住宅ローンシリーズ第4回 — 繰上返済と投資、どっちが先じゃ
「先輩、ボーナスが出ました」
おう、よかったの。
「50万円あります。繰上返済した方がいいですか、それとも積立を増やした方がいいですか」
来たな。住宅ローンを持っとる人間が、一生に何回も悩むやつじゃ。
「先輩はどっちにしてるんですか」
ワシか。ワシは両方やって、両方中途半端になった男じゃ。
「……相談相手を間違えた気がしてきました」
聞け。中途半端にやった人間にしか言えんことがある。今日はそれを話す。
繰上返済は「利回り0.475%の投資」じゃ
まず、いちばん大事な考え方から言う。
繰上返済は、貯金でも節約でもない。投資じゃ。
「……投資、ですか」
考えてみい。おめえが50万円を繰上返済したら、その50万円にかかるはずじゃった利息を払わんで済む。
「あ、そうか。払うはずだったお金が浮く」
浮いた利息=リターンじゃ。ほんで、そのリターンは何%かゆうと——
「……ローンの金利?」
そうじゃ。ローンの金利と同じじゃ。ワシなら0.475%。
「じゃあ、利回り0.475%の投資ってことですか」
そうじゃ。ほんでこの投資にはな、とんでもない長所が2つある。
絶対に元本割れせん
税金がかからん
「税金?」
投資で5%儲けたら、約20%の税金が引かれる。ほんでも繰上返済で浮いた利息には、税金がかからん。払わんで済んだ金に課税はできんからな。
「……あ、それは強いですね」
強いで。リスクゼロ・税金ゼロ・確実にリターンが出る。 こんな金融商品、他にない。
「じゃあ繰上返済が正解じゃないですか」
問題は**利回りが0.475%**しかないゆうことじゃ。
「……あ」
世界一安全で、世界一利回りの低い投資なんじゃ。
ほんなら投資の方が得なんか
数字を並べる。50万円を25年置いた場合じゃ。
| 選択 | 想定リターン | 25年後 | 確実性 |
|---|---|---|---|
| 繰上返済(0.475%) | 年0.475%相当 | 浮く利息は約6万円 | 確実 |
| 全世界株の積立(仮に年5%) | 年5%(あくまで仮定) | 約169万円(+119万円) | 不確実 |
「……差がすごいですね」
すごいじゃろ。ほんで、ここで「じゃあ投資じゃ!」と叫ぶ奴は、この表の右端を見とらん。
「確実性、ですね」
そうじゃ。5%は約束された数字じゃない。 25年の間に暴落は必ず来る。半分になる年もある。
ほんで繰上返済の6万円は、何が起きても6万円じゃ。
「……どっちを取るかって話ですか」
そうじゃ。ほんでな、今の金利水準(0.475%)なら、数字の上では投資が有利じゃ。これは正直に言う。
「言い切っちゃっていいんですか」
条件付きじゃ。ローンの金利が低いうちは、な。
ここで前回の話が効いてくる。ローンの金利が上がったら、繰上返済の利回りも一緒に上がるんじゃ。
「……あ! 金利1.5%になったら、繰上返済は利回り1.5%の投資になる」
そこに気づいたか。 ええぞ。
金利が3%まで上がったら、繰上返済は**「リスクゼロ・税金ゼロで年3%」**の商品になる。そうなったら話は変わってくる。
「金利が上がるほど、繰上返済が魅力的になるんですね」
そうじゃ。金利上昇は、借りとる側にとって全部が悪い話じゃない。返す価値が上がるゆうことでもある。
住宅ローン控除がある人は、答えが逆になる
ほんで、ここが今日いちばん実害のある話じゃ。
住宅ローン控除を受けとる期間中は、繰上返済を急ぐな。
「なんでですか」
住宅ローン控除ゆうんはな、年末のローン残高に応じて税金が戻ってくる制度じゃ。
「残高に応じて……あ」
気づいたか。繰上返済して残高を減らすと、戻ってくる税金も減る。
「……えっ、じゃあ返すと損するんですか」
場合による。ほんで控除率がローン金利より高い期間は、借りとる方が得になることがある。
「借りてる方が得……頭がバグりそうです」
バグってええ。制度がねじれとるんじゃ、おめえの頭は悪うない。
ワシの場合はどうかゆうとな、10年前に借りとるけぇ、控除期間はもう終わっとる。 じゃけぇワシは自由に繰上返済できる。
「僕がこれから買うとしたら?」
控除期間中は、繰上返済より積立を優先する方が合理的なことが多い。ただし控除の条件も率も年によって変わる。必ずその年の制度を確認せえ。
「先輩でも『確認せえ』しか言えないんですか」
税金の話で断言する奴は信用するな。 条件が細かすぎて、人によって答えが変わる。ワシが言えるんは「ここに落とし穴がある」までじゃ。
草むしりと種まき、どっちを先にやるか
「……で、結局どっちなんですか」
例え話をする。おめえ、庭のある家に住んどると思え。
「はい」
やることが2つある。草をむしるのと、種をまくのと。
「まあ、両方やりますよね」
草むしりが繰上返済じゃ。やった分だけ確実にきれいになる。ほんで地味で、誰も褒めてくれん。
種まきが投資じゃ。育つかどうかは分からん。ほんでも育ったら、草むしり100年分よりでかい木になる。
「……なるほど」
ほんで大事なんはここじゃ。草が家を壊しそうなほど伸びとったら、種まきより先に草をむしれ。
「草が家を壊すって、どういう状況ですか」
