建設業の担い手不足が日本の成長を止めるー社会インフラシリーズ#1
朝、通勤で何気なく歩く道路。
休日に出かける観光地の橋やトンネル。
私たちの暮らしは、目に見えない「建設の力」に支えられています。
しかし今、その基盤を支える人材が急速に減っています。
担い手不足はすでに始まっており、放置すればインフラの維持すら難しくなる未来も現実味を帯びてきました。
本記事では、建設業の人材不足の「本当の原因」と、現場レベルから制度改革までの対策を整理し、これからの日本社会に何が求められるのかを考えます
日本は社会インフラをどうしたら維持更新していくことができるのか考えます。
まず、建設分野の担い手不足について5回シリーズで解説します。
担い手不足編(今回)
災害編(次回)
DX編(スマート建設)
地方衰退編(地域建設業)
海外比較編(欧米・アジア)
なお、日本における外国人の不法滞在や移民など重要な課題があることは承知していますが、今回は社会インフラの観点からの記載になります。
予めご承知おき下さい。
1.街を歩いて気づく「当たり前」の裏側
都内を歩いていると、いたるところで工事現場を見かけます。
再開発、道路補修、地下インフラの更新——。
一見すると「いつもの風景」ですが、よく考えると不思議です。
これだけの工事を、いったい誰が支えているのか。
答えはシンプルです。
人です。
そして今、その「人」が足りていません。
2.建設業で何が起きているのか
建設業の担い手不足は、単なる人手不足ではなく、構造的な問題です。
■高齢化の進行
現場を支えてきた熟練技能者の多くが50代後半から60代。
引退が進む一方で、若い世代が十分に入ってきていません。
■若者に選ばれない理由
いまだに残る「きつい・危険・休めない」というイメージ。
実際に長時間労働や休日の不規則さが存在する現場もあり、敬遠される要因となっています。
■不安定な産業構造
公共事業や民間投資の波に左右されやすく、
安定したキャリアを描きにくい側面があります。
3.このまま進むと何が起きるのか
担い手不足は、すでに現場の問題を超えています。
■インフラ維持が追いつかない
日本では高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進行中。
補修・更新が必要な時期に、人がいないという矛盾が生まれています。
■災害対応力の低下
地震や豪雨の復旧を担うのも建設業です。
人材が不足すれば、復旧のスピードが落ち、地域の回復が遅れます。
■コスト増と社会への波及
人手不足は工期の遅延やコスト増を招き、
最終的には税金や物価に跳ね返ります。
4.解決のカギは「人を増やす」だけではない
ここが重要なポイントです。
担い手不足の本質は、
人が少ないことではなく、今の仕組みが人を必要としすぎていることです。
つまり、対策は「採用」だけでは足りません。
5.現実的な対策①:働き方を変える
まず最優先なのは労働環境の改善です。
週休2日の定着
長時間労働の是正
賃金水準の引き上げ
すでに多くの企業で導入していますが、これができなければ、若者は定着しません。
過去の月に1〜2日しか休みがない、という悪いイメージが残ったままなのかもしれません。マイナスからのリセットは工夫と努力が必要です。
「やりがい」だけでは人は集まらない時代です。
普通に働ける産業にすることが第一歩です。
6.対策②:テクノロジーで現場を変える
次に重要なのが生産性向上です。
ドローン測量
3D設計(BIM/CIM)
建設機械の自動化
AIによる工程管理
これらはすでに実用段階に入っています。
ポイントは、
人を減らすためではなく、人が足りなくても回る仕組みを作ることです。
7.対策③:人材の多様化
これまでの建設業は、特定の層に依存してきました。
今後は、
女性の活躍
高齢者の継続就業
外国人材の活用 (ここは議論があるところです)
異業種からの転職
といった多様化が不可欠です。
「誰が働くか」を広げることで、産業の持続性が高まります。
8.対策④:技能の“見える化”
熟練技能はこれまで「経験」で伝えられてきました。
しかし、それでは継承が間に合いません。
技術のデジタル化
マニュアル化
教育プログラムの整備
つまり、
職人技を再現可能な技術に変えることが求められています。
9.対策⑤:制度から変える
見落とされがちですが、最も重要なのがここです。
適正な工期設定
ダンピング防止
技術重視の入札制度
CM(コンストラクションマネジメント)方式の導入
現場の努力だけでは限界があります。
日本のように役所が設計、工事費積算、発注、監督をすべて関わる制度は、世界的にも珍しいです。役所に優秀な土木技術者など人材がいたからできた仕組みだと思います。
現在、役所の土木技術者も減少しており、従来のやり方は限界に来ていると思います。
例えば、海外では、CM方式などのPPP(官民連携)により、ゼネコンや設計コンサルタントなど受注者が設計や工法・工事費算出をします。そして、民間提示の工事費を踏まえて、役所は民間との交渉で詳細を詰めていきます。
発注の仕組みそのものを変えなければ、持続可能になりません。
役所、建築主が意識を変えることが重要です。
10.未来の建設業はどう変わるか
これからの建設業は、確実に変わります。
人海戦術 → スマート施工
経験依存 → データ活用
労働集約 → 付加価値産業
そして何より、
「きつい仕事」から
「社会を支える高度な産業」へ
というイメージ転換が起きていくはずです。
業界トップの鹿島の経営を見てみると、純利益とROEが中期経営計画における数値目標となっています。
過去には、売上高(受注高)を数値目標にする時期もありましたが、現在では不動産事業への投資など利益を上げ、資本効率を高める経営方針に変化しています。
その結果、株価は3年間で概ね3倍超と株式市場でも評価されています。


11.まとめ:これは“業界の問題”ではない
建設業の担い手不足は、
単なる業界課題ではありません。
それは、
道路が維持できるか
災害から復旧できるか
都市が機能し続けるか
という、社会そのものの問題です。
だからこそ必要なのは、
人を増やすことではなく、仕組みを変えること。
私たちが当たり前に使っているインフラを、
当たり前に使い続けるために。
今、静かに進んでいるこの問題に、
もっと目を向ける必要があります。
次回は建設分野の「災害編」を解説します。
東日本大震災の復旧復興では、被災しながら被災者捜索などのために瓦礫を取り除いて道路を開いて地元の約400社の建設業と全国から人材を集めることができる大手ゼネコン、両方の力が結集して平時の何倍のスピードで復旧復興が進みました。
現在、能登半島の復旧復興はどうでしょうか。
東日本大震災から15年経過して、能登の地元の建設業に同じような役割が期待できる状況でしょうか。
今後は、防災庁や国交省地方整備局など、さらに国主導の制度導入が必要なのかもしれません。

