【小説】(第2章)『リセット・オフ:僕を取り戻す7日間』~自分自身をリセットする夏休みの物語~
◆はじめに
◆第1章
第2章:言葉では語れない声――潜在意識の囁きに耳を澄ます
旅に出る前、真はふと思い立って図書館に立ち寄った。理由はうまく言葉にできない。けれど、何かに呼ばれるように、自然とその重厚な扉の前に立っていた。
扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でる。静謐な空間。積み重ねられた本、わずかに響くページをめくる音、それだけが空間に流れていた。まるで時が止まったような感覚に、真の内側で微かな揺らぎが起きる。
彼の足は導かれるように、とある棚へと向かった。緑色の地味な装丁をした一冊が、他のどの本よりも強く目に留まった。タイトルは、目立たない小さな文字でこう記されていた。
「潜在意識を超える実践ガイド」
真はその本を手に取り、そっと開いた。すると、ページの隅に誰かが走り書きしたような言葉が現れた。
「誰の期待に応えているのか。そして、本当に喜びを感じる瞬間はどこにあるのか?」その問いかけに、真の心は不意を突かれた。それはまさに、以前目にした「顕在意識から抜け出し、潜在意識と行動を循環させる」という考え方と響き合っていた。
「自分の人生は、自分の喜びを中心に動いているか?」
そう問い直すような感覚が、胸の奥で小さく波紋を描いた。誰かに褒められるためでもなく、評価されるためでもない、自分が本当に「生きている」と感じる瞬間。その手応えを、彼は最近すっかり見失っていたのかもしれない。
次のページには、さらに深い言葉があった。
「無意識は、まず使おうとしないことが壁になる。まず、使うという選択をしてみよ」
「顕在意識を使いながら、潜在意識を生かす。そして二つは巻き込んで循環する」
それらの言葉は、単なる“読み物”ではなかった。真の中にある、言語化できなかった焦燥や渇望が、少しずつ輪郭を帯びて浮かび上がってくる。
ページを閉じると、彼の胸に“空洞”のようなものが静かに浮かび上がってきた。それは、これまでの人生でつくられた「枠」に自分を閉じ込めてきた証でもあった。
「大人になるほど、頭ではなく、体で感じ直すことが必要だ」
この言葉は、今の彼にとって、まるで深呼吸のような救いに感じられた。
真は再び本を開き、読み進めていく。そこには、「潜在意識の使い方」について丁寧に書かれていた。ただポジティブに考えるだけでは足りない理由。光ばかり見ようとすれば、影が濃くなるという心理。そして、そのどちらも受け入れた中立の視点――いわば「ゼロ地点」こそが、最も本質的な選択を生む土壌になるのだということ。
「プラスとマイナスを統合した先に、ゼロの選択がある」
その一節が、彼の心に深く残った。
ちょうど窓の外には午後の光が差し込み、彼の頬に柔らかく触れていた。その光は、過去の自分と今の自分をやさしくつないでくれるようだった。
彼は、ふとノートを取り出した。普段はあまり習慣にしていなかった“書く”という行為に、なぜか今は抵抗がなかった。むしろ、書かずにはいられない衝動に突き動かされていた。
最初に書いた問いは、こうだった。
「私は、誰の期待に応えて生きているのか?」
書き終えた瞬間、胸の奥にほのかな振動が走る。その揺らぎは、まるで無意識が反応し始めた合図のようでもあった。
次に出てきたのは、
「私が、本当に喜びを感じるのは、どんな瞬間だろうか?」
その問いには、図書館の静けさよりも、自分の内側の“声”のほうがずっと大きく響いていた。感じようとする感覚が、まるで自分の中で灯を点けていくようだった。
「無意識が準備したとき、意識が追いつき、そこに行動が生まれる」
今まさに、その“準備”が整い始めているのかもしれない。真はそう感じた。
本を閉じ、彼は静かにつぶやく。
「答えよりも、問いを抱え続ける勇気を持とう」
その言葉には、知識や論理を超えた“感覚”が込められていた。
図書館を出たとき、外は夕暮れに染まり始めていた。西の空にゆっくりと沈んでいく太陽。その光は、どこか真の背中をやさしく撫でているようだった。
――あなたは、顕在意識と潜在意識、どちらに耳を澄ませて生きていますか?
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