「ルポ 「トランプ信者」潜入一年」 横田増生 著 小学館新書
もし、日本に移民が増え、いわゆる生粋の「日本人」が50%を割りそうになったら、もし、AIとロボットが急速に広まり、その結果多くの人たちの仕事が奪われてしまったら、その一方で一部の超エリートが富のほとんどを独占するようになったら、一般市民の間で、移民とエリート層に対する反感は強まるかもしれません。
遠い将来、そうなった時、日本社会は立ち止まれるでしょうか?対等性と多様性を維持することができるでしょうか?
今のアメリカは、まさにそのような状況なのでしょう。移民が増え、非白人が50%に迫ろうとしていて、ラストベルトは勢いがなくなってから久しい。儲かっているのは、エリートのIT長者ばかり。・・・そんな時代に、怒りの吐口は、エリート層や移民に向かいます。
そこに登場したのがトランプです。トランプが従来の共和党大統領と違うのは、〝反リベラル〟や〝反民主党〟だけならず、〝反エスタブリッシュメント〟をも旗幟鮮明にしている点(p.82)です。
「オレは70年代に生まれたんだけど、学校を出て働く頃は経済のグローバル化が進み、親父たちのような高収入を得られる仕事が、どんどん減っていった。オレたちの世代はグローバル化の犠牲者だ。その一方で、労働者を安くこき使ったビル・ゲイツのような経営者は巨万の富を手にした。そうした不公平に立ち向かってくれたのがトランプというわけさ(p.216)」は、2020年の大統領選挙時のトランプ支持者、アンドリュー・・オーハウスキー(49)の言葉です。それは、エリートでもない、金持ちでもない、一般の白人の多くが持った感覚なのでしょう。
そのような感覚は、エコーチャンバーの中で増幅され、極端な陰謀論を作り出します。
「政界やメディア、金融界のエリートが、児童の性的な人身売買を行う悪魔崇拝者に操られている」など、Qアノンの基本的な陰謀論に同意する信奉者がアメリカ全体の14%に達した(p.229)とのことです。
これは、大変な数字だと思います。「政界、メディア、金融界がエリート層に支配されている」と言うのならまだわかりますが、そのエリートたちが「児童の性的な人身売買を行う悪魔崇拝者」となると、これは、もはや行き過ぎた陰謀論であると思います。このような極論は、社会に不安が高まっているときに生じやすいと言えるでしょう。
そして、「彼らは同時に、トランプを悪魔崇拝者と闘う英雄として位置付ける(p.229)」のです。これは、非常に危険です。トランプという中心となる核ができることによって、陰謀論がより力を持つからです。
この本は2020年のアメリカ大統領選挙の潜入ルポです。その時は、トランプは敗れました。しかし、この本の最後で触れられていますが、その4年後2024年の選挙でトランプは大統領に返り咲きます。それは、ますます広がった格差に対する不満と不安がかつてないほど大きくなってきたと言うことかもしれません。
日本にも将来同じようなことが起こるかもしれません。
アメリカは、これまでもしばしば極論が暴走することがありました。朝鮮戦争時の「赤狩り」や太平洋戦争時の「日系収容所」などがその例です。しかし、アメリカは、その都度、国の方向性を修正していきました。必ずと言っていいほど、揺り戻しがあったのです。
日本にも同じように極論が暴走することが起こるかもしれません。日本の怖いところは、なかなか動き出さないのですが、いざ動き出したら、外圧がない限り止まることが難しいことです。
最後に、この本の最後で示されている、民主主義にとって、要注意な政治家の特徴を示します。
1.民主主義のルールを否定・軽視する。
2.政治的な対立相手の正当性を否定する。
3.暴力を許容・促進する。
4.メディアを含む対立相手の市民的な自由を率先して奪おうとする。(p.283)・・・『民主主義の死に方』より

