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第2話|東京マンション“高止まり”の裏で起きていること──空き家が増えても家賃が下がらない理由と、金利・修繕費インフレの現実

「買い控え」「売れ行きの濃淡」「修繕費の爆上がり」まで含めて、“住まいは投機じゃなく生活”として整理する

1.はじめに

東京の物件情報を眺めていると、ある瞬間から「数字の桁」が変わります。
駅から近い。都心寄り。築浅。タワー。――条件が揃った途端に、中古でも1億円台が“当たり前の顔”で並び始めます。
そして新築に目を移すと、東京23区の新築マンション平均価格は 1億5,313万円(2025年10月)。平均でこの水準なら、体感が追いつかなくて当然です(出典:不動産経済研究所(2025年10月))。

怖いのは、高いことそのものよりも、“高い世界”が日常化していくことです。
家の値段は、スーパーの値札みたいに毎週貼り替えられません。住宅は一度決めたら、簡単にやり直せないものです。
だからこそ「今はこういう相場ですよね」と受け入れた瞬間から、人生設計がその相場に合わせて組み直されていきます。
住み替え、結婚、出産、転職、親の介護――住まいは、気づけば全部の選択肢の“土台”になります。
土台が重いと、上に載せられる人生プランが少しずつ減っていきます。これは感情論ではなく、住居費が固定費として効いてくる以上、どうしても起きる現象です。

しかも東京は、ここからもう一段ややこしいです。
東京都の統計では、都内の空き家は 約89.7万戸、空き家率は 10.9%(2023年) とされています(出典:東京都(住宅・土地統計調査))。
数字だけを見ると「そんなに空いているのですか?」と思う量です。
ただし、ここで誤解しやすいのは、“空いている=すぐ市場に出てくる”とは限らないという点です。
空き家には、賃貸に出す前提の住戸もあれば、売るつもりがない住戸もあります。古くて住みにくい住戸もありますし、手続きや片付けが面倒で放置される住戸もあります。
つまり、空き家が多いという事実は「供給が十分」という意味に直結しません。ここが、東京をややこしくしています。

さらに、住居費の“もう一方の主役”である家賃も簡単には下がりにくいです。
分譲マンション賃料の指標では、東京23区が 4,900円/㎡(2025年11月) という水準が示されています(出典:東京カンテイ(賃料データ))。
金利が動けば家賃も動く、と期待したくなる気持ちは分かります。ですが家賃は、金利だけで決まるものではありません。管理や修繕、人件費、物価の影響も受けますし、「便利な場所に住みたい」という需要も簡単には消えません。だからこそ、金利が下がる局面が来ても、家賃がすぐ下がるとは限らないのです。

中古も同じで、中古には中古の“別の難しさ”があります。
東京23区の中古マンション価格(70㎡換算)は 1億1,485万円(2025年11月) とされ、数字としてはまだ強さが残っています(出典:東京カンテイ(価格推移PDF))。
ただ、ここから先に起きやすいのは「下がった/上がった」の前に、**“動かない”という状態です。
高いまま、売れにくい。買う側は慎重になります。売る側は簡単に値を下げられません。
このねじれが始まると、住まいは「買う・借りる」の話から、
“逃げ道があるか”**の話に変わっていきます。これは大げさではなく、相場が硬直したときに現場で起きやすい現象です(※ここはデータではなく、局面の説明なので“推定”です)。

そこへ金利上昇が重なります。
金利が上がれば、ローンの負担は増えやすくなります。ここまでは分かりやすいです。
ただ、本当に厄介なのは、家計を押し上げるのがローンだけでは終わらないことです。
管理費、修繕積立金、保険、共用部の更新――**“住むための固定費”**が、物価と人手不足の影響で後から効いてきます。
つまり住宅費は、「購入の瞬間」よりも、「住み続ける時間」でじわじわ重くなることがあります。ここを見落とすと、判断を誤ります。

