「AIで作れる」と「AIで回せる」は違う ─ 作った後に残る仕事の話
「AIを使えば、誰でもアプリが作れる」
「コードが書けなくても、AIに任せれば大丈夫」
そういう話が増えました。
実際、AIの力を借りればWebサイトもアプリも驚くほど短時間で形になります。
それ自体は素晴らしいことです。
でも、私のところには最近、こんな相談が来るようになりました。
「AIで作ってもらったけど、希望通りにならなかった」
「工程がオーバーして、中途半端なまま打ち切られた」
「変更をお願いしたら、連携元が全部バラバラだから自分だけでは対応できないと言われた」
これを聞いて、既視感がありました。
昔、同じことが起きていたのを、私は知っています。
第1章 20年前のホームページと、今のAI開発
2000年代、「ホームページを作ります」というビジネスが急増しました。
HTMLが書ける人、Flashが使える人が、個人や小さな会社のWebサイトを作って納品する。
当時はそれだけでも価値がありました。
(「操作は消える、判断は残る」のKindle本にも書きましたので興味がある方は手に取って読んでいただけると幸いです)
インターネットに自社の情報を載せること自体が、多くの企業にとって新しい挑戦だったからです。
ところが、作って納品した後に問題が起きました。
「テキストを1行直したいのに、制作会社に頼まないと変えられない」
「制作者と連絡が取れなくなった」
「別の人に引き継ぎたいけど、何がどうなっているか誰にもわからない」
作ることはできた。でも、回せなかった。
今、AI開発で起きていることは、構造としてこれとかなり似ています。
AIツールを使えばコードは生成できる。形にはなる。
でも、それを運用し、変更に対応し、不具合を直し、成長させていく。
その部分が、最初から設計されていないケースが少なくないのです。
第2章 「すぐ作れます」の裏側
最近、AIコーディングツールを使って「誰でもすぐアプリが作れる」と売りにしている方が増えています。
AIの力で開発のハードルが下がったことは事実ですし、それ自体は歓迎すべきことです。
ただ、私のところに来る相談から見える風景は、少し違います。
ある方は、AIで作ってもらったシステムの変更を依頼したところ、
「データベースの設計が複雑に入り組んでいて、部分的な変更ができない」と言われました。
AIを使って短期間に実装が進んだ一方で、設計意図やデータ構造、変更時の影響範囲が十分に共有・文書化されておらず、人間が読み解きにくい状態になっていたのです。
別の方は、途中で要件が変わったときに工数が爆発し、予算を超えた段階で打ち切られました。
中途半端な状態のシステムが手元に残りましたが、続きを別の人に頼むにも、どこまで何ができていて何が未完成なのかがわからない。
これは、開発完了の確認まではしていても、
「運用できるか」「変更できるか」「引き継げるか」というCheckとActが設計に入っていない状態です。
「作れました」で終わっている。
「作った後、誰がどう維持するのか」
が最初から考えられていない。
第3章 人間チームとAIチーム、見直しのサイクルが違う
前回の記事で、PDCAはチームで回すものだという話を書きました。
そこに、ある読者の方からコメントをいただきました。
離島の小さな会社で、役割を分けたAIチームと一緒に仕事をしている方です。
うまくいった話より、やらかした話のほうが多い連載をnoteで書いておられます。
その方のコメントにこうありました。
「一人で回そうとしない。この一行を読んで、自分の手元を数えました。うちも係を分けて回していますが、増やすほど役目が重なって、誰の仕事か曖昧なところから抜けが出ます。いまは新しい係を作る前に面接をして、既にいる係と役割が被れば採りません。置くときも試用の期間を決めています。分けるだけでなく、被らせない手間のほうが要るのだと感じています。」
この「面接」「採る」「試用期間」という言葉。
人間の採用の話に聞こえますが、AIエージェントの導入プロセスとしても読める。
どちらにしても、言っていることの本質は同じです。
役割を増やすなら、被りを確認してから入れる。
入れたら試す。
合わなければ外す。
ここにPDCAが回っています。
しかも、この方は失敗した運用も全部記事にして公開している。
つまり、Checkの結果を隠さず、Actとして次に活かしている。
この実践の中に、もう一つ大事なことがあります。
人間のチームメンバーなら、成長する。
昨日できなかったことが来月にはできるようになるかもしれない。
だから見直しのサイクルは、数か月単位でいい場合もある。
でもAIは、とくに外部提供のサービスでは、モデル更新や仕様変更によって、同じ指示でも出力傾向や得意・不得意、ツール利用の挙動などが変わることがあります。
昨日までうまくいっていたやり方が、アップデート後に通用しなくなることもある。
逆に、新しい機能が急に使えるようになることもある。
だから、AIチームでは、人間チーム以上に、
