(創作大賞2024)大正浪漫チックな花嫁は恋する夫とお勉強がしたい【第七話】
それには、日本髪に結った髪を乱し、豊満な胸をそのままさらけ出した女性が、淫靡な表情でこちらを見ているさまが、描かれている。
鉛筆で描かれた素描(※デッサン)だが、精緻に、細部まで陰影をつけたその絵は、まるで写真のようで、私は顔がほてってしまった。
こ、こんな、破廉恥(※性的に淫らなさま)な女性の姿を、絵にするなんて。
赤くなりながらも、良く描けている絵に目を奪われていたが、ふと足元を見ると、風にあおられた同じような画用紙が数枚、ヒラヒラと舞ってきている。
裸の女性や風景、建物など、あらゆるものを描いた紙は、どれも繊細に描かれていて、絵が好きな私は拾い上げながら、次はどんなものが描かれているのだろうと見るのが楽しくなってきた。
どんな人が描いているのかしら?
こんな正確にきれいな絵を描けるなんて、きっと素敵な人だわ。
その画用紙が、どこから飛んできているのか目で追った。
桜の木が植えられている大きな川の土手の下に、画用紙の源があり、川風に吹かれて数枚が散らばり、何枚かは川にも落ちて、流れている。
あぁ、あそこから飛んできたのね。
もうこんなに散らばって。
誰もいないみたいだけど、持ち主はどうしたのかしら?
私は紙を拾いながら、昨日までの雨でまだ落ち葉が湿っている土手を、滑らないように気をつけて草履で下った。
川べりに、古いスケッチブックが広げて置いてある。
使い込まれ過ぎて、綴じた糊が剥がれ、紙がバラバラになっているようだった。
拾い集めた紙も一緒に、その古いスケッチブックに重ねて、もう飛ばないように閉じる。
そのスケッチブックの表には、『鳳雪』と書いてあった。
「誰のかしら? 落とし物?」
桜の木から枯れ葉が落ち散るなか、持ち主を探して川の下流へ目を向けると、川べりに袴姿の男性が立っているのが見える。
「あの人のかしら?」
声をかけてみようと、大きく息を吸い込んだ時。
なんとその男性は、履いていた下駄を脱いで、静かに川の中に入り、キラキラと反射する水面を進み始めた。
「なっ? なんでっ?」
私はその男性が入った川岸まで、迷わず駆け寄った。
「何してらっしゃるのっ?」
なんて声をかけるべきなのかわからず、間の抜けた問いかけになってしまう。
袴の膝辺りまでの水面を、重そうに進んでいて、振り返りもせず、私の声には答えない。
水辺に入る前に、履物を揃えるのは、自分で覚悟を決めた時と相場が決まっている。
きちんと並んだ下駄を見て、私は悟った。
きっと自分で命を絶つつもりなんだわっ。
助けなきゃ!