返済がギリギリで、毎月の生活が苦しい状態じゃ。この状態で投資の話をしても意味がない。まず返済負担を軽くする。それが先じゃ。
逆に、草がまだ膝下くらいなら——
「種をまいた方がいい?」
そうじゃ。 25年ゆう時間があるうちに種をまいた方が、木はでかくなる。時間は取り戻せんけぇな。
「……先輩、その例え、けっこう分かりやすいです」
たまにはええこと言うじゃろ。
「たまに、ですね」
ワシが今やっとる配分
正直に言う。ワシは今、こうしとる。
① 生活防衛資金は先に確保しとる(最優先)
生活費6ヶ月分は、投資にも繰上返済にも回さん。ここは動かさん。
「守る力シリーズでやったやつですね」
そうじゃ。家は残っても、現金がのうなったら詰む。 病気も失業も、来る時は急に来る。
② 積立は止めん
毎月の積立は何があっても止めん。ここを止めると、時間ゆういちばんでかい武器を失う。
③ ボーナスは半分ずつ
余ったボーナスは、半分を繰上返済、半分を投資にしとる。
「……それ、さっき言ってた『両方中途半端』じゃないですか」
そうじゃ。
「開き直りましたね」
聞け。数字で最適なんは、たぶん全額投資じゃ。 ほんでワシは、それをやると夜中に一回起きるんじゃ。
「起きるんですか」
起きる。ほんで、返済予定表を見に行く。
「……使う力シリーズで『睡眠は最強の投資』って言ってましたよね」
言うた。じゃけぇワシは、眠るために利回りを少し捨てとる。 これはワシの答えであって、正解じゃない。
「……でも、なんか納得しました」
金の配分にはな、数字の答えと眠れる答えの2つがある。両方が一致しとる人は幸せ者じゃ。 一致せん人は、眠れる方を選べ。
結局、何が大事なんじゃ
繰上返済は投資じゃ。 リターンは「ローン金利と同じ」。ワシなら0.475%。元本割れなし・税金なしという強みがある
反面、利回りは低い。今の金利水準なら、数字の上では投資(積立)の方が有利になりやすい
ただし金利が上がると、繰上返済の利回りも上がる。金利3%なら「リスクゼロで年3%」になる。金利上昇は借りとる側にとって、返す価値が上がるゆうことでもある
住宅ローン控除の期間中は要注意。 繰上返済で残高を減らすと控除も減る。借りとる方が得になる場合がある。制度は毎年変わるけぇ必ず確認せえ
順番は①生活防衛資金(6ヶ月分)→ ②積立は止めん → ③余った分の配分
草が家を壊しそうなら草むしり(返済)が先。膝下なら種まき(投資)を優先せえ
数字の答えと、眠れる答えは違うことがある。一致せんかったら眠れる方を選べ
次回は最終回じゃ。家は買うべきか、借りるべきか。 ローンを10年払うたワシが、もう一回だけ考える。
今日の参考書籍
まず、この3冊は全シリーズ共通の土台じゃ
📚 「本当の自由を手に入れる お金の大学」 リベ大・両学長 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
生活防衛資金の考え方から繰上返済の判断まで、この1冊で土台ができる。
📚 「ジェイソン流お金の増やし方」 厚切りジェイソン 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
「積立は止めるな」をいちばん短く言い切っとる本じゃ。迷った日に読め。
📚 「20代から始める新NISA 高配当株投資術」 プラズマコイ 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
ローンを抱えながらの積立配分が、漫画で分かる。
ほんで今回のテーマなら、この2冊じゃ
📚 「敗者のゲーム」 チャールズ・エリス 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
投資のリターンは約束されとらん。それを50年前から言い続けとる古典じゃ。繰上返済と比べる前に読め。
📚 「後回しにしない技術」 イ・ミンギュ 著
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「どっちにするか」で3年悩む人向け。決めんことが、いちばん損じゃゆうことが分かる。
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貯める力シリーズ第1回 — 家計改革の全体戦略(生活防衛資金の話)
使う力シリーズ第1回 — 睡眠と運動
出典・注記
記事中の試算は残債2,050万円・変動0.475%・残り25年・元利均等返済を前提とした概算。投資の年5%は仮定であり、将来のリターンを約束するものではない
住宅ローン控除の控除率・控除期間・対象条件は入居した年や住宅の種類によって異なり、制度改正も頻繁にある。必ず国税庁および最新の税制情報で確認すること
繰上返済の効果(期間短縮型・返済額軽減型)や手数料は金融機関により異なる
⚠️ 本記事は情報提供を目的としており、投資助言・借入の推奨ではありません。投資は自己責任で行ってください。税務の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
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