✨海原を泳ぐソアラ
「横須賀だ!」
わたしは泳ぎながら叫んだ。
ガラス越しにみえた横須賀は大きな海原で、
キラキラした魚のネオンがついた船がいくつも浮かんでいる。
ふりかえると
波間に浮かぶいかだの上に
ソアラはいた。
私の声が届くと同時に
ザブーン!!
ソアラはいかだを放り投げ海に飛び込んだ。
え??
いかだは波の間にのみこまれていく。
呆然といかだを見ていた私の横に、
バシャバシャともがくように泳ぐソアラがいた。
手も足も呼吸もめちゃくちゃだけれど、
懸命に前へ進もうとしている。
わたしを追い越して
強くやわらかい波に打たれながら
ソアラは叫んだ。
「わたしはずっと、泳いでみたかったの!」
ソアラを包む白くて黒い波たちと
その中に潜む岩礁とに
はらはらはらはらしながら
わたしは懸命に泳ぐソアラをみていた。

横で寝ている犬の
ぱたぱた身体を振る音で目が覚めた。
久しぶりに夢を見た。
「守れなかったな」
まだ瞼の裏に残るソアラの泳ぐ姿に
わたしは苦笑いする。
波にのまれ、岩にぶつかりソアラが傷つくのが怖くて、
夢の中でもわたしは彼女をいかだに乗せていた。
自ら泳いで、こっちなら大丈夫
ソアラをそうやって導いていたのだ。
けれど
ソアラはいかだを放り出し
海に飛び込んだ。
わたしは、波の中懸命に進もうとするソアラを
呆然とみているだけだった。
いかだも、手も、何も差し出せずに。
守れなかった?
そうだろうか。
わたしは本当に彼女を守っていたのだろうか。
転ばないように、傷つかないように
失敗しないように、泣かないように
風邪をひかないように
先回りして、安全な道を見つけていた。
だけどソアラは自分で歩いて
転んで、痛いと叫びたかったのかもしれない。
ぶつかって、傷ついて、悲しんで
自分の力で学びたかったのかもしれない。
そう思うと少し、とまどった。
もう一度目を閉じる。
前を懸命に泳ぐソアラがいる。
わたしは、波間に揺れる彼女をはらはらしながら見守る。
そうだ、それでいいんだ。
いかだに乗せて先回りするよりも
自分の力で泳ぐソアラをみていればいい。
波にもまれて、岩にぶつかりながらも
ソアラは自分の道をみつけていくのだろう。
わたしよりずっとずっと長く生きていくソアラを
わたしは後ろから応援していればいい。
夢がそう教えてくれた。

「ママあ、おはよう。」
ぴょんとはねた寝ぐせ頭で
ソアラは起きてきた。
歯磨きをしながら
昨日もきいた漢字テストの話を
うれしそうにずっと話している。
今日も1日が始まる。
またギリギリの時間になって
あわてたソアラの唇には
いつの間にか色付きリップが塗られている。
走っていくソアラの後ろ姿に
「いってらっしゃい!」
昨日より少しかみしめながら
わたしはドアを閉めた。

いいなと思ったら応援しよう!
🌸サポートいただけたらとてつもなくうれしいです。
頂いたサポートでたくさんたくさん記事を書いていきます。