イーサリアムでもJ.P.モルガンでもない、第3の選択肢「Canton Network」
先日のブログで、金融市場全体がブロックチェーンへ移行し始めていること、そしてSoFiに大きなビジネスチャンスが生まれる可能性について整理した。
ところで、その金融市場は、一体どのブロックチェーン上で動くのだろうか?
暗号資産に詳しい方であれば、イーサリアム(Ethereum)と思うかもしれない。実際、現在のRWA(実物資産のトークン化)市場ではイーサリアムが中心となっており、トークン化国債やトークン化MMFなどもイーサリアム上で発行されている。
一方で、ソラナ(Solana)は高速処理を武器に、決済や送金などリテール分野で存在感を高めている。では、金融機関もそのままイーサリアムやソラナを使えば良いのだろうか。
実は、答えはそう単純ではない。
金融機関が求めているものは、「完全なオープンチェーン」でも、「完全なクローズドチェーン」でもない。その中間を埋める、新しい設計思想のブロックチェーンが登場している。
それがCanton Network(キャントン・ネットワーク)である。
現在、このネットワークには世界の金融インフラ企業が次々と参加しており、SoFiとの接点をうかがわせる動きも見られている。
現時点で何かを断定できる段階ではないが、まずはCanton Networkがどのようなブロックチェーンなのかを理解しておきたい。
<ブロックチェーンの大きな3つの考え方>
金融機関の視点で見ると、ブロックチェーンは大きく3つに分けられる。

重要なのは、「どれが優れているか」を単純に比較することではない。それぞれ設計思想が異なり、用途によって最適なブロックチェーンも変わるという点である。
では、なぜ金融機関はイーサリアムだけでは十分ではないのだろうか。
<なぜイーサリアムでは難しいのか>
イーサリアムは非常に優れたブロックチェーンである。世界中の誰でも参加でき、同じネットワーク上で価値を移転できる。しかし、金融機関にとっては一つ大きな問題がある。
それは透明性が高すぎることである。
例えば、J.P.モルガン、ゴールドマン・サックス、BNPパリバの3社が100億ドル規模の国債取引を行ったとする。
この取引内容を世界中の誰でも確認できる状態では困る。取引金額、取引相手、保有状況、ポジションなど、こうした情報は極めて機密性が高い。
このように、イーサリアムの「誰でも見られる」という長所が、金融機関にとっては短所にもなる。
<ではクローズ型なら良いのか>
そこで登場したのが、J.P.モルガンが展開するKinexys(キネクシス)のようなプライベートネットワークである。
ここでは、参加者を限定でき、情報も完全に非公開にできる。
しかし今度は逆の問題が生まれる。J.P.モルガン、ゴールドマン・サックス、BNPパリバのネットワークは相互につながりにくく、「銀行ごとの孤立した島」になってしまうのである。金融市場全体で利用するには、この相互運用性が課題となる。
<そこで誕生したCanton Network>
Canton Networkは、まさにこの課題を解決するために設計された。イメージとしては、マンションのような構造である。
各金融機関は、それぞれ自分専用の部屋を持っていて、部屋の中の情報は外から見えない。しかし、共有廊下を通じて必要な情報だけを共有する。
「アクセスは公開、データは選択的に非公開」という新しい考え方である。
<最大の特徴は「Need to Know」>
Cantonでは、必要な人だけが必要な情報を見る。これを「Need to Know」という。
例えばApple社が社債を発行する場合、主幹事銀行、保管銀行、監査人など、取引に直接関わる関係者だけが内容を知れば良い。他の金融機関や一般参加者が知る必要はない。
この仕組みにより、プライバシーと規制対応を両立できる。
<「Network of Networks」という発想>
もう一つ特徴的なのが、「Network of Networks」という考え方である。
一つ巨大な台帳を全員で共有するのではない。各金融機関はそれぞれ独立したネットワークを持ちながら、Global Synchronizer(グローバル・シンクロナイザー)という共有レイヤーを通じて、取引内容は秘匿したまま、ネットワーク全体の整合性だけを共有する。
その結果、二重払いなどは防ぎながら、取引内容そのものは秘匿できる。従来のブロックチェーンにはなかった設計思想である。
<なぜ今、金融業界が注目しているのか>
この仕組みに注目している企業を見ると驚く。
ゴールドマン・サックス、BNPパリバ、Visa、Microsoft、Deutsche Börse(ドイツ最大の証券取引所グループ)、DTCC(米国証券市場の清算・決済機関)、SBIグループなど、世界の金融インフラを支える企業が次々と参加している。
つまり、暗号資産業界が作ったネットワークではない。ウォールストリート自身が選び始めているネットワークなのである。
<次回予告>
金融市場がブロックチェーンへ移行するとき、イーサリアムでもなく、完全なクローズ型でもない。その中間を埋める存在として、Canton Networkは急速に存在感を高めている。
では、このCanton NetworkにSoFiUSDが対応するとしたら、何が起きるのだろうか。
次回は、DTCC(米国証券市場の清算・決済機関)が進める米国債のトークン化や、金融市場におけるステーブルコインの役割を整理しながら、SoFiUSDが果たす可能性について考えてみたい。
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