私の"いってらっしゃい"担当
家の最寄駅を出てすぐのところに、駐輪場がある。
ご家族でやっているらしく、夜十一時になると、きっちり鍵がかかる。
(十一時までに帰れない時は徒歩で帰ることが決定する)
朝と夕方、その時間はたいてい、おじいちゃんが見守りスペースである管理人室にいる。
小さなテレビをつけて、椅子に座って。

自転車を停めに行くと、たいてい声をかけてくれる。
朝は「いってらっしゃい」、帰ってきた時は「おかえり」「お疲れ様」。
家族以外の人から、そんな言葉をかけられることは、そういえばあまりない。
それだけのことなのに、聞くたび、少し嬉しくなる自分がいる。
顔を合わせるたび、少しずつ馴染みが増えていく。
こちらも、おじいちゃんの姿が見えると、つい声をかけたくなる。
何か特別な用があるわけではない。ただ、そこにいる人と、少し言葉を交わしたいだけなのだと思う。
そんなふうに顔を合わせるうち、私たちの間には、忘れられない出来事もいくつかあった。
ある日、自転車の後輪に、ロングスカートの裾を巻き込んでしまったことがある。
慌てて駐輪場に飛び込むと、おじいちゃんがすぐに助けに来てくれた。
ああいう時、頼れる人が近くにいるというのは、思っていた以上にありがたいものだった。

そんなことがあってから、出先で買ったお土産や、バレンタインデーのお菓子をたまに差し入れたりするようになった。
ある日、帰りに駐輪場へ行くと、おじいちゃんは私の顔を見るなり、管理人室の窓をガラッと開けて、待ち構えたようにお礼を言った。
「オレ、あんなの食べたの初めて」
目をキラキラさせながら、そう言うのだった。

その可愛らしさに、不意打ちで胸を撃ち抜かれた。
年を重ねた人が、あんなに人をきゅんとさせるしぐさと表情ができるのかと、勉強になった気がした。
もっとも、彼の方は、無意識でやっているのだろうけれど。
私にはない無邪気な可愛らしさを持っていることが羨ましいと感じた。
そんなふうに感じさせてくれる人が、駅前にいる。
駅前の、ただの駐輪場。特別な場所ではない。けれど、そこに行けば、誰かが自分のことを知っていて、声をかけてくれる。
それだけのことが、こんなにも心を軽くするのだと、近頃よく思う。

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