第4話 巻頭カラー24ページ : 告白は満天の星空の下で ──しかし打ち切りまで4話
「祝・読者アンケート第1位! 読者の皆様に圧倒的感謝を込めて、今週は怒涛の巻頭カラー24ページでお届け!!」
雑誌の表紙を飾る、デカデカとしたアオリ文句。
そしてラブコメにおける巻頭カラーといえば、絶対に外せない神聖な儀式がある。
そう、『プール(水着)回』だ。
俺たち三人は、燦々と太陽が照りつける市民プールにやってきていた。
よし……ついに水着回だ!
いくら狂ったクソ作者でも、ここでギャグに走るバカはいない。
読者は結衣の可愛い水着姿を求めてるんだからな!
俺は、点(・)の目を限界まで見開き、女子更衣室から出てくる結衣の姿を待ち構えていた。
先週の「深海魚弁当事件」でサイコパス化させられた結衣だが、水着姿さえしっかり可愛く描かれれば、正統派ヒロインとしての尊厳は取り戻せるはずだ。
「お待たせ、神宮寺君。……あとモブ」
「おおっ、結衣ちゃん! すごく似合って……」
更衣室から現れた結衣と、それを褒めようとした神宮寺を見て、俺の思考は完全にフリーズした。
「……は?」
そこにいたのは、結衣と神宮寺ではなかった。
いや、キャラクターとしては彼らなのだろう。
しかし、そのビジュアルは、およそ商業誌に載せていいレベルを遥かに下回る、「丸と線だけで描かれた、鉛筆書きの棒人間」だったのだ。
「お前らァァァアアア!? 作画どうしたぁぁぁあああ!!?」
俺の絶叫がプールに響き渡る。
おかしい!
いくらなんでもおかしい!!
しかも背景のプールは「実写のフリー素材写真をそのままトーン化しただけ」という明らかな手抜き工事。
そして、巻頭カラーの過酷なスケジュールに作者(とアシスタント)の筆が完全に力尽きた結果、メインキャラである結衣と神宮寺が、下書き(ネーム)以下の『ただの線』に退化しているのだ!
「どうかな神宮寺君。今年の新作、フリルが多くてちょっと恥ずかしいんだけど……」
棒人間(結衣)が、鉛筆の線をクネクネとねじらせながらポーズをとる。
その体(ただの直線)には、作者の汚い字で『※ここに可愛い水着』とだけ書かれていた。
「布がねぇええええ!! フリルどころか肉体(ヒロイン)としての概念が消失してんぞクソ作者ァ!!!」
「すごく似合ってるよ、結衣ちゃん。俺もドキドキしちゃったな」
棒人間(神宮寺)が、爽やかに笑う(※顔の丸の中に『(^^)』という顔文字が描かれているだけ)。
こいつら、自分が棒人間になっていることに全く気付いていない!
脳味噌までただの線になっちまったのか!
「待て待て待て! 巻頭カラーだぞ!? なんで色塗ってないんだよ!!」
俺がツッコむと、結衣の頭上に、作者の言い訳のようなテロップがスッと降りてきた。
【※作者急病のため、今週はアバンギャルドなミニマリスト・アート表現でお送りします】
「ただの原稿落としだろうがァ!! 横文字で誤魔化すな!!」
俺は頭を抱えた。
終わった。
結衣の可愛いヒロイン像が、今度こそ完全に消滅した。
こんな『※ここに可愛い水着』と書かれただけの線画に、誰が胸キュンするっていうんだ。
その時、ふと気づいた。
俺の体だけは、いつも通りの「黒ベタ塗りのモブ髪」と「点(・)の目」、そしてシワのない「ペラペラの水着」として、完全にペン入れされていたのだ。
……そうか。
俺はモブだから、作画コストが「3秒」で済む。
だから俺だけ原稿が完成しているのか!
……ふざけるな。
結衣の初めての水着回なんだぞ。
俺が……俺の想像力(ツッコミ)で、この棒人間から『極上のラブコメ空間』を錬成してやる!
「うおおおお!! 結衣ィ!! その白を基調としたフリルのビキニ! 普段のツンケンした態度からは想像もつかない可憐さだぜ!! 作者のやろう、けしからん! 最高にけしからんぞぉぉおお!!」
俺は、ただの棒人間に対して、ものすごい勢いで存在しない『可愛い水着』の実況解説(ツッコミ)を開始した。
「神崎君、うるさい。せっかく神宮寺君とプールに入ろうとしてるのに」
結衣が見た先には、『(※ここにプール)』と文字が書かれていた。
「プールも文字情報だけかよ!! 泳げねえだろ!! ああっ、結衣が水に濡れて、髪が肌に張り付いている(と俺は今、脳内で必死に補完している)! 神宮寺ィ!! お前どこ見てんだテメェ!! 結衣の(描かれていない)顔をみろぉっ!!」
俺は棒人間二人に向かって、見えない水しぶきを上げながら、一人で全ページの作画を言葉で補い続けた。
周囲から見れば、黒髪のモブが虚空(ただの線)に向かって「可愛い!」「水着最高!」と絶叫し続ける、完全な狂気の空間である。
──そして、運命の翌週。
俺は本屋で雑誌を開き、血を吐くような思いでアンケート順位を確認した。
『幼馴染は俺にだけ冷たい』……アンケート順位、堂々の第1位(V2達成)。
【読者の声】
『作者の限界を超えた手抜きを、主人公(親友モブ)が狂気の語彙力でカバーする斬新な回だった』
『神崎のツッコミ実況のおかげで、棒人間が可愛い水着美少女に見えてきた。俺の脳もヤバいかもしれない』
『今週は神崎(モブ)が一番汗かいてて主人公してた』
「俺の脳細胞を返せェェェェエエエエ!!!」
俺の魂の叫びは、またしても的外れな大絶賛と共に消費されていった。
だが、読者のコメントに一つだけ気になるものがあった。
『……てか、洸太って本当は結衣のことめっちゃ好きなんじゃね?』
その一文を見た瞬間、俺の点(・)の目が、わずかに、本当にわずかにだが……潤んだような気がした。
(次回予告)
作者のギャグ路線がいよいよ末期症状に突入した。
文化祭の演劇『ロミオとジュリエット』、なんでロミオ(神宮寺)が大根の着ぐるみ着てんだよ!
もう限界だ。俺が、俺の手でこの狂ったギャグ時空を終わらせる。
元・全4話予定。
……次回、第5話。『文化祭での大根とジュリエット』
主人公の座、力尽くで奪い返してやる!!
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