【連載小説】優しい人々(7)
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あらすじ
印刷会社で働く須原浩樹は、パワハラが横行する職場で上司に盾突き、クビになった。守るべきものを探しに、辿り着いた場所は、北海道の山間の雑貨屋。そこで出逢った人々は、みんな心にわだかまりを抱えて生きていた。父親を嫌いだった雪さん、借金や彼女の死を背負いながら、明るく生きる、ひださん。自分を好きになれずに、20も上の男性と暮らしている麻衣。浩樹は彼らと話すことで癒やされ、彼らもまた浩樹の存在に癒やされていった。ひょんなことから、彼らと映画に出演する話が持ち上がり、物語はクライマックスへ。浩樹は、彼らは、それぞれに「守るべきもの」を見つけることができたのだろうか。
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第七話(全13話)
●須原浩樹
最初は、多田さんのような人なのかと思っていたけれど、ひださんと多田さんの共通部分は少ない気がしてきた。多田さんと同じで馴れ馴れしいけれど、ひださんのその中には「陰」を感じない。「陰」が悪いわけじゃないのだけど、それが強すぎると違和感がある。多田さんにはそれを感じてしまって、馴れ馴れしさとの間を埋めきれていなかった。そこが少し人をいらつかせる部分になっていたんじゃないかと思う。ひださんの馴れ馴れしさ、それは単純な「陽」だ。強すぎるわけではない、その「陽」がこちらの「陰」を完全に消し去る。多田さんに「すんち」なんて言われたら、俺はきっと怒りを抑えるのに必死になるだろう。それはどこか多田さんの「陰」に引き込まれそうになる感じがするからだ。ひださんには、そういうものがない。だから俺ももう「ひださん」と自然に口にしてしまう。もしかしたらこの人は、すさまじい魔法をもっているのかもしれないとすら思う。なんていったって、今月だけで十二回も遅刻をしているというのに、クビにならないのだ。あの「鬼頭碇」だったなら、多田さん以上に目を付け、「殺すぞ」という言葉をひださんに浴びせたことだろう。いや、実際に手を上げていたかもしれない、殺すまではいかなくても。そういう話をつい、ひださんにしてしまうと、ひださんはさっきとは変わって落ち着いた口調で答えた。
「いるよなー、そういう奴。まぁでもまだ言葉だけならいいほうかもな」
「言葉だけでも嫌ですよ」
「まぁね。俺、前は札幌にいたんだけど、そのときの彼女、ストーカーに脅迫されててさ。俺、ずっと守ってるつもりだったんだけど、守れなかったんだよね。あれ、言葉だけならまだよかった。っていうのは間違ってるか」
あまりにもあっさりと、ひださんはそんなことを話す。俺は言葉を探している。このヘビーな話を黙って聞いててもいいのだろうか。けれど、変なことを言ってしまったらと思うと、何も言えなくなる。時計とストーブの音だけがやけに大きく聞こえる。それを破ったのは、ひださんのほうだ。
「あ、痛ってええ! 変な虫入ってきた! くっせぇ!」
ひださんは「陽」の声で、手を払う。確かに臭い。
「ひださん、「こいた」んじゃないの!」
笑いながら俺は鼻をつまむ。
「バカ! こいてねぇって! 刺されたもん、なんか変な丸い虫に! だから田舎はやなんだよ。奥の部屋に虫いなかったか?」
「いませんよ、たぶん」
「まだ絶対どっかにいる。すんち、となりで殺虫剤買ってこい」
「だいじょうぶですよ、もう」
「いやいや、なんか気になる」
「わかりましたよ、行ってきます」
いったい一日に何度コンビニに行ったらいいのか。そんなことを考えつつ、俺は店を出た。
つづく
第八話↓
