(創作大賞2024)大正浪漫チックな花嫁は恋する夫とお勉強がしたい【第三話】
「えっ? えぇーっと?
櫻子さん?
何? 何のことなんですか?」
風呂から上がって、長い髪が乾ききっていないまま、藤孝様の部屋へ入り込んだ。
私と藤孝様の部屋は隣同士。
帝大をご卒業なさるまでは、夜間に勉学に励まれることも多いとのことで、別々の部屋を用意されている。
それは遠回しに、藤孝様の勉強を、ジャマしてはいけないという事なんだろう。
不躾に部屋のドアを開けた私は、やってしまったと後悔しながら、モジモジと話した。
「ですからっ……あの……ワタクシの、あの部分はヘンですから、見せたくないのです」
「……? あの部分?」
藤孝様は首をかしげて、大きな勉強机から離れて、私に近づいてくる。
五尺八寸(※約175㎝)もある、すらりとした長い肢体に、均整のとれた小作りな顔。
キリリとした一文字眉が男らしくて、上品な口元はキュッと結ばれている。
藤孝様のお顔が、私は好き。
優しい微笑みを浮かべて、私に尋ねるような表情で見おろされた。
あぁ、なんて藤孝様は素敵なの。
それなのに、アソコを見ないで下さいなんて、部屋に飛び込んできた私はなんて、はしたない女の子なのかしら。
見られたくないのが、私の『股の間』だと言うのも、なんだか恥ずかしくて言えない。
「櫻子さんの、どこが変なんだい?」
寝巻の浴衣姿で近づいてきた藤孝様は、制服の詰襟や、背広をきっちりと着こなしている時より、色気がある。
ちらりと見える胸元が、大人っぽく見えてドキッとした。
あの奇怪なめしべが、なんていう名前なのか知らないわ。
えぇいっ、あのヘンな形のところを、見られなきゃいいんだもの。
「あの……ココです」
見せたくないと言いつつも、私は浴衣の裾をめくり上げ、薄い腰巻(※女性の肌着)を藤孝様に、ご披露する。
浴衣の裾が上がっていくに従って、藤孝様の目が大きく見開いた。
「さっ、櫻子さんっ。
ゆかっ、浴衣っ、浴衣の裾を下げなさいっ」
藤孝様は真っ赤になって私に抱きついて、浴衣の裾を下げるよう叫んだ。
「ごめんなさい、藤孝様。
お怒りにならないで」
藤孝様に窘められて、自分でも見せたいのか、見せたくないのか、矛盾した行動が、すごく恥ずかしくなる。
私はいつもこうだ。
深く考える前に、とりあえず身体が動いてしまう。
「ワタクシ、自分の……あの部分が、どのようになっているか見たことがなかったんですの。
だから、さっき鏡で見てみましたら……すっごくヘンなんですもの。
藤孝様に……嫌われたくないのです」
私は、藤孝様の胸の中で、泣きたい気持ちになりながら訴えた。
「はぁー」
頭の上から、深いため息が聞こえる。
やはり、嫌われてしまったのかしら?
だって昨日の夜、帝国ホテルの大きな寝台(※ベッド)で、藤孝様は私のヘンなところに、長い指を入れてじっくり観察してらしたもの……。
撫でるように触られるとすごく気持ちがよくて、おかしな気分になってしまったから、余計、私がヘンだと思われたんだわ。きっと。
「嫌いになるわけ、ないじゃないですか」
涙目になった私が見上げると、藤孝様は優しく微笑んだ。
「櫻子さんは、すべてが美しくて可愛い、僕のお嫁さんなんだから」
「藤孝様……」
私は、固くて広い藤孝様の胸の中に、しっかりと身をゆだねる。
あぁ、やっぱり藤孝様が大好きだわ。
あんな奇怪な部分も、受け入れてくださるなんて。
だけど、なるべくもう、あの部分は見せたくない……。
引き締まった藤孝様の胸の中は、ドキドキした。
女学校のお友達とも、『Sごっこ』と称して、女同士で抱き合ったりしていたけれど、やっぱり、男性と女性とでは身体が違うんだと、改めて思う。
(※大正時代当時、女性同士の恋愛のことをSと呼んでいた)
藤孝様、あの続き……してくださらないのかしら?
男女の交わりは、まだ出来ていないと、おっしゃっていたものね。
指で触れあうだけでは、まだ足りないんだわ。
藤孝様は、私の長い髪を撫でる。
髪を触られるだけで、胸が高鳴った。
「櫻子さん、まだ髪が濡れてるよ。
風邪をひいてしまう」
藤孝様は私から離れて、タンスの引き出しから、きれいなタオルを出した。
……もう、髪なんて、放っておいても乾くのに。
優しく抱きしめられて、私の気持ちが盛り上がっていたところに、本人から水を差される。
まじめな夫の藤孝様は、こういう時、胸の底から湧き上がるような、ムラムラとした気持ちにならないのかしら?
私だけ?
少しだけ、淋しい風が胸の奥を吹き抜けた。
「……学校のお勉強をお邪魔しましたわね。
ごめんなさい、失礼いたしました」
恥ずかしいような、切ない気持ちになり、なぜか涙が出そうになる。
私は、熱くなってきた目頭をタオルで隠し、自分の部屋に戻ろうと藤孝様に背を向けた。
「だめ。 櫻子さん、待って」
藤孝様は、私の浴衣の袂を掴み、私は再びその胸に抱きしめられる。
