優しい組織ほど、なぜ決められないのか——「決めない優しさ」と判断基準の設計
会議で、誰も反対していない。
それぞれの意見に、一理ある。
参加者は真面目で、相手の立場も考えている。
それなのに、「もう少し整理してから」で終わる。
そういう場面に、何度も立ち会ってきました。
誰かが悪いわけではありません。
決まらない理由は、対立を避けているからではないように思います。
選ぶという行為が、誰かを否定することになってしまうからです。
3つの案から1つを選べば、2つは採用されません。
その2つを出した人に、採らなかった理由を伝えることになります。
優しい人ほど、その場面を避けたくなります。
だから、決定そのものが先送りされていきます。
事情を知っていると、線が引けない
その案を出すまでに、どれだけ調べたか知っている。
その人が、どんな事情を抱えているか知っている。
前回も採用されなかったことを、覚えている。
そういうことを知っているほど、却下しにくくなります。
優しさは、相手のことをよく見ているから生まれます。
だからこそ、判断の基準がないまま「どちらかを選ぶ」ことを求められると、相手の事情を知っている人ほど迷います。
これは、意志が弱いという話ではありません。
むしろ、相手をきちんと見ているからこそ起きるように感じます。
決まらない間も、仕事は止まらない
決まらないと、現場は動けません。
「まだ決まっていないので、待っています」という状態が続きます。
その間にも、問い合わせは来ます。関係部署からの確認も来ます。
取引先には、返事を待ってもらうことになります。
その一つひとつに対応しながら、「まだ決まっていません」と説明する。
その調整を引き受けるのは、たいてい現場に近い人です。
決定が先送りされた分だけ、確認や調整の仕事が増えていく。
誰かを傷つけないための優しさが、別の誰かの負担になっている。
そういうことが、起きています。
基準は、優しさを守るためにある
では、優しさを捨てて、厳しく決めればいいのでしょうか。
そうではないと思っています。
決められないのは、優しいからではなく、決める基準がないからです。
基準がないまま選ぶと、「あなたの案ではなく、この案を選びました」という話になります。これは、人を選んでいるように聞こえます。
でも、基準があれば、「今回は、この基準で選びました」と言えます。
たとえば、「今回はスピードを優先する」と先に決めておく。
すると、丁寧さで優れた案が選ばれなかったとしても、
それは案の質の否定ではなくなります。
選ばれなかった人にも、理由が伝わります。
次に何を出せばいいかも見えます。
判断の基準は、いつも同じである必要はありません。
ある場面ではスピードかもしれない。
別の場面では、顧客への影響や現場の負荷、やり直しのしやすさかもしれません。
大切なのは、「正しい基準」を一つ決めることではなく、
今回は何を優先して決めるのかを、先に言葉にしておくことです。
そうすれば、基準は人を縛るルールではなく、誰の案かではなく、何を優先するかを見ながら決めるためのよりどころになります。
基準は、判断を冷たくするものではありません。
むしろ、優しさを守るためにあります。
まとめ
優しい組織が決まらないのは、優しさの問題ではありません。
何を優先して決めるのか、その基準が共有されていないだけです。
基準があれば、優しさは判断を止めるものではなく、
判断を支えるものになります。
決められない場面が続いているとしたら、それは誰かの決断力や意志の問題ではなく、「何を基準に決めるのか」がチームの中で共有されていないからかもしれません。
違いのあるメンバーがいても、誰か一人の判断や頑張りに頼らず、
チームとして考え、決められる状態をどうつくるか。
その考え方を、管理職向けの研修として整理しています。
違いを活かすマネジメント研修【導入版】