この第2話で答えたい問いは、3つだけに絞ります。
空き住戸が多いのに、なぜ東京は「高いまま」になりやすいのでしょうか。
中古が売れにくくなり始めたとき、何が先に崩れていくのでしょうか。
そして、金利上昇と修繕費のインフレが重なる時代に、家計は何を基準に「住まい戦略」を決めるべきでしょうか。

住まいは投機ではなく生活です。
だからこそ、感情ではなく、データと現実で整理していきます。

2.日本(特に東京)

東京「1億時代」は、空き部屋が増えても終わらないのか

(※3部作の第2部:日本・東京編)

東京で「中古でも1億」が珍しくなくなってきた──この体感は、もう“気のせい”ではありません。
ただ、今いちばん厄介なのはここからで、「高い」だけならまだ分かりやすい。問題は、“空き部屋が多い”という事実が並走しているのに、価格も家賃も簡単には下がらない構造ができつつあることです。

そしてもう一つ。金利が上がり始めたことで、買い手側はじわじわ冷静になり、売れ行きには陰りが出やすい。一方で、建てる側は建設コストと人手不足で供給を増やしづらい。
このねじれが、「高止まり」と「売れにくさ」を同時に生みます。


事実:空き家が多くても、価格と家賃が下がりにくい「ねじれ」が起きています

ここからは、感想や体感ではなく、まず数字で“今の東京”を固定します。
ポイントは5つです。空き家(供給の量)/新築価格(入口)/中古価格(出口)/成約(売れ方)/賃料(毎月の固定費)。この5つを同じページに並べると、東京の異常さが「一枚の絵」として見えてきます。

東京都の統計では、東京都の空き家は89.7万戸、空き家率は10.9%(2023年)。その中には、賃貸用の空き家も21.0万戸含まれます(※定義上、空き家には「賃貸用・売却用・別荘・その他」などが含まれます)。
出典:東京都(住宅・土地統計調査の結果)

  • ① 東京都の空き家数・空き家率(2023年)

次に価格。東京23区の新築マンション平均価格は、1億5,313万円(2025年10月)。前年比で見ても上昇が続いています。
出典:不動産経済研究所

中古も高い。東京23区の中古マンション価格(70㎡換算)は、1億1,485万円(2025年11月)
出典:東京カンテイ(プレス資料PDF)

  • ③ 東京23区の中古マンション価格(70㎡換算、推移含む)

さらに、「売れ行き」に関係する数字も置いておきます。首都圏中古マンションでは、新規登録 16,098件に対して成約 4,435件で、成約の比率は27.6%(2025年11月、東日本レインズの月例集計)。
出典:東日本レインズ(Market Watch)

家賃も見ます。東京23区の分譲マンション賃料は、**㎡単価 4,900円(2025年11月)**という水準が報じられています。
出典:R.E.port(東京カンテイの賃料データ報道)

そして金利。日銀の金融政策は、2024年以降「ゼロ近辺→段階的に引き上げ」という流れに入りました。政策金利(無担保コールO/N)のガイドは、0〜0.1%(2024/3)→0.25%(2024/7)→0.5%(2025/1)→0.75%(2025/12)
出典:日本銀行 公表資料


図表1:東京の住宅スナップショット(空き家/新築価格/中古価格/成約比率/賃料/政策金利)

図表2:東京23区 中古マンション価格(70㎡換算)の推移(+金利イベント注釈)


根拠:なぜ「空き部屋があるのに高い」のか(東京が上がりやすい3つの理由)

ここからが本題です。空き部屋が増えているのに、なぜ価格と家賃は下がりにくいのか。ポイントは3つに絞れます。

① 空き家の“中身”が、需要と噛み合っていない

「空き家89.7万戸」と聞くと、“そんなに余ってるなら安くなるでしょ”と思います。
でも空き家には、賃貸に出すつもりがない住戸、古くて住めない住戸、売るのに手間がかかる住戸も含まれます。さらに東京の場合、**本当に欲しいのは「職場に近い・便利・築浅・管理がしっかり」**という条件が付きやすい。

