(創作大賞2024)大正浪漫チックな花嫁は恋する夫とお勉強がしたい【第四話】
「一緒に……『お勉強』するんでしょう?」
見上げた藤孝様の顔は赤く、私も同じように顔が熱くなる。
涙はすっかり乾いてしまった。
大きな手で、優しく髪を拭いてもらい、私は手早く、髪をおさげに編んだ。
「へぇぇ、鏡も見ないで、自分の髪を編めるものなんだ。
本当に櫻子さんは、器用だな」
いそいそと、敷いてあるお布団の上に座って、藤孝様は私の手元を不思議そうに見つめている。
「女子ならばこのくらい、何ということも、ございませんわよ」
藤孝様から、紙を綴じるのに使う、つづり紐を借りておさげを留めると、私も藤孝様と同じお布団に入った。
いよいよ、なんだわ。
昨日よりも緊張しちゃう。
昨日は結婚式の後でもあり、豪華な洋式のホテルで、日常とはかけ離れていて興奮していたのもある。
しかも、私の奇怪な部分を、また見られるのかと思うと、身体が固くなった。
「櫻子さん……好きだ」
藤孝様は私の名前を呼ぶと、甘い口づけをして、手を震わせながら浴衣の帯にしている伊達締めを解く。
わっ、もう?
もう脱がせるの?
荒い息遣いになっていく藤孝様のことが、ちょっと怖くなった。
「あぁ……櫻子さんっ、可愛いよ……僕のっ……お嫁さん……」
昨日のじわじわと触っていくような感じとは違って、少々乱暴に藤孝様は私に触れていく。
「まっ……て、……ちょっと……痛いです」
「すまないっ」
ヒリヒリとした痛みに耐えていたが、正直に口をついて出た言葉に、藤孝様はパッと手を離す。
昨日はすごく気持ちよかったのに。
どうしてかしら?
その後も藤孝様は、切羽詰まったような顔をして私を触るが、一向に甘美なときめきは来ない。
更に私の身体は縮こまったように固くなり、ますます藤孝様は焦っている。
ひぃっ。
痛い、痛い、痛いっ。
こんなに痛いだなんて、どうやったってもう無理っ。
「いたーいっ!
痛いって言っているではありませんかっ」
私は言うが早いか、あまりの痛さに耐えかねて、藤孝様をつき飛ばしてしまった。
あの夜以来、藤孝様から、着物を脱がされたことがない。
「本当に、すまない。
あまりにも櫻子さんが可愛くて、つい興奮しすぎてしまって……。
我を忘れて焦ってしまった。
痛い思いをさせて、すまない……」
藤孝様は何度も何度も、私に謝る。
「いえ、ワタクシの方こそ、本当にごめんなさい。
つい、ほっぺを叩いてしまって」
あの時、どうやって私よりも体格の大きな藤孝様を突き飛ばしてしまったのか、無我夢中で覚えてない。
気がついた時には、藤孝様を突き飛ばしたあげくに、精悍できれいな左頬を平手打ちしていた。
女が男に手をあげるなんて、聞いたこともない。
「いや、大炊御門侯爵のビンタに比べれば、大したことないよ」
以前、藤孝様は私をかばって、私の実父に、盛大に頬を叩かれたことがある。
私も藤孝様を叩いてしまうなんて、親が親なら、子も子。
カエルの子はカエル、とは、このことだ。
「本当に、ごめんなさい」
「ね、僕は大丈夫だから。
櫻子さんの身体を大事にしてください。
もう痛くない?」
「大丈夫ですわ。
ですから、藤孝様……あの……」
「もう、櫻子さんに痛いことは絶対にしないから」
藤孝様は私を抱きしめ、優しく口づけをして終わりだ。
きっと、まじめな藤孝様は、私みたいに男女の交わりをしてみたいなんて、ふしだらなことは、考えないんじゃないかしら?
その上、藤孝様が私と繋がろうとしている時に、押しのけて叩いてしまうなんて。
暴力的な私のことが、嫌になったのかもしれない。
「櫻子さんの、可愛くて美しい身体を大事にしたいんだ」
そう言って藤孝様は慈しむように、そっと抱きしめてくださるけれど、すぐに身体を離す。
藤孝様は優しい。
だけど、あのとき以来、私に手を出そうとしないのは、私のことがキライになったから?
拒絶したような形になってしまった私が、実は、また甘美な刺激を与えてもらいたいなんて、不純な気持ちを持っていると藤孝様が知ったら、どう思うだろう。
そんなことを考えているだなんて、『卑猥な暴力女だ』って、ますます嫌われてしまうかしら?
あぁ、なんで私は、大事なところで、突き飛ばしてビンタする、なんてことをしてしまったの。
藤孝様があの夜のことを謝るたびに、私は後悔した。
気まずい雰囲気が流れると、藤孝様はそのあとに、何事もなかったかのように、取り繕って明るい口調で誘ってくれる。
「またアイスクリン(※アイスクリーム)でも、食べに行こうか」
そして、にこやかに休みの日のお出かけを、約束してくれるのだった。
