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「歯が痛い!」——海外の歯科保険と文化、そして90日間の罠①——

※このエッセイはあくまで著者個人の体験と感想を記したものであり、特定の企業・個人を批判する意図は一切ありません。今後の海外生活をよりスムーズに送るための一助となれば幸いです。
 
 もうすぐボストンに来て1ヶ月にもなろうかという朝だった。起きて嫌な予感がした。顔の右半分がなぜか動かしにくい。表情筋の問題なのかはわからないが、顔の筋肉が硬直してて動かしにくかった。こんなことはいままで経験したことがなかった。だが、そんな時こそあまり気にせずその日も過ごそうと決めた。その日はとにかく顔の筋肉を動かしたのだけど。それだけ気になっていたのだろう。

 いつも通り家でベーグルをふたつ食べて街へ出る。いつも通り地下鉄に乗って本を開く。最近は小田実の『何でもみてやろう』を読むのがいつもの習慣になっている。1960年代の、まだ戦後の香りが残っている日本を出発して、超大国アメリカを見た著者による旅のエッセイ。まあ、書き手としてこの本を読むと、思うことは色々あるんだけど(笑)。このエッセイを書くためのモチベーションのひとつになっているのは確かだ。それはいいとして、本を読んでいるあいだ私は一体何をしていたか。顔(あご周り)をつねに動かしていたのだった。

 いつも通り街に着いて大学へ向かう。いつも通り大学でも研究書を読みながら、気づいたら顔を動かす。ああ、これはいつも通りではない。ここまでくるともう大きな違和感だ。私は顔を動かし続けた。さらに痛くなってきた。次第に、頬から奥歯にかけての痛みに変わってきた。なんか気になる奥歯の痛み。これは厳しい。あえてメントスを食べ始めた。奥歯で。わたしはバカだった。もっと痛くなった。ああ、これはダメだ。帰りの地下鉄でも本を読みながら顔を動かし、家に帰ってきて夜ご飯を食べながら、さらに右奥歯の痛みを感じていた。

これがわたしの相棒であり、天敵のゲータレード。この砂糖量はすさまじく、運動後に飲むと爽快だが、一瞬で虫歯を呼び寄せてしまう。ちなみにアメリカのNBAの傘下リーグであるGリーグは、ゲータレード・リーグの略称である。(笑)

 これは、歯医者にいくしかなさそうだな。アメリカではなるべく歯医者にからないように直前まで日本で定期検診をしっかりしていたし、「虫歯はないので大丈夫ですよ」と言われたばかりだったのに。残念だ。つねに何かコントロールができない事態に見舞われるのが海外だ。でも、その現実も抱きしめて生きていかなければならない。

 ということで、日本で加入した海外保険の会社に問い合わせた。私の保険はちゃんと歯の治療費がカバーされているか確信が持てず、不安だった。すると、わたしの契約担当者が返事をくれた。「本日社内PCが扱えないため、確認ができない状況にあります。お手数ですが、ご自身でこちらのコールセンターに電話を差し上げてくださいませんか」と。そもそも、担当の人も、自分の会社の保険プランに歯の治療費が含まれているか、自分の会社の商品=保険の内容をよくわかっていない様子だった。「あーあ、あんまり何も考えずにここに加入して、ハズレだったかもなあ」とその時に思った。なぜなら、海外保険の歯の治療費が含まれているかどうかは、結構有名な論点だ。歯科治療が保険内容に含まれていなくて、海外で保険なしで治療しなければならなくなったと苦労する人の話が尽きないからだ。

 思い返せば、日本で契約した時から、不安の予兆はあった。アメリカのJ-1ビザは、海外保険加入の際に満たすべき条件を定めている。具体的には、一事故/一疾病につき10万ドル以上補填されるか、死亡時に遺体を本国送還される費用が25000ドルカバーされているか、などである。それでも担当者は、そのような条件があることも知らない様子だった。かつてわたしは、保険の契約をするために、その保険プランがJ-1ビザの条件を全て満たしているかを直接確認しに行った。しかし、その日に担当者は、「ぼくは英語無理なので、なんと書いているかを訳してください」と仰り、「うーん、多分大丈夫だと思います」と首を傾げ、それらの条件を「自社の保険プラン」が満たしているかを理解していない様子だった。本当にこの人が担当で大丈夫なのだろうか?と思ったが、渡航まであまり時間がなかったためにその場で契約した。海外保険6ヶ月14万円は安くない値段なのに。

 そんなやりとりをふと思い出しながら、言われた通り、コールセンターに問い合わせた。すると、その先の声は「お客様のプランは確かに歯科治療費がカバーされています」と言い、ふう、よかったと安堵した。しかし、それは急転直下で地獄に突き落とされた。「しかしながら、歯科治療については、保険契約開始後から90日間の待機期間は保険の補填対象外となります」と、確かに耳元でそう言われた。「ん?どういうことだろう?」わたしの頭は日本語で言われた内容を理解できず、混乱した。もう一度確認した。「ええと、つまり、どういうことですか?」「大変申し訳ございませんが、お客様のプランでは、最初の3ヶ月は歯科治療のための保険が適用されません」OMG…そんなバカな・・・。なんで、なんでだ?じゃあ、歯科治療費がカバーされているって何?どういう意味なの?と。心のそこからいまの状況に呆れた。それを最初から誰か説明してくれよ、と思いながら。

私のアメリカお土産。日本にはなかなか目にしたことがないものを中心に。いやあ、アメリカはあまりにカラフルな国家だ(笑)そして、Mike and Ikeはあまりに歯にくっつくのが大変だ。これを日常的に食べていたら、そりゃ虫歯になるよなと思う。ちなみにBiscoffとチョコレートは、帰りの機内でいただいたもの。大切にいただきました😌

 おそらくこの約款ができた理由を素人ながらに推測すると、こんな感じだ。過去に日本でも継続して虫歯治療を行っていた人が、おそらく海外で歯科治療をして、そこで海外保険を使って過大請求をしたために、こういう約款になっているのではないだろうか。この待機期間(waiting period) が意味するものを要約すると、90日間は保険適用外だから、海外で虫歯や歯の痛みを持ってはいけないということだ。長期渡航するみなさんは是非とも気をつけてほしい。知らなかったわたしももちろん悪いし、海外保険の歯科治療の契約が基本的ににこのような仕組みになっているのは誰の非でもないにしても、顧客としてはなんだかトンデモな気がした。

 とりあえず、担当者に「今電話で確認したところ、90日間の待機期間のため治療費をカバーできないと言われました」と連絡をした。すると担当者からリンクが送られてきた。「歯科治療費費用について」というリンクサイトだった。「歯科治療に関して待機期間以降で使用された際の補填となります。今後のご参考に一度ご確認よろしくお願い致します」と送られてきた。後追いでリンクを送り付け、「今後のために知っておいてくれ」ということだ。というか、あなたは知らなかったのに、後追いでその対応の仕方はさすがにないんじゃない?とは思った。ただ、「怒りよりも痛み」がいまは最優先事項だった・・・。とにもかくにも、はれてわたしは、保険なしの全額負担でアメリカの高額歯科治療を受けることになったのである…?(続く)

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