つまり、空き家が増えても「条件の良い住戸の供給不足」が解消しないと、価格は下がりにくい。
この“ミスマッチ”が、東京のしんどさの核です。

参考として、日本の一般世帯は 1世帯あたり平均2.21人(2020年)
もし仮に「1戸=1世帯」が成立するとして、

  • 空き家897,000戸 × 2.21人 ≒ 約198万人分

空き家に住める人口規模は約200万人規模になるので、「長野県(約197万人)」とか「新潟県(約207万人)」「香川県+秋田県(約178万人)」の人口感に近くなる、という見方もできます。

② 建てる側のコストが落ちない
 (人手不足+資材+規制で供給が伸びにくい)

金利が上がってくると「買い手が減るから住宅価格は下がるはず」と思いがちです。ですが現実は、建設コストが下がらない限り、売り値は下がりにくい。金利が上がっても下がっても、「作る側の原価」が高止まりしていると、価格は粘りやすいです。

建築は「人」と「材料」に引っ張られます。職人不足があると、工期は伸び、コストは上がり、供給は絞られやすい。だから、買い手が慎重になっても、売り手側が大きく値下げしてまで出す理由が薄い。結果、「高止まり」が起きやすい。

この構造は賃貸も同じで、仮に金利が下がる局面が来たとしても家賃が下がりにくい理由になります。家賃は“住宅ローン金利”というより、**需給と物価(管理コスト・修繕・人件費)**で決まりやすいからです。

③ 「買える層/買う理由」が残っている(東京は“需要の芯”が太い)

東京23区の新築平均が1億5,313万円まで上がると、「普通の年収では無理」と感じる人が増えます。ここで効いてくるのが、買い手の分断です。

  • 世帯収入が高い層(共働き、金融資産が厚い、親の支援がある)

  • 住居というより「立地の希少性」を買う層

  • 実需+資産保全の“ハイブリッド”層(投資というより、現金の置き場所に近い)

この層が一定数いると、平均価格は落ちにくい。高額物件が市場平均を押し上げる構図も起きます(この点は報道でも触れられがちです)。
出典(補足):Reuters(首都圏マンション、10月発売戸数…平均価格1億5313万円)


影響:いちばん効くのは「固定費」と「修繕費」のダブルパンチ

ここから先は、不動産の話ではなく家計の話です。もっと言うと、「人生の選択肢」の話です。

家賃が高いと、頭金が作れず“次の一手”が遅れる

たとえば家賃が月20万円なら、年間240万円。10年で2,400万円。
もちろん住む価値はあるし、家賃は“払って終わり”ではなく生活の対価です。だけど、同時に頭金づくりのスピードは確実に遅くなる

しかも、家賃が高い時代は「貯める余力が削られた状態」で住宅価格が上がっていく。
この組み合わせが、いちばん残酷です。住居費を払うほど、将来の住居選択肢が狭まる。これが“負のループ”の中身です。

「買えた人」も安全ではない。修繕積立金が後から効いてくる

ここが、表面化しにくい地雷です。
ローン返済額だけを見て「なんとかなりそう」と思っても、マンションは年月が経つほど、修繕積立金・管理費・共用部の更新コストが重くなりやすい。

しかも今は、資材も人件費も上がりやすい。周りのマンションの修繕費が上がれば、同じように上がっていく圧力がかかる。
「ローンは固定で安心」でも、ローン以外が上がると家計は崩れます。

この点は国交省も、修繕積立金の考え方を整理したガイドラインを公表しています(制度の話というより、“必要額を見積もって備える”ための資料として読むと役に立ちます)。
出典:国土交通省

  • マンションの修繕積立金に関するガイドライン

ここまで来ると、都心の超高額マンション購入が「資産形成」なのか「投機」なのか、境界がぼやけて見えてくるのも自然です。
値上がり益を前提にした瞬間、生活の器が“価格ゲーム”に巻き込まれてしまうからです。


リスク:金利上昇は「買い控え」だけでなく、“家計の耐久力”を削る

リスクは大きく3つあります。

① 金利上昇で「買い控え」→「売れにくさ」→「値下げ圧力」が出る可能性(推定)

