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コダックに学ぶVisa/Mastercardの終焉【前編】―変化を拒む“構造的宿命”―

<フィルムに縛られた巨人 ― 技術革新を封じたコダックの教訓>
1970年代、コダックは世界のフィルム市場の約8割を支配し、従業員数は10万人を超え、米国のダウ平均株価にも1930年以来、採用される超一流企業だった。

「写真」と言えばコダックだった。黄色いロゴは世界中の観光地で輝き、家族旅行、卒業式、結婚式──人生のあらゆる瞬間がコダックのフィルムに刻まれた。

その裏で、1975年、当時26歳の若きエンジニアが世界初のデジタルカメラの祖を開発した。彼の試作機は、粗い白黒写真を磁気テープに保存するものだった。

つまり、“写真をデータとして保存する”、“モニターで再生して見る”というデジタル写真の構造を初めて形にしたのだ。

彼は経営陣の前でプレゼンをした。
「将来、人々は撮った写真をフィルムではなく、画面で見るようになります。」

だが返ってきたのは、冷たい言葉だった。
「面白いが、我々のフィルムビジネスをつぶす──」

彼の技術は封印された。コダックの収益の大半はフィルムと現像から生まれていたため、フィルムを使わないその構造は“自己破壊”を意味したのだ。

しかし、その後、コダックはデジタルカメラの波に飲み込まれ、2012年に破産申請を行った。

<クレジットカード:“便利さ”が生んだ多層構造の宿命>
クレジットカードの起源は、1950年のニューヨーク、ダイナースクラブの創業者が、レストランで財布を忘れた際に「後で払う」ことができれば便利だと考えたことが、世界初のカード誕生につながった。

彼は200枚の「紙のカード」を発行、加盟店はレストラン14店舗。顧客はそのカードを加盟店で提示すると、後日まとめて代金を支払うことができる「紙の信用証」となった。

この仕組みが受け入れられると、ダイナースクラブは会員と加盟店を拡大。またほかの会社も同様のハウスカードを発行し始める。ただし、これらは自社専用であり、他社の加盟店では使えなかった。

そこで1958年、バンク・オブ・アメリカが、消費者を審査して信用枠を与える「銀行」と、加盟店(お店)との契約を取りまとめる「加盟店契約会社」という役割を確立した。

ところが、1970年代に入り、米国内で複数の銀行が独自カードを発行し始めると、ルールが乱立し、混乱が生じた。そこで、決済や清算などの共通ルールを整える組織として生まれたのが、VisaとMaster Charge(のちのMastercard)である。

これにより、銀行・加盟店契約会社に加え、「カードネットワーク(Visa/Mastercard)」「クレジットカード発行会社」という現在まで続く構造が完成した。

この構造の下で、VisaやMastercardが“中立的立場からの交通整理役”として機能し、その後カード決済は世界中に広がっていった。

ただし、この構造は便利さの裏で複雑化・多層化しすぎた。決済ごとに数%の手数料が各社に分配され、入金も清算を経て後日となる。クレジットカードは「信用」を基盤に築かれた膨大な「アナログシステム」である。誕生の経緯を踏まえるとそれがよく理解できる。

<ステーブルコイン―“構造の再発明”がもたらす未来>
クレジットカードは多層化された決済構造であるのに対し、ステーブルコインは、ブロックチェーン上でユーザー同士のウォレット間を移動し、取引=即時送金=最終決済が一瞬で完了する。

この違いは、本質的な転換を意味する。

かつてコダックがフィルムでデジタルを模倣した構図に似ている。現在のクレジットカードが「紙の信用証」を起点に、デジタルを模倣したアナログ技術だとすれば、ステーブルコインはデジタルカメラならぬ“デジタルコイン”で、決済は一瞬で終わる。中間業者を不要とする仕組みのため、手数料も激減する。

電話というアナログ回線上に行われたADSLによるインターネット接続が、最終的には光回線に敗れ去ったように、現在の決済システムも最終的にはステーブルコインに置き換わっていく。アナログの延長線上の最適化では、デジタル前提の再設計には勝てない。所詮アナログはアナログだ。

もちろん、Visa/Mastercardも手をこまねいているわけではない。ステーブルコイン時代の波に乗ろうと、すでに次の一手を打ち始めている。

だが、その戦略は“構造を壊せない巨人”の限界をさらけ出すものでもある。後編では、その限界と、SoFiが描く“手数料構造の破壊”の正体を明らかにする。

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