あの世のはざまの「ぼくきみ物語」〜地獄の沙汰もチャンネル次第〜【第8章#9】
第8章 ぼくはキューピッド〜見えない世界の入り口〜
「やっぱり、キューピッドの矢の効果はあったのかな。ぼくのこと、気になっていたんだね」
ゆうは少し照れたように、嬉しそうに笑った。
「実はあの後、しばらく他の地域の災害状況の確認に行っていたんだ。だから、なかなかきみに会いに来られなくてね。それでも、しばらくしてから残業中のきみに会いに来たことがあったんだよ。だけどきみは、ぼくのこと分からなかった?」
私は当時の怒涛の日々を思い出して、思わず苦笑してしまった。
「あの頃は本当に大変だったのよ。たくさんの見えない存在たちが、あの場所に一気に押し寄せてきていたから。仕事中なのに、お構いなしに話しかけてくるし……。それに意味が分からなかったんだけど、私の頭の上に花びらやかんざしを乗せていく存在までいたの。私は誰が誰だか分からないし、どう対応したらいいのかも分からなくて」
私は記憶をさらに手繰り寄せながら、言葉を続けた。
「そういえば、あれはすごかったわ。テレビなのか映画なのか、撮影みたいなことまで始まったのよ。『まさか映画撮影!?』って、本当にびっくりした。監督さんみたいな存在がいて、私の少し離れたところで『……はい、カット!』なんて大声が聞こえてくるの。見えない世界でもそんなことをするのかと思って、すごく不思議な気持ちだった」
あの頃の福祉課には、被災された方々が窓口に来られていた。もちろん、現実世界の職員や来庁者には、その撮影現場は見えていなかったはずだけど、当時の私には、現実と見えない世界の両方が重なって見えていたから、気になって仕方がなかった。
あの時は本当に、まるで透明人間のような存在たちが動き回っているように見える、不思議な感覚の中にいたのだ。
ゆうは私の話を、包み込むように優しく受け止めながら頷いた。
「それは大変だったね。確かにあの頃は大きな震災の後だったから、海外からも本当にたくさんの存在が、この地に集まっていたんだよ。悲しんでいる人がいれば、寄り添いたいと思うのは、どの世界でも同じだからね」
彼は少し考えるように静かに間を置いてから、諭すように続けた。
「それに、きみが見えない存在たちと話し始めたばかりの頃だったのでしょう? だとしたら、一番いろいろなものが見えたり感じたりしやすい時期だったのかもしれないね。例えるなら、オリエンテーションのようなものかな」
「オリエンテーション?」
私は不思議に思って首をかしげた。
「うん。人間がこちらの世界と繋がり始めた最初の一歩のときには、強い体験や鮮明なビジョンが起きやすいんだ。この見えない世界がどんな場所なのかを知るための、いわば『入り口の体験』だね。『こんな面白いこともあるんだよ』『こんなふうに意識を繋げられるんだよ』って、上の存在たちから分かりやすく見せてもらっていたのかもしれない」
ゆうは愛おしそうに私を見つめるような気配を感じさせた。
「でもね、そういうお祭り騒ぎのような派手な体験が、ずっと続くわけではないんだよ。この世界に慣れてくると、派手な映像やドラマチックな出来事は少なくなっていく。その代わり、もっと静かで、もっと深い関わりへと変わっていくんだ」
ゆうの言葉を聞きながら、私は15年前ではなく、現在の自分自身へと意識を戻していた。
確かに、あの頃のように目まぐるしく鮮明な映像を見ることは、新しい扉が開くときや、未知の体験が始まるときの特別なものなのかもしれない。ゆうの言う通り、それは繋がりが薄れたのではなく、普段はもっと静かで、深いものへと変わっているのだ。
今の私は、ずっと自然に、まるで当たり前にそこにある空気のように、彼らの存在をそばに感じている。
あの頃は、見えることや聞こえることの派手さに心を奪われていた。だけど、今は違う。目に見える派手な奇跡はなくても、私は今、静かな大いなる愛に包まれている。
魂はいつも一緒にいる――その確かな実感が、今の私にはあった。

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※本作は、いつも一緒にいてくれる「内なる存在」との絆、そして私自身の地獄からの生還を描く、全2巻(前後編)の【前編】となります。
🔗 続きはこちら【第9章 こころと身体の話(こころ編)】
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