までこのやり方で事故もなく、立派なものを作ってきた」という強い自負があります。この成功体験が、抜本的な変革を「余計な手間」や「伝統の破壊」と感じさせてしまう心理的障壁となっています。
「デジタル化しなくても、気合と経験で何とかなる」という根性論が、合理的なシステム導入を阻むケースも少なくありません。
5. 発注制度・積算基準の壁
公共工事などの発注制度は、依然として「従来工法」を前提とした積算基準や検査体制が色濃く残っています。
企業側がDXで効率化し、工期を短縮したり人員を減らしたりしても、それが積算(工事費の見積もり)に反映されて受注額が下がってしまうようでは、企業にメリットがありません。
DXによる効率化が「企業の正当な利益」として還元される評価制度の整備が、技術の普及に追いついていないのが現状です。
6. 現場ごとの「個別最適」と「全体最適」の矛盾
建設業は現場ごとにJV(共同企業体)が組まれ、異なる会社が協力して一つのものを作ります。そのため、自社で素晴らしいシステムを開発しても、他社と組む現場では使えない、あるいはデータ形式が合わないといったことが頻発します。
この「現場完結型」の性質が、業界全体での「標準化」や「プラットフォーム化」を難しくしています。
7.今後の方向性(実務的に重要)
① 段階的・現実的なステップの踏み方
いきなりフルDXを目指すのではなく、投資対効果が見えやすい部分から着手します。
・フェーズ1:事務・管理のデジタル化(電子図面、クラウド写真管理、チャット活用)
・フェーズ2:現場のデータ化(ドローン測量、3Dモデルの活用)
・フェーズ3:高度な自動化・連携(ICT建機の導入、AIによる工程最適化)
② 「現場ファースト」のツール設計
「ITを使わせる」のではなく「現場が楽になる」ことを最優先します。
・UI/UXの改善:手袋をしたままでも操作しやすい、直感的なインターフェースの採用
・現場の声を反映:現場監督や職人のフィードバックを即座にツール改善へ繋げる体制
③ 発注制度・評価基準の改革
企業の努力だけでなく、発注者側(官公庁・民間施主)の理解と制度設計が不可欠です。
・DX評価の導入:ICT施工を採用した企業に対する加点評価や、適切なコスト負担の明文化
・適正な工期設定:デジタル化による試行錯誤を許容する、ゆとりある工期の確保
④ 企業間連携と「橋渡し人材」の育成
一社で完結させず、業界全体でリテラシーを底上げします。
・プラットフォームの共通化:企業をまたいでデータを活用できる標準フォーマットの普及
・リスキリング:現場知識とITスキルの両方を備えた「現場DXエージェント」の育成
8.まとめ:
技術・人材・制度を一体で変える 建設DXは、単なるツールの導入ではなく、建設業の在り方そのものを再定義するプロセスです。
今回の内容を整理すると、以下の3点が重要になります。
■「魔法の杖」ではないことを認識する
DXは導入すれば即座に人手不足が解消される魔法ではありません。技術を活かすための「業務プロセスの見直し」や「現場の意識改革」が伴って初めて、真の生産性向上が実現します。
■技術・人材・制度の三位一体
現場のデジタル化(技術)を進めると同時に、それを使いこなせる「現場DX人材」の育成(人材)、そしてICT活用を正当に評価しコストを担保する「発注・評価の仕組み」(制度)をセットで変えていく必要があります。
■社会インフラを守るための生存戦略
建設DXは、単なる効率化の手段にとどまりません。
・深刻化する人手不足への対応
・激甚化する災害への迅速な復旧体制
・老朽化するインフラの効率的な維持管理
これら喫緊の社会課題を解決し、地域の安全と安心を次世代へつなぐための「生存戦略」そのものです。
変化を恐れず、まずは身近な事務作業のデジタル化といった小さな一歩から、業界全体で歩みを揃えていくことが求められています。
では、こうした変化の中で、地方の建設業はどうなっていくのでしょうか。人が減り、企業も減っていく地域で、インフラは維持できるのか。次回は「地域建設業の現実」に焦点を当てます。
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