政策金利が上がると、住宅ローン金利も上がりやすい。これは購入可能額を直接削ります。
結果として、市場は「買える人が減る」より先に、「買う人が慎重になる」。この段階で起きるのが、“売れにくさ”です。

ただし注意点もあって、平均データは“高額物件”に引っ張られやすい。
「平均は高いまま」でも、「売れない物件は値下げが始まる」という二層構造が起きやすいです(ここは個別物件の実態差が大きいため、一般化は推定になります)。

② 景気悪化・ボーナス減で、ダブルローンの耐久力が落ちる

共働き前提、ボーナス前提、将来の昇給前提。
この“前提の積み重ね”は、景気が悪化した瞬間にまとめて崩れてしまいます。住宅は一度買うと身動きが取りにくいから、失速した時に回避が難しい。

③ 修繕費・管理費の上昇が、支出を静かに押し上げる

金利はニュースになります。でも、修繕積立金の上昇はニュースになりにくい。
だから気づいた時には家計が詰む。ここがいちばん怖いところです。


今後の展開:来年に向けて“見るべきは価格”より「売れ方」と「固定費」

最後に、これから1年で注目すべき材料を整理します。

① 「価格」ではなく「成約率・在庫・値下げ事例」が先に動く

市場の変化は、まず“売れ方”に出ます。
新規登録に対して成約がどれくらい付くか(成約比率)、在庫が増えるか、値下げが増えるか。
価格は最後に動きます。だから来年は、相場の体温として「成約」の数字を見るのが合理的です。
出典:東日本レインズの月例集計(2025年11月)

② 住宅ローン金利の方向性(=家計の耐久テスト)

日銀は政策金利を段階的に引き上げてきました。
金利の方向性が上なら、「買うかどうか」だけではなく、「買った後に耐えられるか」がテーマになります。
出典:日銀公表資料

③ 「家賃が下がらない」前提で、家計の固定費設計が問われる

金利が下がれば家賃も下がる、という期待は持ちすぎない方がいい。
家賃は需給と物価で決まりやすく、東京は“便利さの需要”が強い。
だからこそ、来年は「家賃が高いままでも資産形成できる住まい方」──つまり、固定費の上限設定や、住む場所の最適化が効いてきます。

ここまでを一言でまとめると、住宅価格は「金利」だけで落ちるほど単純ではなく、むしろ“作る側のコスト高止まり”が値下げを難しくしている、という構図です。
金利が上がれば買い手は慎重になって取引は止まりやすい。でも、人手不足・資材・規制対応で原価が落ちない限り、売り手は簡単に値を崩せない。だから相場は「下がる」より先に、**高止まりのまま動かない(停滞する)**形になりやすい——これがこの記事の結論です。

そして次に気になるのは、この停滞が“どこから”崩れるのか

ここまで見てきた通り、東京の住宅は「空き住戸があるのに、価格も家賃も下がりにくい」というねじれを抱えています。金利が上がれば買い手は慎重になり、取引は先に冷えやすい。一方で、建設コストや人手不足、立地の希少性がある限り、売り手は簡単に値を崩しにくい。だから相場は「下がる」より先に、**高いまま動かない(停滞する)**形になりやすい――これが東京のいちばん厄介なところです。

ただ、ここで一つだけはっきりさせておきたいことがあります。住宅の議論は、相場が上がるか下がるかだけでは終わりません。むしろ本当に効いてくるのは、家賃・ローン・管理費・修繕積立金といった毎月の固定費が、家計の自由度をどれだけ削るかです。相場が“停滞”している間も、固定費は家計から静かに体力を奪っていきます。

だから次は、いよいよ本丸に入ります。
**「持家か賃貸か」**を、理想論ではなく現実論で。老後に賃貸を借りにくくなる壁、インフレが「借金」と「家賃」に与える時間差、そして家族戦略としての“住まいの出口”――ここまで含めて、あなた自身の住まい戦略を組み立てられる形に整理していきます。


参考リンク(図表の出典対応)

今日も最後までお読み頂きありがとうございました。

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