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暖房費7万円、年収1/3の地方暮らし。それでも豊かに暮らせるか?

43,637円。

我が家の2月分の灯油代金だ。玄関ポストに放り込まれていた明細を見たとき、「はぁぁ?」と声が出た。

北海道の一軒家は、家の前に490L入る大きな灯油タンクがある。そこからパイプで、家の給湯器や石油ストーブに自動的に給油される。お湯もガスではなく灯油で沸かす家が多いというのは、こっちにきて驚いたことの一つだ。ひと月に1回、業者さんが灯油タンクを満タンにしにきてくれる。その代金が冒頭の金額だったのだ。

我が家は猫のために日中エアコンを使うことがある。その電気代が2万円強。ポータブルストーブ用の灯油代が、約1万円。特に冷え込んだ2月の暖房費は、しめて7万円だった。

2月は家の前にこんなに雪が積もった

田舎なら生活コストが下がる、は本当か?

ワイナリーに就職するにあたり、わたしたち夫婦は年収が約1/3になった。新卒で入社した大手企業を辞め、フリーターや小さい編集プロダクションを経て、なんとかここまで積み上げてきた年収をバッサリと捨てる決断は、なかなか苦渋のものだった。

でも北海道なら、東京と比べて生活コストも下がるから、なんとかやっていけるだろう。そう思っていたが、無造作に玄関に投函された灯油屋の明細を見て、考えが甘ったかもしれないと愕然とした。

ちなみに、この灯油代を会社の人に話したら、「それは高すぎる」と驚かれた。我が家は築56年の木造住宅で、断熱性能もかなり低い。入居時点で、床や壁のあらゆる隙間にビニールテープがびっしりと貼ってあった。おそらく前の住人が、虫対策と隙間風対策に貼ったものだ。だから、うちの灯油代は外れ値かもしれないが、東京に比べて冬の光熱費がグッと上がることは確かだ。ちなみに、冬に野菜が取れない北海道では、食費も意外と高くつく。住んでみてはじめてわかることも多い。

寒がりな猫がいるので、暖房費は削れない

何にお金を使うかが、自分の軸になる

こっちで暮らしてつくづく思うのは、東京の会社で給料をもらいながら北海道に住んでいたら、かなりの富豪になるだろうなということだ。家賃は確実に東京より安い。1/2〜1/3にはなると思う。揺り戻しが来ているとはいえ、フルリモートOKの会社はまだあるし、「永住するわけではないけれど、地方暮らしを経験してみたい」という人には、その選択を強くお勧めする。

ただ私たちは、「地方に暮らすこと」ではなく、「余市でワイナリーを継ぐこと」を選んだので、前職はすっぱりと辞めるしかなかった。

もちろんこれから、いまのワイナリーの利益を増やし、自分たち含めた社員に還元していくということは、大きな目標ではある。でも、東京でしていたような暮らしやお金の使い方は、見直さざるを得ない。

いままで多くお金を使っていたのは、家賃・光熱費を除くと、1.交際費(飲み代)、2.洋服や化粧品代、3.コンテンツ代、だった。

「仕事終わりに一杯寄ってく?」という文化がないので、交際費は自動的にほぼゼロになった。夫と外食に行くことはあるけれど、車だとどちらかが(というか、夫が)飲めないので、特別に行きたい店がない限りは、「家でいいか」という日がほとんどだ。

東京からお客さんが来てくれたときは、余市のいつもの店で外食するのが楽しみだ

出社する日は制服なので、洋服もほとんど買う必要がなくなった。インスタをみていると物欲が湧いてくることもあるけれど、それでも「シーズンにどれだけ着るか?」を考えると、自然と購入する手は止まる。

「田舎に住んだらダサくなった」と思われたくない気持ちはある。だからこそ、流行りものではなく、「長く使えるいいものを、少しだけ」という目線で吟味するようにしている。これは、わたしにとってのあたらしい訓練だ。

一方で、コンテンツ代だけはケチらないようにしようと、決めている。これまでの自分の考えや生き方をつくってくれたのは、間違いなく本や映画だ。そこを削ってしまったら、大事な軸が揺らいでしまうような気がする。だから、月に1回、多いときは月に3回は映画館に行っているし、仕事で疲れ切っていても、少しは本を読むようにしている。読みきれない本も、自分の財産になると思って買う。

こう書いてみると、「一過性の楽しさ」よりも「自分に蓄積されるもの」にお金を使うように、自然とシフトしているのかもしれない。

この土地で、自分なりの豊かさを追求するには

「収入が減った分、田舎に暮らしている分、生活が貧しくなっていると感じるか?」と聞かれたら、答えは「No」だ。豊かになった部分は確実にある。

たとえば、わたしたちは年間5,000円で市民農園を借りている。そこで植えている苗のほとんどは、会社の人や、農園で仲良くなった人からわけてもらったものだ。はじめての畑仕事、わからないことだらけだけれど、自然と周りの人が手を貸してくれる。最近はズッキーニやきゅうりが毎日収穫できるようになり、新鮮な野菜がタダで食べられる。

初収穫で喜んでいたころ。最近は毎日これくらいかそれ以上、収穫できてしまう
伸び放題になっていたトマトを、畑のプロに教わって剪定した

会社の人やご近所さんからも、日々たくさんのお裾分けをいただく。

「畑でトマトがたくさん採れたから、好きなだけ持っていって」
「ホッケが大漁で、いまから届けにいってもいい?」

食費が浮いてラッキー、という気持ちももちろんある。でもそれよりも、一次産業が身近にあってお互いの生活を支え合い、地域の中で交流が生まれているという生活が、豊かさを生んでいると感じる。とても原始的な、「自分たちでつくり、分け合う」文化だ。

家の庭の木で採れたという、お裾分けのさくらんぼ

去年までは、とにかく年収を上げて、東京でおしゃれな暮らしをしたいと思っていた。大企業を辞めて収入がガクッと減ったときの不安と、バリバリ働いてキラキラ遊んでいる友だちへの憧れが、その気持ちを強くしていた。

北海道にきて、比べるものが周りになくなったことで、自分なりの豊かさや幸せを見つめられるようになってきているのかもしれない。

そもそも、東京にいる頃は「豊かさとは?」なんて、考えたこともなかった。たくさん稼いで、なにも我慢せずに、好きなようにお金を使うことが幸せだった。いまは、限られた選択肢の中でも、工夫しながら自分が心地よい暮らしをつくっていくことが、楽しいと思えるようになってきた。

山菜も買うんじゃなくて、自分たちで採った。生えてる場所は、地元の人が教えてくれる

さて、わたしたちは先日、中古物件を購入した。築浅、庭付き一戸建て。余市で築浅の物件が売りに出るのは珍しいので、かなりラッキーだった。しっかりリフォームを入れても、トータルで2,000万円しない。大きな買い物ではあるけれど、東京と比べたら、とんでもない破格だ。

あたらしい地で手に入れた、自分たちの城。広い庭もついている。本がゆっくり読める空間をつくろう。リビングに猫たちの遊び場をつくろう。庭に芝生を貼って、友人を呼んでジンギスカンをしよう。夢が広がる。2,000万円の投資に、価格以上のリターンを生み出せるかは、自分次第だ。

あたらしい家は、DIYができるように下地を入れてもらった


▼移住の経緯についてはこちらの記事に

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