役割・権限・評価基準を定期的に見直す必要がある。
そしてその見直しをするのは、やはり人間です。
→ この方(影山ヨウさん)のnoteはこちらです:https://note.com/kageyama_yo
「離島の小さな会社。AI社員チームと働く実践記。AIチームと共同執筆。」特に、マガジンの『AI社員と働く実践記』─面白いなと思いました。
第4章 「直しておいてあげる」ではなく、「一緒に走る」
私は自分のアカデミーで、AIの使い方を教えています。
そして時々、「AIで作ったものがうまく動かない」という相談を受けます。
そのとき私がやるのは、直しておいてあげることではありません。
一緒に走ることです。
「ここがこうなっているから動かない」を一緒に見て、
「次にこういうことが起きたら、こう切り分ける」を一緒に覚えて、
「それでもわからなかったら、また一緒に見ましょう」と言って送り出す。
なぜかというと、直してあげた瞬間に、その人は「次に何か起きたらまた頼るしかない」状態に戻るからです。
20年前のホームページ制作と、同じ構造です。
作った人がいなくなったら回らない。
これを防ぐには、作る段階から「回す人」を巻き込んでおくしかない。
AIが作ったものであっても、回すのは人間です。
回す力を渡さずにモノだけ渡してしまえば、結果として「依存関係」を作ってしまう。
現役時代も、そうやって一緒に走ってきました。
第5章 「作れる」の先にある本当の仕事
AIの進化によって、「作る」のハードルは確実に下がりました。これからもっと下がるでしょう。
でも、「作れる」と「回せる」の間には、いくつもの仕事があります。
変更が出たときに、どこを直せばいいかわかる構造になっているか。
不具合が出たときに、原因を切り分けられるか。
作った人以外の誰かが、引き継いで改善を続けられるか。
AIツールや外部サービスのバージョンが変わったとき、何を確認すべきか決めているか。
AIや外部サービスの設定変更時に、権限・接続先・扱うデータを再確認できるか。
これらは、「作る」スキルとは別のスキルです。
そして、これらはPDCAの「C」と「A」を回すために必要な仕事でもあります。
引き継げる構造を最初から設計するのは「P」の仕事でもあるし、ツール更新時の確認項目を決めておくのも「P」に含まれる。
つまり、PDCAのどこか一つではなく、サイクル全体にまたがる話です。
前回の記事で、PDCAのCheckを飛ばすとAIの誤りがActに直結する、と書きました。
それと同じことが、ここでも起きています。
「作る」というDoだけがあって、その前後が設計されていない。
Planは「こんな感じのものが欲しい」という曖昧な要望だけ。
Checkは「動いた」の確認だけ。
「運用できるか」「変更できるか」「引き継げるか」まで含んでいない。
これでは回らない。20年前もそうだったし、AIの時代でもそうです。
第6章 だからPDCAは、まだ必要なのだ
ここまで読んでくださった方の中には、こう思う方もいるかもしれません。
「それはPDCAの話というより、プロジェクト管理の話じゃないか」
その通りです。PDCAはプロジェクト管理の一部です。
でも私が言いたいのは、「PDCAという言葉を使え」ということではなく、「作った後のことまで含めて設計する習慣を持ってほしい」ということです。
名前はなんでもいい。
PDCAでもOODAでもアジャイルでも。
大事なのは、
作る前に考える。
作ったら確認する。
確認したら直す。
直したらまた回す。
そして、それを一人で抱え込まない。
チームで回す。
AIエージェントもそのチームの一員として役割を持たせる。
でも最終的に見るのは人間。
「AIで誰でも作れる時代」は、同時に「作った後の面倒を誰が見るのかが問われる時代」です。
離島の小さな会社で、AIチームと一緒に失敗しながらPDCAを回している方がいます。
「被らせない手間のほうが要る」と言い切れる人がいます。
新しいツールを手にしたときに問うべきは、「これで何が作れるか」ではなく、「これを作った後、誰がどう回すのか」です。
古い問いかもしれません。でも、まだ答えが出ていない問いです。
人間が主役であり、AIは最強の右腕。
右腕に作らせたものを、誰が育てるのか。
その答えを持っている人が、これからの時代に必要とされる人だと、私は思います。
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本記事の前編にあたるPDCAの考え方については、こちらにまとめています。 →「PDCAは古くない。回し方を間違えているだけだ ── AI時代に改めて問う『繰り返す責任』」
ゆめみの森アカデミーでは、AIで作ったものを「自分で回せる」力を育てることを大切にしています。 → ゆめみの森アカデミー
AIで作ったあとに、「変更できない」「誰も仕組みを説明できない」「アップデートで動きが変わった」と困った経験はありますか? そのとき、何があれば回し続けられたと思いますか? ぜひコメントで教えてください。
