(創作大賞2024)大正浪漫チックな花嫁は恋する夫とお勉強がしたい【第六話】
お義母様からのお使いで、三月まで通っていた女学校へ行った私は、久しぶりにお会いする顔ぶれに、笑顔でご挨拶した。
ここを辞めてから、まだ八か月程しか経っていないのに、ずいぶん昔のように思える。
「一井財閥の若奥様は、毎日何をしていらっしゃるの?」
「藤た……いえ、夫は帝大に通っておられるし、何もすることがなくて、退屈よ。
身体を動かしたくて仕方がないですわ」
かつての級友たちが、ワクワクした目で私を取り囲む中、ちょっと大人ぶり、気取って答えた。
「あら、でしたら、久しぶりにやりませんこと?
櫻子様の強烈な打ち込み(※アタック)も、今なら取れるかもしれませんわ」
仲の良い友人が、両腕を重ねて、球を拾い返すような動作をする。
バレーボールっ!
やりたいっ。
数年前にアメリカから伝わったバレーボールを、初めは女学校の先生が教えてくださった。
ゴム鞠を手だけ使って、地面に落とさないようにする遊びは楽しくて、私が率先して皆さんを誘っては、休みの時間に校庭でよくやったものだ。
「やりたいですわっ。 どなたか襷を貸してくださる?」
嬉しい誘いに、私は喜び勇んで、羽織を脱ぎ、借りた襷で袖をかけ、もう一本を帯の下に巻く。
こちらには、昔から知る女子のお友達しかいませんもの。
着物の裾を上げて、動きやすくしたって、構わないわよね。
おしゃれしてきた銘仙の着物の裾をめくりあげて、襷に挟んでいると、先生に見つかって、しこたま怒られた。
「大炊御門さんっ!
全くあなたと言う人は、全然変わっていないわね」
在学中は、先生から『何やってるの、大炊御門さんっ!』と、何度カミナリが落ちたことか。
もう私は『一井』姓に変わっているが、思わず旧姓で呼んでしまった先生は、取り繕うように咳払いなさった。
「あなたはもう、一井財閥の、奥方様(※奥さん)なのですよっ。
日本の未来を背負う、お子を育てる義務がおありになるんですから、良妻賢母となる自覚をお持ちなさいっ」
こうやって怒られるのも久しぶりで、つい嬉しくなってしまう。
淋しい気持ちで、藤孝様を待つばかりの今。
女学校へ通っていた頃は大きな悩みも抱えておらず、楽しい毎日だった。
私はガミガミと先生に怒られながらも、昔に戻りたい気持ちになる。
良妻賢母かぁ。
良き妻、賢い母となるための、女学校だ。
だけど、藤孝様とこのまま夜の営みがなければ、その『未来を背負うお子』も出来そうにない。
夫のことを平手で叩いてしまった私は、良き妻にはなれないのだろうか?
こんな悩みを、先生へご相談したら、また、うんと叱られてしまいそうだわね。
私は小言を繰り返す先生の前で、複雑な心の内を悟られないように、うつむきながら、相変わらずの、お転婆な振る舞いを謝った。
「櫻子様ったら、ちっとも変わっていなくて、良かったですわ。
またお手紙書きますわね。 ごきげんよう」
お友達や、先生方と名残惜しくも、授業に差し支えないように、私は学び舎をあとにした。
「大人っぽくなったと言われたかったのに、みんなから『変わってない』って言われちゃったわ」
一人で思い返しては、口の端が自然と上がって、笑いながら歩く。
一井邸の近くまで戻ってきた私は、道にひらひらと紙が落ちているのに気づいた。
「何かしら?」
少しざらついた洋紙。
手に取ってみると画用紙のようだった。
白いその紙を拾い上げ、裏を返してみると、驚いて目が釘付けになる。
